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第百三十二話 言うならば姉妹



 満足げに、振り抜いた右手を掲げるチャチャ。


「何か言うことあるかしら」


「それは……遺言って認識でいいのかな」


 死ぬつもりは無いんだけど。そんなことを呟きながら立ち上がるリィ。殴られた部分に赤く跡を残し、そこへ手を当ててひぃひぃ言っている。


 リィから感じられる魔力は凄まじいものだが、それを脅威と感じないジーンであった。先程の剣戟を止めたのはジーンの意志であり、別にリィに受け止められたわけではない。


 寸止めをしたのは、完全にリィが防御の対応をしなかったから。


 直感でしかなかったが、あのまま斬りつけていればそれで終わっていただろう。それではダメで、ジーンは元よりリィを殺すつもりは無いのだ。


「あんたはミィと話をしなさい」


「ふぇ? それは……ちょっと……」


「それくらい、できるわよね?」


「こっちにも事情というか……その、」


「できるわよね?」


「はい、させて頂きます」


 最後にはには背を丸めて、ペコペコと小さく上下に頭を動かすリィ。その姿は、およそ敵のボスである人間とは思えないものであった。


 しかし、ではどうしてドートはボロボロの姿で地に伏しているのか。


 明らかに戦闘があったと思われる状況ではあるだが、それをリィがやったとはどうしても思えないジーンである。


「あ、もういいんじゃないか」


「……む、そうか」


 むくりと、何事もなかったかのように立ち上がるドート。相も変わらず汚れは目立つものの、その動きは軽いものだった。


 この瞬間を狙っていたようで、にんまりとするリィ。いたずらが成功した子供のようであった。


「遊び心ってものを忘れちゃいけない、ってね」


「……状況を考えてくれ。俺らは敵同士。遊んでなんか」


「んむ? 敵なの?」


 試すように。少し笑った顔が、どこか先程とは違った印象をジーンに感じさせる。


 空気がガラリと変わった。とまでは言わないが、ピリとしたその視線に不快感を感じることになる。


「……敵だろ」


「ん~、正解! 君達にとって、僕は倒すべき存在だ。それは間違いないね」


 望んでいた返答だったのか、明るい声でそう言い放つリィ。やけにジェスチャーと言うべきか、身体の動きが目立つ。元々の個性なのか、大げさにジーン達を煽っているのか。


「だけど、君たちはこうも思っている。妹の、ミィのために殺しちゃいけない、ってね」


 それがどうかしたのか。何が、おかしいのか。


「甘い。甘すぎるよ。悪の根源は、殺してでも消さなきゃダメだ」


 リィのその言葉は、殺してでも止めてみろとでも言いたげな。そうじゃなきゃ困るのか、そうなることを望んでいるのか。


 誰しも自分を殺してくれなどと思うことなど、ないだろう。それは物語の中だけの、特異な感情だ。


 そう思っている連中には分かるはずもない、リィのその言葉。


 ぱすんっ……。


 掠れたフィンガースナップの音が虚しく響き、一時の静寂が訪れる。誰もが言葉を発することができず、何か言おうかどうしようか悩む微妙な間。


 実際ジーンもチャチャも発言のタイミングを逃してしまっていた。誰だったか、喋ろうとしたのか声を出す予備動作の直後。


 背後で物音がする。


「痛ってぇ……」


「なんなのよ、急に……?」


 振り返れば未だ到着していなかった二人が居た。ソチラを下敷きにタマが尻餅をついているのを見るに、意図的な行動ではなかったらしい。


 タマはジーン達と目が合うと「やっほー」と手を振る。も、その奥にリィが居ることに気付き動きが固まる。


「あ、これどういう状況です?」


 ソチラもジーン達に気付き、声をかける。自分の上にタマが乗っていることは完全に気にもしていないようで、嫌がる素振りすら見せない。


 ニコニコと手を振るリィに気付き「あ、どうも」と、うつ伏せのままま頭を下げるソチラであった。


「どういうつもりだ」


 ジーンはリィに問う。


 何が目的なのか分からない以上、警戒をしなければいけない。そもそも呑気に会話をしていた時点でおかしいのだが、今更感が拭いきれないのは無視。


 リィのペースに乗せられたままではダメだと、改めて思ったのだろう。仕切り直しだとばかりにキリィっ、と表情を引き締めるのだった。


「彼女を呼んだのさ」


 蒼白く揺らめく光。燃え上がるように広がるその光の中から、一人の少女が現れた。


 虚ろな瞳。微動だにしない身体。重力を無視した髪の揺らぎ。創りモノのような、整った容姿。


「……誰だよ」


 紹介を促すジーンの言葉。


 人ではないことは直感で分かっていた。精霊でもないことも、分かっていた。ジーンやチャチャ、ソチラは似た雰囲気の存在を知っていた。


 ティティは信じられないのか、何も言わない。冷静に、ただ観察するだけ。古くからの友人と同じ格の存在。唯一だと思っていたが、どうやらそれは思い違いであったらしい。


「一言で言えば……神様だね。皆も何となく分かるでしょ?」


「貴様らが勝手に祀り上げてるだけじゃねぇーのか?」


 既に自分の中で答えを導き出しているのに、ティティはそう聞いた。認めたくないのだ。アレが、うーちゃんと同じであるということが、認められないのだ。


 久しく感じる、尖った魔力。初めてうーちゃんに出会った時と同じような、拒絶するような。うーちゃんはそれと同時に助けを求める想いも感じることができたのだ。しかし、目の前にいるモノは拒絶だけ。


 正気であれば近づきたくはないだろう。


「ハハハ、ティティさんも分かってるでしょうに。星を創ったのが創造神とするのなら、彼女は言うならば星導神。この星を導く存在だよ。今は眠っているようなものだけど」


「星を……導く存在?」


「そう。君達はもう知ってるよね。この星がどういった結末に向かっているのか」


 頭に浮かぶのは、ちびチャチャが見せてくれたあの世界。


 ちびチャチャは世界は必ず破滅するのだと、そう語っていた。その元凶が彼女なのか。彼女をどうにかするのが、破滅を回避する方法であるのか。


「そいつが破滅へと導いてるってわけか?」


「残念、ハズレ。眠ってるって言ったでしょ。実際に彼女が導いてるわけじゃない。まぁ、彼女のせいで世界が破滅するってのは間違いないけど」


「……私にも分かるように説明してよ」


 チャチャが言う。それに同意するように、夜桜やエルはうんうんと何度も頷く。


「ハハ、ちょっとイジワルだったか。本来、彼女は世界に破滅が訪れないように星を導くのが役割だ。でも彼女は眠ってしまっていて、それができない状況が続いてる」


「破滅を回避するための最重要人物が不在、ってことか」


「ん、そんな感じだ」


 どうして眠っているのか。どうしてこんな場所に居るのか。


 知らないことであるのか、意図的に情報を隠しているのか。リィは薄く笑った顔を崩すことなく、次の行動に移るのだった。


 ぱすんっ……。


 再び、あの掠れた音が響き渡る。



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