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第十四話 輝く想い




 明日の予定をジーンから聞いた後、チャチャとミィは今晩泊まる部屋に来ていた。


「またあそこに行かないといけないんだね~。まぁでも、大事な手掛かりなんだから気合い入れていかないとねぇ」


 ベットの上で横になっていたチャチャが言った。


 横になった事で気が抜けたのか、その口調は少しふにゃふにゃとしている。


「うん! もしあの湖が知ってる湖なら、もっと奥まで行かなきゃかもだけど」


 ベットは二つある。チャチャが寝転がっていない方のベットへ座り、ミィが言う。


「もっと奥かぁ。魔物はジーンが倒しちゃうから、明日は私にもやらせて、ってお願いしないといけないなぁ」


「ちーねぇ、何でちょっと嫌そうなの?」


「嫌っていうか、ジーンに迷惑かけちゃうなぁって思って。私、まだジーンみたいに強くないから……」


 チャチャは指をいじいじしながら言った。


「あっ、覚悟は決めたから、どんなに大変でも投げ出したりはしないからね!」


 ミィは心配するような顔でチャチャを見る。そのことに気が付いて、身振り手振りでやる気があることを伝えようとするチャチャ。


「ちーねぇ、大丈夫だよ! ジーンも迷惑なんて絶対思ってないし、それに私も応援する! 巻き込んだ私が言うのも変かもだけど


 ミィは「へへっ」っと笑って、そう言った。


「巻き込んだとか、そんな言い方はやめてよ。もう私達仲間でしょ? そんなこと気にしてたらこの先やってけないよ?」


 ミィが責任を少なからず感じていると、チャチャはそう思ったのだ。


 気にしないように。そうミィに伝えてはいるが、本人は気付いていない。


 仲間だから気にするな。その言葉は、先ほどの自身の発言と矛盾しているのだ。


 チャチャにとってはどちらも本当の気持ちなのだろうが、ジーンがこの話を聞いていたら「チャチャも、そんなちっちゃなこと気にすんな」と、そう言うはずなのだ。


「ちーねぇは、ジーンのことが好きなんだよね?」


 ボソッとミィが呟く。探るようなその言葉に、一瞬でチャチャの鼓動が速度を上げる。


「な、何を言って、そんな……そんな訳ないでしょ!?」


 顔を真っ赤にして弁解するのだが、その反応だと大抵の人は図星だと思ってしまうだろう。


「そんな顔されて言われても、説得力がないからね」


 ミィはクスクス笑ってそう言った。あうあうとチャチャが必死に言葉を探しているが、中々相応しいモノは見つからない。


「別に好きってわけじゃ……。そ、そんけい。そう! どっちかっていうと尊敬よ!」


 実際、好きという気持ちよりも尊敬や憧れの思いの方が強いのは事実であった。しかし、その言葉でミィへの誤解が解けることはない。


 「ふ~ん」と面白げに言うだけで、ミィの中ではチャチャはジーンが好きという構図が出来上がってしまっていた。


「し、信じてないでしょ! 絶対、ジーンに言っちゃダメだからね!」


「はいはい、分かったよ~」


 また一つ悩みが増えたと、大きくため息をつくチャチャ。


「…………」


「…………」



 暫く、会話の無い時間が流れる。


「……ちーねぇも、気にしなくて良いと思うんだ」


「えっ?」


「ちーねぇも、ジーンも仲間なんだから、迷惑なんて気にしなくても良いって思うんだ」


「…………そうだね」


 少しばかり暗い雰囲気が嫌になったチャチャ。体を起こし、おもむろに枕に手を伸ばしていく。


 ミィはそれをぼーっと見ているだけ。完全に無警戒であった。


 それを横目で確認し、チャチャはニヤリと笑う。


「ばふっ」


 突何が起きたのか分からないまま、顔に衝撃が訪れる。


 チャチャの手から離れた枕が、ミィの顔面に着弾したのだ。


「やっぱり、枕投げはやりたくなっちゃうよねっ」


 くすっと笑われながら聞こえたチャチャの言葉。それでようやく状況を理解するミィである。


 顔に枕を乗せぷるぷると震える。当然ミィの手が枕に伸びていき、投擲の動作に入る。


「わたし……久しぶりに怒っちゃいましたから!」


 枕を思いっきり投げつけるミィ。狙いもばっちりで、スピードに乗った枕がチャチャの顔目掛けて飛んでいく。


「甘いわ……甘すぎる。その程度で届くと思ったか!」


 目をカッと見開き、魔法でミィに枕をはじき返すチャチャ。使ったのは風魔法だ。


 魔法を使えないミィにとっては、為す術が無い。返ってきた枕をどうすることも出来ず、再び顔面で枕を受け止めることになった。


「ず、ずるいよちーねぇ!」


「どんな状況でも全力を尽くすのが相手への礼儀! ミィが枕を投げた時点で勝負は始まっているのだ!」


「なんかしゃべり方すら変わってるよ!」


 何度も枕を投げているのだが、チャチャにそれが届くことは無い。何度も何度もミィの顔に返ってくるだけである。


 その度に「ぶぅ」とか「べぇ」とか様々な声を上げるミィ。それを面白がって、枕に回転を加えたり当てる位置を微妙にずらしたりと、その技術は凄まじいものである。


 ただ、ミィが何度も顔で枕を受け止めたのは無駄ではなかったようだ。飛んでくる枕を、徐々に捌き始めるミィ。


「……私にはもう通用しないよ!」


 遂に、ミィがチャチャからの猛攻を見極める。


 その頃には既に枕は四つ飛び交っていた。この戦がどれだけ激しいモノだったのかが分かるだろう。


 数分に渡って行われたこの合戦は、唐突に終わりを告げる。


 二人の体力が尽きるより、枕の限界が先に来たのだ。


 一つはチャチャの魔法に耐え切れず爆発。一つはミィが投げた瞬間に四散。


 残りは二つとなる。部屋は枕の中身で散らかってしまっているが、今の二人にはそんなことはどうでもよかった。ただお互いの力をぶつけ合う事しか頭にない。


「これで終わり!」


「させない!」


 チャチャが先に仕掛ける。が、それを阻止しようとミィが枕を投げつける。


 二つの枕が互いに引かれ合うようにぶつかる……はずだったのだが、それぞれが相手の顔面目掛けて直進していく。


「ばぁ」


「べぇ」


 お互いにそのまま顔で枕を受け止める。柔らかい枕だったのが救いだろう。怪我も無く終戦を迎えることになった。


「……さっきからうるさいぞ……って何やってんだお前ら」


 勝負が終わって暫くした頃、ジーンが様子を見に部屋に訪れる。ジーンが行った時には、もう二人はおしゃべりに興じていたのだが……ジーンもタイミングが悪かった。


「な、なに勝手に入ってきてんのよ!」


「ノックぐらいしてください!」


 二人は一つベットの上。向き合う形で抱きついていた。


 当然枕がジーンの顔目掛けて飛んでいく。普段のジーンならば余裕で避けられるのだが、


 避けてはいけない。


 第六感が避けるという選択肢を真っ先に潰した。結果、二つの枕を何もできないまま顔面で受け止めてしまう。


 ジーンを無理やり撃退した後、再び沈黙が続くことになった。


 二つのベットは少し離れていて、それがまた微妙な距離感を生み出す要因にもなっていた。


「…………」


「…………」


 先に言葉を発したのは、チャチャ。


「なんだか妹が出来たみたい」


「……可愛い妹に枕を投げつける姉がいるんですか?」


「……」


「……」


「私ね、ミィとはまだ一日しか一緒にいないけど……なんだか不思議な感じ。長い間、友達らしい友達がいなかったからかな」


「……ミィは、ちーねぇと会えて、その……嬉しい」


「ミィは自分のこと名前で呼ぶんだね」


「……おかしい、かな」


「そんなことない。ほんとの自分を出してくれたってことでしょ?」


「……」


「もし、それを変だって言う奴がいたら私がぶっ飛ばしてやるから」


「……うん」


「……」


「……」


「そっち、いってもいい?」


「……ん」


「ちーねぇ。これから、これから何が起きても……どんなに大変でも、一緒にいてくれる?」


「それは……まだ分かんないかな。覚悟は決めたけどまだ不安はあるし、逃げちゃうかも」


「……」


「でも、ミィが私を必要だと思ってくれるのなら、頑張れる気がする」


「えと……言葉で伝えるのは、なんだか恥ずかしい……」


「……」


「……だから、これ」


「ん? これ?」


「昔、ミィがお母さんに貰ったの。親愛の証なんだって」


「大事なものなんでしょ? それに……」


「いいの。それはね、渡した相手のことを大切に想ってる限り絶対に壊れないし、そうやって光り続けるの」


「……大事にする」


「……うん」


「……ぎゅってしていい?」


「……ん」


 二人がお互いを想う気持ちはまだちっちゃなもの。


 何かの拍子に崩れてしまいそうな、そんな繋がり。


 小さくも温かい光は、二人を見守るように輝き続ける。


 今も、これからも。





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