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第百二十四.?話 一方その頃7



視点チャチャ



「…………」


 焦げ臭い部屋。黒く焼けた景色の中、二か所だけある不自然に綺麗な場所の一つに立っているのはチャチャ。


 目の前の光景を認識した時、ある程度のことを悟ってしまったチャチャ。そして確認のため、信頼するパートナーへ声をかけることに。


「あんたでも、無理だったのね」


「……すまん」


「謝らないでよ。あんたは悪くなんかないんだから」


 イッチーへと目を向ければ、その向こう側に誰かが居るのが見える。


「ばっ、化け物……」


「悪魔……だ……」


 彼の後ろには、本来の色であったのだろう白の床や壁があった。そして、敵であるはずのを者達も。イッチーは彼らを庇い、盾となるべく行動したのだ。


 彼の顔には安堵の要素はない。辛く、目を逸らしたいのを我慢するかのように必死だった。


「化け、物……」


「……っ!」


 投げかけられた言葉を復唱し俯くチャチャ。敵に対する遠慮など一切ない態度から、本心であるのだと分かってしまう。


 チャチャの魔力が変わるのをイッチーは感じ取る。色で例えるなら、黒く暗く、濁ったような色。それは、決して良いものだと言えるはずもない変化であった。


 爆発的に広がる魔力の圧力。攻撃的なその魔力に、イッチーでさえ危機感を覚えてしまう。大丈夫だと思っていても、胸の中のざわめきは大きくなる一方であった。


「ははっ、ええそうよ! 私は化け物! あんたらを焼き尽くす化け物よ!」


「やめっ――!」


 イッチーが止める間もなく、炎の波が創り出される。逃げ場のない包囲攻撃に、イッチーの後ろに隠れる者達は怯え叫ぶことしかできない。


 最悪だ。そう思うイッチーであった。


 暴走。自棄。諦め。チャチャがもしも全てを捨てる選択をしてしまったのなら……。


「戦う気がないのなら私の前から消えて」


「ひぃっ」


「おた、お助け……」


 逃げ道をわざと作っていたチャチャ。誘導するように炎の壁で道を作っているあたり、彼女の優しさを感じられる。


 唯一の出口へと一目散に向かっていく征服派を横目に、小さく息を整えるチャチャである。


「……馬鹿ね。その時が来たら躊躇っちゃだめよ?」


「…………ああ」


「もー、迷ってくれるのは嬉しいけどホントにダメ。私のせいで世界が滅茶苦茶に、なんて絶対嫌なんだから」


 受け子であることを破滅帝から聞いて一ヶ月と少々。その時は信じられない、というよりも納得してしまったチャチャであった。思い当たる事の方が多く、理由が見つかって逆に安心した部分もあったのだ。


 個人的な問題で片付けられるほど軽いものではない。重い枷とでも言うべき役割に、チャチャが仲間との間に壁を作ってしまった時間は決して短くはなかった。


「そろそろ限界かも、なんて弱音は無しよね。さ、早くリィのとこ行きましょ」


 明るく振る舞って、大丈夫だと伝えたいのか。無理かもと諦めた姿を見せ、心配して欲しいと伝えたいのか。


「……くそっ」


「おーいーてーくーよー!」


 既に壊れかけている彼女の傍に居ることしかできない自分が情けない。染まっていくその変化に胸を締め付けられ続ける。いつまで正気でいられるのか。


 背に感じる熱がまるで自分を責めているように感じ、汗が滲む。


 吹き抜ける風が勝手に批判の声に変換され、怒りが込みあがってくる。


「絶対に守るからな」


 何度もチャチャへと伝え続けた言葉は、いつしか自らを奮い立たせる言葉へと変化していた。それに本人が気付くことはない。


 相談はしない。なぜならチャチャがそう願ったから。というのもあるが、もう一つ理由がある。相談すれば間違いなくチャチャという存在は消されてしまうからであった。


 誰に?


 穢れを祓う存在に。


 穢れを祓う存在とは?


 この世界を浄化する存在。つまりは精霊だ。


 精霊の最上位たる存在ティティが“チャチャは受け子である”と知れば、即刻チャチャの首を刎ねるだろう。


「ねぇねぇ、帰ったら何しよっか?」


「ちょ、今はリィに集中してくれ」


「えー? ま、あんたに聞いたのが間違いか。ジーンとどっか出掛けよっかなぁ」


「だから! そーゆー話はしない方が良いって!」


「どしてよ」


「それはほら、前に言っただろ。物語とかの中だと未来の話をしてる奴から死んでくんだって」


「あー。すまぬな!」


「気いつけろし」


 どこからか湧いてきた魔物を斬り捨てながら、突貫を続けるチャチャ。それを魔法で援護するイッチー。


 会話できる程度には生温い敵からの攻撃。守る気がないのだろうか、と疑問を持ったとしても進む以外に選択肢はない。


「一番乗りだと思う?」


「知らね」


「…………次あんた前ね」


「は? 接近戦苦手って知ってるよな? 嫌がらせか?」


「うん。そう」


「んなそんなニッコリ言われても」


「ほら。来たわよ?」


「ちょ、え? 本気か?」


「(にっこり)」


「本気か」


 仕方なしにチャチャの前に出るイッチーである。要はチャチャより前に居れば問題無しなのだ。敵との距離を保ったまま戦えばイッチーとしてもまぁいいか程度で流せる。


 流せるのだが、まぁ。嫌がらせとは相手が嫌がることをする行為であり、イッチーは嫌がってはいない。ならばやることは一つだろう。


「えいっ」


 人の指サイズの氷塊が無数に魔物へと襲い掛かる。


 もちろん。チャチャの前に居る者全てが対象になるわけであり、仲間であっても例外は認められない。


「あぶねっ!」


 身体をくねらせ回避するイッチーであった。


「何かあるとは思ってたけど流石に」


「それっ」


「だからあぶねぇっ!」


「はいっ」


「そおぉぉいっ!」


 わざと避けられるような逃げ道を用意している辺り、チャチャも避けさせることを目的としているようだった。


 本来は避ける必要はない。イッチー程の実力があれば無効化することもできるのだが、絶妙に調整されたそのちょっかいに自然と身体が動いてしまうイッチーであった。


「これっ」


「こうだなっ!」


「つぎっ」


「甘いな……はっ」


 徐々にそれを楽しんでしまっている自分に気付き、動きを停止させるイッチー。同時に、襲い掛かる魔物の処理も止まったことで、無防備になってしまう。


「ゆだん?」


「してねぇ」


「へぇー、そっかそっか」


 実際どうにでも対処はできた。が、隙があったことは事実。急に恥ずかしさが込みあがってくるイッチーは、チャチャから顔を背けてしまうのだった。


 赤くなっているであろう顔を見られたくない、という心理は誰にでもあることだ。それを上手く利用したチャチャの勝ちであった。


「じゃあね」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 




 淡く残った光が消えていく。


 繋がりは切れ、独り。


 孤高のあの日々に逆戻り。


 腹を殴られたような。足が竦んで。


 突然の裏切り。最初で最期の、たった一度の裏切り。


 怖い。苦しい。辛い。


 心の準備などしているはずもない。


 何が。どうして。


 なぁ……。


 答えが帰ってくることなどありえない。


 繋がりが消えたのだから。


 呼びかけることも。探しに行くことも。


 居ない。あいつが居ない。


 …………………………。


 光が、消えた。




…………

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