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第百二十四.?話 一方その頃5



視点ドート



 徹底的にやってやる。見えるモノは全て壊さなきゃな。


 手始めに、と天井をぶち抜くドート。派手に音を立てて迫る瓦礫を気にもせず歩き出す。


「っていやなんで?」


 地上との距離はさほど遠くない。五、六メートル先には施設外の景色が広がっていた。しかし、流れ込んでくるのは新鮮な外気ではなかった。


「穢れが酷いな」


 身体に纏わりつくかのような、重く濁った環境。空気の入れ替えどころの話ではない。汚れたモノが目に見えていると錯覚しそうになるドートであった。


 幾程の年月をかければ浄化できるのか。負をひっくり返すだけのエネルギーが必要になるのか。ぼんやりとしか予測できないドートは、頭を抱える思いで瓦礫の隙間を歩き進んでいく。


 扉を前に、爆撃開始!


 ドッゴォォオオ!


「いやだからどして?」


 身体が先に動いてしまうドート。そして彼自身でそれをつっこむ。


 二つの人格が交互に入れ替わっているのではないか。いや違う。


 これが彼のルーチンであるのだ。


 人前では常に冷静な態度を見せるドートだが、それは彼の本来のモノではない。単独での行動時もしくは特定の人物と接する時だけは、違った振る舞いをしていた。


 基本的にはドーシルと同様のはしゃぎたい派であるのだ。一緒になって笑い合ったりふざけ合ったり。それが昔よりの彼の姿だった。


「よぉ。リィに会いたいんだが……案内頼めるか?」


「馬鹿にしてる?」


「いやいやそんな」


「これだけ派手にやってくれちゃって。私だって怒ってるのよ」


「あー、それは。すまん」


「あなた、謝れば済むと思ってる口でしょ」


 纏めた銀髪を右肩に乗せたつり目の女。強大な力を見せつけられたことにも臆することなく、敵として障害として盾としてドートの前に立ち塞がる。


 今さっきぶち開けた扉から登場した彼女は、土煙を無視して歩き出てくる。


「こっほこほっ!」


 結果、盛大に(むせ)てしまうことに。


「……無理しなくていいんじゃないか?」


「うるさ――ごほっごほ!」


「あーもー言わんこっちゃない」


 戦闘どうこうの話ではなかった。ドートは既に戦意喪失。咳き込む彼女を敵として認識していなかった。


「このくらい自分でなんとかできないんなら出てこない方が良かっただろ」


「っ触るな!」


 一層に目を尖らせ、携えていた剣を思いきり突き出す銀髪サイドポニー。


 ずぶっ


「――ぁ、」


 声を漏らしたのは、誰だったのか。ただ、胸を貫かれたドートではないことは確かであった。


 人を刺すのは初めてだったのだろう。人を傷つけるのは初めてだったのだろう。目の前の光景が信じられないといった様子で、突き出した腕を震わせる。特徴的だったあの強気な眼も、力なく垂れ下がってしまっていた。


 恐怖を隠すこともなく、自らの行動を悔いる余裕すらなく。ただいたずらに時間を浪費しこの状況を身体に染み込ませていく。


「ちがっ、ぁ……」


 ドートが倒れゆくのを見ることしかできないスリム美女。


 私のせいじゃない。私がやったんじゃない。目の前の光景を否定し、受け入れ入れることを拒否し、認めることを拒絶する。


 結果、数秒遅れサイドポニー美女はへたり込んでしまった。


「……ばぁっ!」


「っきゃあああぁぁああ!!」


「ぶべしっ」


「な、なななん、で……?」


「おー痛ぇ。急に蹴るとか酷い」


 生まれたての小鹿とはよく言ったもので、プルプルと震える彼女は正にそれであった。


 自分が刺したのは間違いない。認めたくないけど、それは事実。だがしかし、何故目の前の男は立ち上がるんだろう? と疑問を浮かべることしかできないサイドポニースリム。


「で、どうだ。分かっただろ?」


「な、何がよ」


「人を殺す覚悟が無いってことが」


 ドートは最初から気付いていたのだった。実際に事が起きた場合を見せることで、己の姿を自覚させることで、無用な戦闘を避けるのが計画だったのだ。


 回りくどい方法をする必要はなかったのではないか。そもそもそんな事をする必要すらなかったのではないか。


「……でも私はやらなきゃダメなの」


「どして?」


「助けてもらったから、私はリィにお世話になったから……」


「ふーん。じゃあ、リィまで案内頼むわ」


「ちょ、あんた話聞いてた?」


「ドートだ。あんたじゃなんだし、そう呼んでくれ」


「……ほんと勝手。リィの敵なんでしょ、そんな人は案内しないって言ってるの」


 ドートも譲らない。つり目銀髪も譲らない。


 リィの位置などおおよそ掴んでいるのにもかかわらず、頑なに目の前で座り込むつり目サイドポニーの相手をするドートである。


「煮るなり焼くなり好きにすればいいよ」


 震える声を最後まで聞き、やれやれと歩き出す。


 諦めてくれたと安心する銀髪サイドポニーだったが、そんなことはなかったと気付いた時には既にドートの腕の中。


 重力を無視するかの如くふわりとさらさらサイドポニーが靡く。


 予想外過ぎて反応できなかった。ではなく、反応させる気などなかったが正解。今日イチの機敏さでスレンダー銀髪を抱き上げるドートであった。


「――ちょちょちょちょぉお!?」


「うし、行くか」


「行くって、ちょっとまっぁぁぁああ!?」


 絶叫としがみついてくる微々たる握力。なぜ彼女のような者が保護されていたのか。


 もっと彼女のことを知りたい。


 ……もとい知るべきだと思うドートであった。



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