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第百二十四.?話 一方その頃3



 ソチラ視点




「……暗いな」


「……暗いわね」


 目を開けているはずなのに、何も見えない。転移は成功したはずなのにどういうことだ?


 取り合えず、明かりを……。


「不用心ね」


「うぇっ? ダメだった?」


「敵の罠だったらどうするのよ」


「いやでもさ、見えないのは見えないので危険だろ」


「そうね。心配しなくても大丈夫よ。あんたが何をしようがつっこむ気満々だったから」


「あーそう」


 タマとの付き合いも長いけど、なんだろ。


「タマは優しいよな」


「っはぁ!? 何言っちゃってんの急にホントきもいんだけど」


 ハハハ。これマジでキモイって思ってるやつだ。それが分かるのが辛みなんだよな。調子に乗るとすぐこれだよ。


 ま、昔に比べればマシにはなったのか。


「それで、どっち行こうか」


「あーやだやだ。自分で行き先も決められないおこちゃまのお守りは大変だわ」


 ソチラ脳内変換後『私はあんたに任せるわよ』


「じゃ、こっちにしようか」


「え~? 冗談?」


 ソチラ脳内変換後『それは面白そうね』


「はっはっは。面白ければ笑っていいんだぞ?」


「それこそ冗談」


 ソチラ脳内変換後『それこそ冗談』


 ソチラ脳内変換第二『くそつまらんわ早よ行け』


「いざ、進めや壁の向こう側へ!」


「もっとスマートにできないのかしらね」


 ソチラ脳内変換『私が援護するから好きなようになりなさい』




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 少しの相談の後、思いっきり壁をぶち破るソチラ。物置のような部屋の出口ではない方向へと進路を取る。『だってリィっぽい反応はこっちからするんだもん』という単純な考えのもと、行動した結果であった。


 その意見を反対することもなく、逆に面白そうだと了承したタマ。サポートは任せておけとばかりに、ソチラの背中を押すタマなのである。


 埃を巻き上げ、一斉に部屋の外へと追いやる。すると、見えてくるのはまた同じような部屋。


「武器庫か?」


「ガラクタ置き場でしょ。これとか錆びてて使えそうにないし」


「要らないなら捨てればいいのにな」


「……要るから取ってあるんでしょうね。ばか」


 何かを察するタマであった。


 精霊を無理やり契約させてしまう征服派。大量のガラクタ同然の武器。そして、微かに感じる魔力の痕。


「早く助けてあげないと」


「リィが優先よ。元を断たなきゃ、また捕まっちゃう子が出てきちゃうから」


「おっし、やっぱり最短距離でだな」


 再び壁を粉砕するソチラであった。暗く続く倉庫を、何度も。何度も壁を貫き続ける。


 どうして扉を開けなかったのか。壁を破壊して進むという選択肢を選んでしまったのか。


 彼らのノリがそうであったというだけ。


 たとえ扉一つ先に通路があったとしても、気付くことがなければ通路など存在しないに等しい。たとえその通路を利用していた仲間がいたとしても、気付くことはないのだ。


 昂った感情を抑える役目が不在の場合、それなりの行動が先に実行されてしまう。何が最善何が最悪。そんなものは関係ない。がむしゃらに突き進むのみなのである。


「うわぁ!? なんだ貴様!?」


「黙らっしゃぁぁあい!」


「ぬわぁあ!?」


 偶然引き当てた避難部屋。一目で非戦闘員だと判断したソチラは、彼らに斬りかかる代わりに壁へと飛び蹴りを放つ。


「さらばぁ!」


 避難者たちは敵襲なのかどうか理解する間もなかった。穴の開いた壁を交互に見て、怯えることしかできない。施設が破壊される音が遠のいていくことで危機が去っていったのだと、そう安堵するのだった。


「ほっといていいの?」


「タマも何もしなかったじゃん? それが答えってなもんよ」


「なによそれ」


「俺はタマを信じてるってこと」


「テキトー言ってる」


「はっはー。今はリィのことしか頭にないからな!」


「優先順位私の方が下なんだ」


「うーん! 返答に困るね!」


「ちょ、ばか! 前まえ!」


「うぇ……?」


 ごちーん!


 不自然に生えていたパイプに、顔面を埋め込ませるソチラ。スピードが乗っていた分、ダメージも大きい。


「絶対鼻血出る」


「……鼻血で済めばマシでしょ」


 ヒリヒリと痛むのを我慢し、まじまじとぶつかったパイプを観察するソチラ。顔面と言えども鉄をも砕くほど強化されたソチラの顔面である。多少なりともへこんでいるだろう、という感覚は裏切られた。


「めちゃくそ頑丈じゃねえか」


「はいあんたの負け―」


「勝ち負けあるのかよ!」


「敗者は黙っててくださーい」


「むぎゅ」


 無理やりにソチラを押し退け、今度はタマがパイプを観察することに。


「……せいっ」


 がらっガランッ


 スパッと一刀両断。一瞬の間は迷いだったのか、思考することを放棄したタマはパイプを二か所ぶった切ってしまう。


「なんだ。いけるいける」


「『なんだ。いけるいける』じゃないっ! いかにも大事そうなもん壊すなって!」


「あんたばかぁ? 大事そうなモノなら今のうちに壊しとくべきでしょ」


「はっ、確かに……!」


「ま、軽率だったのは認めるけど」


「安心しろ。タマが斬ってなきゃ俺が斬ってた」


「同じ思考回路とかサイアクなんだけど」


「いぇーい」


「ハイタッチ求めんなし」


 なんだかんだ言って仲の良い二人である。


「こんだけ大事に守ってたんだから、何かあるよな」


「そう、ね。結構強い魔力で覆われてたみたいだし、何か分からないけど壊しておいて損はないでしょ」


「じゃ、ちょっと寄り道するか?」


「反対はしないわ」


 つまりは賛成である。


 リィへ向かう道中、見るからに怪しいパイプを発見した二人は寄り道を決定。右へ左へを相談することなく、二人は自然に右へと歩き始める。


 何故か。


「せぇい!」


 壁があるから。わざわざ行き止まりであろう方向へと進む二人であった。


 隣は部屋があったから良かったものの、壁続きだったらどうするつもりだったのだろうか。そのまま掘り進んでいくつもりだったのだろうか。


 パイプを頼りに右へ左へ。分かれ道はじゃんけんで。素直に通路を進めば紡がれたであろう物語は数知れず。それでも二人は壁を前にする。


 力任せに右へ左へ。細いも狭いも関係ない。大きな壁となったのは文字通り。それでも二人は立ち向かう。


「よしっ」


「やっと着いたわね」


 そして二人は目に。無数のパイプの収束点。煩雑に整列されたパイプの先にあったのは……


「精霊、じゃない……?」


「魔力が、集まってる……? それに……」


「「誰?」」


 暗く狭い空間に、発光するのは。深く渦巻く魔力に、全てを吸い込まんとするのは。


 球に近い多面体の中。長く散らかった髪を広げ、体を丸めているのは。少女とも、少年とも見て取れる外見。ヒトなのか、精霊なのか。


 二人の感覚は、そのどちらでもないと判断していた。だが、似ている存在感は知っていることに戸惑うこととなった。


「うーちゃん?」


「でも、うーちゃんは……」


「ああ。あんなにも気味の悪い感じじゃない」


「じゃあ、あれは……?」


 そして、


「――――」


 それは目を覚ます。




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