ひとりじゃない
番外編的な
「出発は明日。大丈夫ですか?」
神子の部屋を出た後は、ソチラとのお話合い。
大丈夫もなにも、やるしかないことはソチラも分かっているはずだ。それでもこうして直接問うということは、ソチラもジーンのことが心配なのである。
ゼーちゃんに対する想いの強さは、既にその眼で確認しているソチラ。ジーンだけではない。
チャチャも、ミィも、イッチーやミカだって。心配に思う気持ちは変わらないのだ。
「……ま、いつも通りってわけにはいかないよな。どうしても、うん。考えちゃうんだよ」
諦めたわけではないのだろう。でも、気持ちが切り替えられているのがソチラには分かった。声の調子、顔の表情からそう判断するのであった。
「いい天気だな」
「そうですね」
話題を無理やり逸らすかのように。はぐらかされたことに気付きつつも、それに付き合うソチラであった。
陽の光に照らされ輝く景色に、自然と朗らかな笑顔がつられてしまう二人。遠く漂う白い雲を目で追い、心地よい風に心を揺らす。
目を閉じれば、感じるのは陽の温かさ。そして、あたまを塗りつぶす淡い香り。
呑気な時間に惹かれたのか、そこへ合流する者達が。
「なによ二人して。緊張感はどこに置いてきちゃったのかしら」
そうは言いつつも、ジーンの隣へと腰を下ろすチャチャ。
近すぎず、遠すぎず。一緒になって、今この瞬間を受け入れるのだった。
「ここは戦場じゃないからな」
髪を揺らすのは風じゃない。
心の迷い。それを誤魔化すかのように。
緑の音は消化されることなく、瞼の裏で積み重なっていく。散らかった雑音は、彼女の心のように。
吹き抜ける風と共に、そんなものも流されていく。
「皆してどうしたの? ひなたぼっこ?」
チャチャの隣へと座り、ちょこんと服の袖をつかむミィ。
「そんなとこだ」
「そんなとこね」
袖を掴んだのは、不安の現れ。
触れることのできない陽の光ではなく、確かにそこある光。
逃げるのは間違いじゃない。けれど、進まないのは正解じゃない。
頬を撫でる風に、元気づけられたのは気のせいじゃない。
「風邪、ひかないようにな」
「……ああ」
こんなにも暖かいのに。こんなにも心地よいのに。
奥底までは満たされない。
あんなにも悲しかったのに。あんなにも辛かったのに。
きつく締められたものはどんどん緩んでいく。
目の前にないはずの、触れることも感じることもできないはずの。
それでも確かに、彼女は居る。
都合の良い解釈なのだろう。ただの思い込みなのだろう。気のせいだと、笑い飛ばされることなのだろう。
「……ちーねぇ」
「ん?」
「楽しいね」
「……そうね」
聞こえる会話に、微笑むのは一人ではない。
身を寄せた四人の気持ちは同じであるのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まじんなくていいのか?」
読書をしつつ、問いかけるのはイッチー。帰ってくる答えもなんとなく分かっているだろうに、彼はそう問う。
「僕らは違うからね」
「ま、そだな」
窓を開け、ひなたぼっこをするジーン達を見守るのはミカ。
自然と眠気を感じてしまうほど、長閑な時間。小さな埃ですら気付かないほど優しい風。
「いらっしゃい」
誰にかける言葉だったのか。振り向くことはなく、おもむろに目を閉じ呟くミカ。
少し淀んでいた空気を追い出し、いたずらだとばかりにページを捲っていく。
再び訪れた緑の流れをただ感じるだけ。
「涙って、どうしたら流れるんだろうね」
「……さあな」
二人とも、短い変化に大きく心を揺らすのだった。