表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/347

第百二十一話 さいごの




 手枷足枷を身につけ、刃を突き付けられるような感覚を全身に受けている。一歩でも踏み出してしまえば、即断罪されるであろう中。私だけを晒し続ける光の中で。


 闇の中より刺さる否定拒絶の感情。隔たれた見えない壁の向こうには、既に私の居場所などないかのように錯覚させられる中で。


「またね」


 神子様の言葉を最後に、視界が暗転する。


 私の事情など知ることもなく。


 自分達が見ている景色しか受け入れないのは、誰だってそうなのだろう。正義ではない存在を受け入れるなど、悪だと線引かれたモノを赦すなどあってはならない。そう考えるのは、普通であるのだろう。


 何も聞こえない。それは構わない。


 何も見えない。それも構わない。


 何もしゃべれない。それだって構わない。


 でも。ひとりは耐えられない。


 誰にも声をかけられず。誰にも認識されることもなく。誰とも想いを語り合えない。


 耐えられるはずもない。


 床に張り付けられ、信じた仲間の顔を見ることもできない。私の想いを伝えることができないのが、こんなにも苦しいことだったなんて。


 怖いよ。ずっとこのままなんて。


 ……どこからが、本当の気持ちだったんだろう。どこまでが、偽りの気持ちだったんだろう。


 確かに恨んでいた気持ちはあった。何もかもをメチャクチャにしたいって気持ちも、確かにあった。でも、今は不思議とそんな気持ちは湧いてこない。


 どうしてだろう。


 操られていたって自覚は無い。騙されてたなんて、もっと分かんない。何が嘘で、真実だったのか。それを判断する力なんて、昔の私にはなかった。


 言い訳だ。昔の過ちは、今の私が責任をとらなければいけない。


 助けて。そんな言葉を使えるほど、私は強くない。……今となっては、そんな言葉すら届けられないけどね。


 あーあ、お父さんにも悪い事しちゃったな。今更、全部思い出すなんて。


 それにしても、おじいちゃんも酷いことするよね。行動範囲を限定させてさ、私の感情すらも制限かけちゃってさ。


 でも、やっぱり私の知ってるじいちゃんって、もっと優しい感じだったんだけどなぁ。全部見せかけだったのかな。


 確かに思い返しても具体的な話は出てこないけど、うーん。イマイチすっきりしないなぁ。


 ……悔しいんだな。たぶん、悔しいってのはこういうことなんだろうな。


 何のために生まれてきたんだろう。小さい頃の記憶なんてないし、思い出せる範囲の思い出には既におじいちゃん居るし。


 最初っから、私には自由なんてなかったんだろうか。好きなことしてきたって、そう思ってたけど違うのかな。


 私が、本当に心からやりたいことって、なんだろう。偽りの気持ちじゃないモノって、どれなんだろう。


 分かんないなあ。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 神子によって隔離されてしまうその姿すら見せて貰えず。


 助けようとしたのは、幻想に過ぎなかったのだ。二年前救えなかった時点で、こうなるのは確定していたようなもの。遅いか早いかの違いであった。


 そうとも知らず、ただ己らの願いを叶えようとした結果がゼーちゃんの永久的な隔離だ。


 どうにかなるだろう。なんとでもなるだろう。


 目の前の欲望に、望むままの未来を掴もうとした。それが悪であるのか。


 ジーン達にとってはそれが願いであり、悪だと思うはずもない。しかし、他の人間からすればどうか。


 多くの街を破壊した。多くの仲間を葬った。多くの、想いを踏みにじってきた。


 そんな存在を仲間に引き入れるのは、悪である。


 神子としても、どちらの事情も知った上での判断だった。存在の消去ではなく、隔離。それが最終的に決定されたことであった。


 これまでにない大きな喪失感。


 どうしてこうなった。なんでこうなった。頭を抱え、ふさぎ込むのは弱さか。全てを受け入れ、仕方がないと切り替えることが、それが強さだと言うのか。


 立ち止まっている暇はない。元凶と思わしき人物、リィをどうにかしないと、負の連鎖は止まらない。


 だから、前を向く。


 涙が止まらなくとも。


 一人で立ち上がれなくとも。


「いこうか」


 監視が解かれたのは、ゼーちゃんの隔離が終わった後。


「……分かってる」


 ジーンは痛む身体を動かし二人に次の行動を促すと、先にチャチャが部屋を出ていく。


「止めなきゃな」


「……うん」


「辛いか?」


「…………うん」


「そっか」


「でも、大丈夫。やれるよ」


「……そっか」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 



 神子より、新たな指令が下ることになった。


 新入りは二人。ジーンが連れてきたエル。そして、チャチャが連れてきたドラン。二人ともジーンの旧友である。更には夜桜も加え、かつての仲間が揃ったことに。


 偶然か、必然か。よく耳にする言葉ではあるが、再会を喜び合った気持ちは偽りのないものである。些細なことを気にかけることなどするはずもない。


 エルと夜桜は、ジーン達とともに戦闘員として。ドランは、後方支援に回されることに。


 そして、次の作戦がいよいよ本番とも言える内容である。神子の言葉を聞き、一気に身が引き締まることとなった。


「次で終わりだ。期待してるよ」


 いつも通り、とはいかなかったらしい。神子とて、緊張をするものなのであった。


 自らの思惑から外れた存在など、早く解決したいのは当然である。それでも、ジーンにとって何が最善なのか。チャチャにとって何が最善なのか。ソチラにとって何が最善なのか。ミィにとって何が最善なのか。


 それを常に気にかけ、そのためにできることをしたのだ。


 神子が望むのは、最高のハッピーエンド。誰かが泣く未来など、掴み取るに値しないのだ。


 もっとも、神子の思うハッピーエンドの中に存在するキャラクターなど、数えるほどしかいないのも事実であるが。


 彼が彼女らが笑える未来に付随して、周囲もそのようになっている。というだけである。


 特別であったからこその、特別な我儘というやつだ。理想を追い求め、始まりを探求し、終わりを見届ける。全ての過去は、未知の終わりを知るため素材。


 今日も今日とて、神子は道を歩き続けるのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ