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第百十八話 エルの戦い



 一方その頃エルは、転移してきた魔物と戦っていた。


 上空での出来事など把握する余裕もなく、目の前の敵に集中しているのだった。


「マインヴァッフェ、あいんす、べふらいうんぐ……!」


 このままではこの状況を突破できない。そう考えたエルは、マインヴァッフェのリミッターを一つ解除する。


 それにより、防戦一方だった戦況が変わっていくことになる。


 相手の一歩先を行く素早さに、敵の防御力に負けない破壊力で一気に反撃に移るエル。


「まずは、一体……!」


 エルの動きに戸惑った隙を突き、四体いた魔物の内の一体を撃破する。


 この段階で既に、エルの勝利は確定していた。力の一部を解放したエルの敵ではない、ということである。


「終わり……!」


 最後の一体を大きなハンマーで叩き潰したエル。エルの基本武器はハンマーなどの、叩きつけるもの。大きな力を持つマインヴァッフェは、剣術などの細かい動きには向いていないのである。


 そして戦いが終わった後、ジーンが居るであろう上空を見上げるエル。


「……何やってるんだろ」


 そこにはたった一人、ジーンが浮かんでいるだけである。エルにはゼーちゃんが見えないためであった。


 自分ではどうすることもできない。ならばこのまま待っているのか。


 エルは違った。ジーンに言われた通り、先に帰っていようと思考を切り替える。


 ドンッ!!


「いてっ……」


 だがだが、張られた結界はエルを帰すつもりがないご様子。


 一発パンチをぶつけても、破れる気配は無い。


「まぁ、待ってればいいか」


 ならば仕方なしと、休憩に入ろうとするエルであった。がしかし、敵さんはそうはさせてくれないらしい。


「またきた」


 さっきよりも強そうな魔物が一体。イノシシのような、大きな図体をしているその魔物は一直線にエルへと突っ込んでいく。


「無駄」


 しかし、エルは焦ることなくそれを打ち返す。一瞬拮抗したかに見えた両者のぶつかりは、エルのホームランで幕を閉じる。


「……また?」


 エルを試すかのように。


 順番に魔物が出現して、それをエルがぶちのめす。それが何度も繰り返されることになった。


「流石に、キツイ」


 一体一体は大したことないにしろ、それが続けば消耗していくのは当然であった。しかも今は第二段階まで解放した状態。より消耗が激しいからこそ、困った状況であるのだ。


 ジーンへ呼び掛けても反応は無く、意図的に声が遮られていると判断するエル。


 私がこんなに大変なのに何やっているんだ。そうは思っても、あちらはあちらで大変なんだろう。何か事情があるのだろうとも思うエル。


 今度美味しいものでも奢ってもらおうと、そう心に決めるだけにとどめておくのだった。


 そんなことを考えている間に、次の魔物が出現する。今度は今までの魔物とは少し違っている様子である。


「ぐっ……強い……っ」


 筋肉モリモリで金砕棒を片手に振り回し、頭にはチョコンと角を生やして。


「おにぽん……!」


 童話や絵本でよく見かけるキャラクター。おにぽんそっくりであったのだ。実物を見られて、少なからず興奮度が増すエル。


 しかし、マインヴァッフェの圧倒的なパワーも通用しない程に、おにぽんも同等以上の大きな力を持っていた。油断できる状況ではない。


 そして何度か武器をぶつけ合って、このままでは負けるのはこちらだと悟るエルである。


 消耗だなんだと言ったところで、結局今死んでしまっては元も子もない。それが分かっているエルは、ある判断を下す。


「つゔぁい、べふらいうんぐ……!」


 そう。リミッターを解除すればいいのだ。


 今まで押し負けていたのが一転、おにぽんの武器を吹き飛ばすエル。マインヴァッフェの性能がまた一段階上昇し、おにぽんをボコ殴りにしてくエル。右へ左へハンマーを振り抜き、おにぽんをタコ殴りにしていくエル。


 もうやめてあげて! おにぽんはもう息をしていないよ!


 満足したのか、エルは攻撃を止める。


「うぅ~びぐれんつぉん~……」


 もう終わりにしてくれとばかりにその場に座り込み、再び制限を掛けて低燃費モードへと移行するエル。


 でもでもやっぱり、そんな願いが届くことはない。エルの事情なんてお構いなしに、次の魔物が出現してしまう。


「やるけど、さ」


 一度切れかけた集中を、無理にでも繋ぎ直すエル。見れば今度の魔物も、中々に危険そうな雰囲気を醸し出している。


 おにぽんとは打って変わり、機動力を重視した体型をしており、イヌやオオカミのような容姿であった。


「マインヴァッフェは、まはとだけじゃない。つゔぁい、べふらいうんぐ……!」


 一気にリミッターを二つ解除するエル。


「ふぉーむらー、ぶりっつ……!」


 更には形態変化を加える。変化と言っても、多少全体的に細くなっただけではあるが。


 しかし、性能の変化は目を見張るものがあった。


 まさに電光石火。稲妻のごとく魔物へと接近するエル。敵も負けじと動き回るが、それもエル程ではなかった。


 エルは武器を鉤爪へと変更しており、魔物の爪とぶつかり合うたびに火花を散らす。もしも結界が無ければ、暴音暴風で周囲へ被害がでていたことだろう。


「……おわり」


 マインヴァッフェの性能を存分に発揮させられたこと。それはエルも喜ぶ点であったのだが、流石に疲れが溜まり限界が近かった。


 でもでも、それでも敵は現れる。


「…………」


 エルもうんざりといった顔。それでも戦わなければ死ぬわけで、抵抗しないという選択肢はない。


 だがだがしかし、戦闘始め! といったところで、ようやく終わりを告げることになる。


「俺、参上」


 上空より飛来し、盛大に土煙を巻き上げる。


 何やらおかしな恰好だが、待ちに待った助けが来たのだった。


「遅い」


「おう、すまん」


「今度、美味しいモノ食べさせて」


「おう、任せとけ。……え?」


「……楽しみ」


 エルには見えていないが、ゼーちゃんを抱えたジーンである。登場と同時に魔物を焼き焦がし、地面に埋葬するのも忘れない。


「僕、もう動けない、から……」


 心底安心したエルは、マインヴァッフェから降りての観戦モードへ入る。


「ま、暫く呆けていたからな。その分は働かせてもうおうか」


 ジーンはゼーちゃんの対応に追われていたのではないのか。否。ゼーちゃん行動停止後、ただただ呆けていただけであったのだ。


 つまり、エルのピンチはジーンのせいである。


「……ばか」


 戦闘終了後も、暫くの間は機嫌の悪いエルであった。




2021/06/19

・エルの一人称を修正

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