第百十七話 奥底の本音
「困った時には」
『うーちゃん! うーちゃん!』
「……は?」
全ての空気をぶち壊し、
「いつでもどこでも」
『うーちゃん! うーちゃん!』
「……えーっと……?」
ゼーちゃんとジーンの前に現れたのは、
「うーちゃん登場なのです!」
『うーちゃん! うーちゃん!』
創造神うーちゃんであった。
「えぇ……? うーちゃんはお留守番じゃなかったっけ」
口上の合間に入るうーちゃんコールには触れることなく、ジーンはうーちゃんに確認を取る。
「うーちゃんはいつでも自由なのです! 誰にも縛られることはないのです!」
「あぁ、まぁ。うん」
創造神だしな。そんな風に思うジーンであった。理解するしないではない。理解させられたのだった。
うーちゃんと過ごしてきた時間の中で、深く考えるだけ無駄だと学んでいたジーンである。
ただ、ジーンはそれで終わりなのだが、ゼーちゃんはうーちゃんの登場により益々頭を悩ませることになっていた。
「はぁ!? 誰よそいつ! ジーンってば女の子ばっかり引き連れて、なんなの!? ジーンのエッチ!」
「うぇっ!? ちょ、いや、ゼーちゃん!?」
「ん~? 何なんですか君は~? うーちゃんとジーンの邪魔をする気なんですかね~?」
全ての事情を把握したうえで、うーちゃんは面白がってそう言った。ついでと言わんばかりにジーンの右腕に抱き着き、私達仲良いでしょ? 的な挑発をしかける。
「ちゅっちゅ~。このままだとジーンはうーちゃんのものかな~?」
わざとらしくほっぺにチューをする仕草を見せつけるうーちゃん。流石にジーンも慌てふためく場面、なのだろうが至って冷静なジーンであった。
実のところ、チャチャ相手にもこんな感じだったため慣れてしまっていたのだ。慣れとは恐ろしいものである。
そもそもジーンはうーちゃんのことを子供と同じだと認識しているのも相まって、それが普通で日常であるかのようにゼーちゃんの目には映ってしまう。
絶賛混乱中のゼーちゃんは、二人がお似合いのカップルであると錯覚してしまう。何故チャチャではないのか。というおかしな点に気付くことがなかったとしても、それは仕方がないのかもしれない。
「だ、だめっ! ジーンと一緒になるのは私なんだとらよ! どこぞのあんたなんか認めたくないとらよ!」
ゼーちゃんは混乱の絶頂を向かえてしまった様子である。あれだけ壊す殺すと言っていたのにもかかわらず、今は一緒に居たいと言っている。
ゼーちゃんも負けじと空いている方の腕にしがみつき、べえ~っ! とうーちゃん相手に威嚇をする始末。
「ねぇジーン。わ、私の方がいいよね?」
瞳ウルウル。不安そうな上目づかい。焦って早口になるゼーちゃんが問いかけるが、ジーンにとっては超難問。もごもごと言葉にならない声を発することになる。
そうだと答えればゼーちゃんを喜ばせられるだろう。
「(いやしかし、俺にはチャチャが……っど、どうすればいいんだ……!)」
この場を収められても、その後がよりややこしい事態になってしまうだろう。これは一体どういうことなの? と般若の形相でチャチャに迫られるのが目に浮かぶ。そのため、ジーンに残された答えは否定のみだった。
少しの沈黙に、遂には泣き出しそうな顔を見せるゼーちゃん。ウルウルとした目に心を折られそうになるジーンだったが、ぎりぎりと右腕をつねられる感覚に奮い立たせられる。
「俺は――」
「はい、プッつんなのです!」
意を決したジーンであったが、その言葉を中断させたのはこの状況の元凶うーちゃんであった。ゼーちゃんのおでこに人差し指を置くうーちゃんだが、それが何を意味するのかジーンには分からない。
「これでおっけなのです。あとは任せた! なのですよ」
ボフンっ。と煙に包まれ消え去るうーちゃん。一々演出が凝っているのはいつも通りではあるのだが、今回はいつも以上に荒らすだけ荒らして去っていくのだった。
「ほんとに、何だったんだ……」
自由になった右腕から温もりが消え、少なからず寂しさを感じつつも自然とゼーちゃんの肩に手を置くジーン。うーちゃんがプッつんした後、何も反応が無いのが心配になる。
目は開いてるが、何処を見ているのか。自分に視線が向けられているはずなのに、ゼーちゃんと目が合わないことに不安を感じてしまう。
うーちゃんのことだから、洗脳だとか記憶の改ざんだとか酷いことはしないはず。だけど、こうもゼーちゃんの様子がおかしいのは我慢ならない。
かといって、ジーンには何をすることもできない状況である。声をかけても、身体を揺すっても反応はない。となればジーンができるのは、うーちゃんを信じて待つことあった。