第十二話 方針
「なるほどな、話の流れは理解した」
「えっと……恥ずかしながら、私はあんまり分かんないんですけど……」
自分だけが理解していないことに恥ずかしさを感じ、チャチャがもじもじする。これは分かっていてもらわないといけない部分なので、自分でも整理をつけるために今度はジーンが説明をする。
ミィの家族には精霊との関係を深める能力があるということ。何者かがミィ達を封印したということ。理由がはっきりしていないが、ミィが言うには自分達の能力が関係しているらしい。というかそれ以外に考えられないそうだ。
そしてそれは、何千年も昔の出来事であるということ。きっかけは分からないがミィの封印が解けて、何故かここにいたということ。
ミィに少し付け加えられながら、チャチャへの説明が終わる。
「ミィちゃんは、封印されている時は意識があったの?」
「ううん。無かった……はず。気づいたらここにいたの。だけど、封印されたってなんとなく分かってて、もしかしたら時間が経ってるかもしれないとは思ったけど」
ジーンは少し冷静になって、なんだか不思議だと感じていた。何千年も前の人がここにいて、言葉を交わしている。自分達からしたら大先輩になる訳であるが、心や体は自分達とそれ程変わらないのだ。
チャチャは全く気にしていないが……さっきまでの様に、気軽に話してもいいのだろうかと少し考えるジーンだった。
「あ、私が生まれてるのはずっと昔だけど、実際はまだまだ子供だからジーンも遠慮なんかしないでね?」
ジーンの考えていることが分かったのか、ミィが笑いながらそう言う。……そんな言葉が出てくる子供なんてそんなにいないよなぁー。とジーンは思った。
しかし、今は細かいことを気にしている場合ではないのだ。ミィの両親さんの教育がとても素晴らしいものだったんだろう、と納得しておくことにするのだった。
「話は分かったけど、私達はどうすればいいの?」
チャチャがミィに問いかける。確かに、何をすればいいのかはっきりしない。封印を解いてほしいとかだったら、ジーン達の力だけじゃ限界がある。
「最終的には封印を解いてくれると嬉しいんだけど、今の私達だとそれはきっと無理。それに、私達を封印した人についても、分からないことだらけなのは問題。だから、私達の能力の底上げを提案します」
「俺は賛成だな。何が起きても対応できるようにする必要がある。なにより……精霊について知れたんだから、有効に活用しないとな」
ミィの話によると、精霊の力を使いこなせる人とそうでない人とでは圧倒的な差があるらしい。それに、使える魔法の種類や威力にも影響を与えるそうだ。
「でも、どうやってミィちゃん達を襲った人たちの情報を集めるの? 大昔の出来事なんだよね?」
「それなら精霊術……えっと、精霊の力を使って発動させる魔法って思ってくれればいいけど、その精霊術の中に、過去や未来に行けるものがあるの。それを使えればって思ってるかな」
チャチャの疑問はもっともで、ジーンもどうしようか考えていたところだった。だが、ミィからしたら大した問題じゃなかったらしい。
しかし、その術って無茶苦茶ではないか。過去や未来にいける? それは自分の良いように過去を改変できるということだ。何か大きな代償がいるんじゃないかと、ジーンは少し考える。
「この術は便利なんだけど、移動する時間が大きいほど魔力が必要になるし、それでも最大で一年ぐらいが限界みたいなんだけど。それに、未来に行けるって言ったけどそれは知っている未来にだけ。だから過去に行った後に、元の時代に戻ることにしか使えないの。明日とか一年後とかは行けないってことね」
「一回で一年前にしか戻れないんじゃ、何千年も前に行くのはちょっと無理があるんじゃ……」
チャチャが心配してミィに聞く。過去に行くのに何千回も術を使うということは、帰るのも同じ回数だけの術を使う必要がある。はっきり言って無謀ではないのか。
「それは心配しなくてもいいと思う。七五〇〇年前の人たちよりも遥かにちーねぇ達の魔力が大きいから。だからもっと前の時代に行けるはずなんだけど……細かい話は精霊の力を使いこなせるようになってからかな」
ジーンとチャチャは、ミィのいた時代の人達と比べて魔力の質も量も格段に上らしい。実際に精霊の力……仮に精霊術と名付けよう。その精霊術を使ってみないと詳しいことは分からないし、まだまだ成長の余地があるらしいので、期待していいとミィは言った。
今後の方針としてはどんな事態にも対応できる力を蓄えることが主になっていく。精霊の力を使いこなせるようになる必要がある。
「質問なんだけど、その力ってやっぱり、使えるようになるのは時間がかかっちゃうのかな?」
「ううん、そんなことないよ。精霊の力を使うこと自体はすぐ出来るはず」
チャチャはほっとした顔を見せているが、ジーンはそんなはずはないと思っていた。ミィの言い方から考えると、使うことは出来るが、それを自在に操れるかは別……なのだろう。
「まずは力をつける! と同時に、私の住んでいたとこを探してほしいの。私が把握できてない情報が残ってるかもしれないからなんだけど」
「何千年も昔の物が残っているとは少し考えにくいが……それに手掛かりが少なすぎる」
ジーンがそう言うと、何かを閃いたようにチャチャが、ぴょこっ! と顔を上げる。
「精霊の力で物の劣化を防ぐものがあるんじゃないですか? ほら、私達が使ってる結界みたいな術とか!」
自信満々に胸を張って意見を述べるチャチャ。
「流石ちーねぇです! 誰かさんとは考えが違いますね!」
目を輝かせてミィが言う。さり気なくジーンの心をチクチク言葉の針で刺していく。
「それで、何か手掛かりはあるのか?」
「うーん…………あ、そういえばここみたいに湖が近くにありました!」
「手掛かりが湖だけって……まぁ何千年も昔からある湖なんてそうないから、逆に見つけやすいのか? 修行の時間も必要だし、丁度良いか」
「何にしても今後の方針は決まった。とりあえず明日は依頼の方を優先させるから、今日はもう寝ようか。探すのはそれからでもいいだろう?」
「そうでした。早くルオナ草を届けてあげないといけませんからね」
そうして三人は明日に向けて睡眠をとった。不安、期待、安心、悲痛、それぞれが、それぞれの思いを胸に、それぞれ決意を胸に。