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第百八話 棘のある言葉






 戦闘終了。


 全員ボロボロ。魔力・体力を消耗し、それぞれが座り込んだり仰向けに倒れこんだりしている。


 ジーン達は勿論の事、ティティや破滅帝も疲れを見せるまでに消耗していた。


 一番元気なのは、応援組であろう。


「皆お疲れ様! うーちゃん的には全員ごーかくなのです!」


 特に元気なのはうーちゃん。最初っから最後まで声を出し続けていたのは彼女だけだった。次点でミカ。イッチーやタマは時々ヤジを飛ばすくらいであった。


 自分もあの戦いに入りたい。精霊達にもそういった気持ちもあったが、事前に『乱入者にはきっつい御仕置きを』という情報があったため、手を出すには至らなかった。


「あはは、居残りがいないといいね」


「あのバカは結構ドジってたけどね」


「ま、その辺は皆似たようなもんだったけどな」


 なんてことは言っていても、それぞれ心配している事に変わりはない。ミカは基本的に素直ではあるが、イッチーやタマは言葉に棘を持たせないと生きていけないらしい。


 周りからすれば、その棘の中に愛情が見え隠れしているのが丸わかりなのだが、当事者たちはそれに気付かない。お互い変に気が強い部分があるのが原因なのかもしれない。


「ふぁ~! いい汗かいたなぁ! もういっちょかましとくか?」


「良い。我も気分が高揚しておる!」


「いやいや、私達もう限界っ、だからね!?」


 ティティと破滅帝の言葉に、全力で否定の想いをぶつけるのはチャチャ。


「この際存分に絞られてもいいじゃねぇか?」


 誰かの不幸は蜜の味。笑ってそう言うイッチーだが、飲み物とタオルをチャチャに渡している。


「うぅ、吐きそうだ」


「はぁ!? このバカっ! こんなとこで吐かないでよねっ!?」


 とか言いつつ、ソチラの傍へ寄り添っていくタマ。


「再試験はごめんだな」


「えへへ、その時は僕も一緒に戦いたいな」


 やっぱり素直なのはミカだけ。イッチーもタマも行動は素直な部分が出ているのだが、どうしても言葉が尖ってしまっていた。


 尖ってしまっているのだが、別にそれは誰に対してでもないらしい。


「や、やってやったんよ……!」


「身体起こせるか? ほら、水だぞ」


「夜桜もお疲れ様! 大丈夫? 怪我とか、痛いとことか無い?」


「ありがとうなんよ。疲れただけなんよ」


 パートナーと言うべき相手には辛辣な二人だが、夜桜には優しさが前面に出ていた。


 というか、二人共にこっちが普通であるのだ。普段は辛辣な言葉を吐く方が珍しい二人であった。


「私にも、もう一杯」


「はいよっ、ってお前はもう自分でできるだろ!?」


「はぁ!? 夜桜にはやって私にはやらないっていうの!?」


「最初にやっただろ! 多少動けるようになったんなら自分でやれっつってんだよ!」


「あー意地悪。ほんと意地悪。あんたって意地悪の精霊だったのね」


「っかぁー! 分かった、分かったよ! ほら」


「……ぬる」


「ちょ、は!? 今てめぇ文句言いやがったな!?」


「言ってませーん。あーりーがーとーごーざーいーまーすーぅ」


「こもってねぇなぁ! ありがとうにありがとうが詰まってねぇなぁ!?」


 チャチャに対しては熱くなりがちなイッチーである。イッチーではなくチャチャに問題があるのかどうか。ノーコメントである。


「うぅ、ありがとう」


「は、え。何よ急に。キモイんだけど。背筋ぞわぞわしたんだけど」


「いや。タマのおかげで、少し楽になったからさ」


「はぁ? 私何もやってないんだけど。あ、遂に頭の魔核潰れちゃった?」


「はは、そういうことにしとこうか」


「もうほんっと何!? このバカ! 何もやってないって言ってるでしょ!?」


「そうだね、何もやってないね」


「バカバカバカっ! 何よその言い方! 本当にあんただけでも再試験になんないかしら!」


「ちょ、それは流石に勘弁です」


 こちらは完全に照れ隠し。ソチラ自身もそれが分かっていた。


「うんうん。皆仲良しでうーちゃんも嬉しいのです」


「仲良し、ねぇ?」


「表現の難しさはいつの時代でも同じなのであろうな。素直が一番よな」


 他人事みたいに言ってますけど、あなた達二人も似た者同士なんですが?


「二人もおんなじなのです」


 みんなが思った事を代弁するうーちゃん。


「二人って、誰と誰だ?」


「うむ……?」


 やはり自覚は無いご様子だった。


 破滅帝とティティの関係は少し不思議な感じだ。お互いに殺したい程憎んでいるのは間違いない。しかし、お互いにそれを達成することはできない。


 そのため、何年も何十年も何百年も。ずっと戦ってきたのだ。そこに芽生える感情は人それぞれではあるのだろう。そして、二人にも芽生えたものがあった。


 始めは勝ちたいという気持ちだったが、徐々に負けたくないという気持ちに変化していったのだ。相手が死ねば勝ちなのだが、お互いに死ぬ事は無い。だからこそ、負けという部分が目立ってくる。


 お互いに明確なルールを設定している訳ではない。しかし、二人にしか分からない世界が既にできあがっていた。


 『今回は貴様の負けだ』


 その言葉を言うために。という訳ではないが、勝つこと以上に負けない事が二人にとっては重要だったのだ。


「もっと素直に大好きって言うのです!」


 命を奪い合う敵としては。という言葉を意図的に隠し、うーちゃんが言い放った。


 己の全力を持ってしてでも打ち崩すことのできない相手、という点においてはお互いに信頼をしているということだ。


「敵として!」


「だがな!」


 互いに肩を叩き合い、笑い飛ばす二人。


「衝撃波が鬱陶しいんでやめてもらっていいですかね……」


「あ、すまん。結果言い忘れてた。全員合格だおめでとさん。じゃ、頑張れな」


 目の前が暗転したと理解するのに時間はかからなかった。


 そして、このまま外に追い出されるんだろうな。と理解するのにも時間はかからなかった。


 誰もが一様にしてそれを理解する。最後の最後まで振り回されたとしても、それがあの人らしさだと受け入れてしまう。


「お世話になりましたぁー!」


「お元気でぇー!」


「ありがとなんよぉー!」


「ありがとうございましたぁー!」


「じゃあねー!」


「世話になったな!」


「お姉ちゃん、ありがとねー!」


 暗闇に吸い込まれていく中、感謝の言葉を口にする。


 そして感じる。


「やっぱり、日の光っていいもんだな」


 一ヶ月ぶりの外。誰一人欠けることなく、そして誰もが力を増しての帰還。


「ただ……あの二人は……」


 そう。あの封印からは出られない。何千年も封印され続けて、これからも封印され続けられるのだろう。


「それがお姉ちゃんの覚悟。どうこう言うものじゃないわ」


「そうそう。何も心配しなくてもいいってな」


「教えてもらった事を忘れないようにしなきゃね!」


「そうしてくれや。ま、忘れちまってもまた教えてやんぞ」


「大好きなお姉ちゃんに感謝しないとね」


「私も大好きだぞ、妹よ~!」


「……」


「……」


「ティティさん……?」


「……これはどういう……?」


 ティティに抱き着かれるタマ。日常の風景ではあるのだが、それはここ一ヶ月の話。封印内限定の話だ。


「我も忘れるな」


「およよよよぉ~?」


 破滅帝もいるらしい。二人が発する威圧感からして、本物だという判断を下すジーン。


 可能性として、うーちゃんが時々会いに来るかもね。くらいに思っていたため、誰もが驚きを隠せない。


 え? 封印は? 何やってんの?


 という言葉さえ忘れ、ただただその状況を時間の流れに身を任せて傍観してしまうのだった。


「ま、簡単に説明するとだな。私も連れてけ?」


「当然我もな」


 ティティと破滅帝。この二人が離れることはない。どちらかが動くとなれば、もう片方も動かなければならないのだ。


 つまりは二人で一つ。ティティのいる所に破滅帝あり。その反対も同じである。


「えぇ……封印とかその辺の事は……?」


「問題無い! 何とでもなるって!」


 がしりと肩を掴まれるジーン。そして気付く。ティティの笑った顔は仮面なのだと、一瞬でそう悟るジーンだった。


 ミチミチと肉が握り潰される感覚。問題大アリだけど問題ナイのだと、理解させられる。


 破滅帝のせいなのか。それは間違いだ。


「しょうがない人達だな」


「ま、邪魔はしねぇからよ」


「うむ。既に我らの物語は終わっておるからな」


 二人の意見が合致しての行動だった。双方共に『もう封印の中での生活はイヤだ』という気持ちが大き過ぎたのである。


 そして、そんな我が儘をどうにかしてしまうのもこの二人だった。


「もう俺らには口出せる事じゃないってことか」


「滅茶苦茶なんよ」


「滅茶苦茶だね」


 一行は帰っていく。新人を仲間に加えて、スッキリしない気持ちと、大きすぎる爆弾を抱えて。





熱下がったので投稿することにしました。

皆さんもインフルエンザには気を付けてください。


2020/01/08(修正)

終わり部分に文章を追加。

次話の冒頭が書きにく過ぎたので。

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