未来からの贈り物
一つの可能性を手に入れた。この世界の欠陥とも言える、ある情報を知ることができた。
完成しているように見えて、未完成で未熟な世界。
誰かを犠牲にしないと辿り着かない、一つの可能性。
つまり俺は諦めたのだ。この世界を救う術を知るために、この世界を犠牲にした。
だが、そのおかげでこの世界を救えるかもしれない。絶対ではない。あくまでも可能性の話ではあるが、俺は確かにそれを手に入れたのだ。
まだこの世界が終わった訳ではないが、この世界は不完全なまま変わる事は無いだろう。そこかしこに穢れが溢れでる世界。
闘う術を持たない人には辛い世界。いつ危機が訪れるのか、それに怯えながら生きるしかない。
そんな世界など俺は認めたくない。それを変えるために戦った者達のためにも、認めるわけにはいかないのだ。
だが、それも昔の話。
俺は今、この世界この状況を認めてしまっている。
「なぁ。俺やってやったよ」
既に誰一人として存在しないこの星。動物も植物も、とうの昔に滅んでしまった。残ったのは俺だけ。
守るものも、大切な仲間も、愛する人も。全ては土に還った。
「大好きなんだよ……」
そう伝えてあげられなかった。それだけが心残りだ。
痛いぐらい抱きしめて、そう言いたかった。
どこで間違えたんだろう。どこに大切なピースを落としてきたんだろう。もう何度も考えた。
だけど、俺には分からない。いくら考えても正解なんて分からないんだよ。
「笑ってる顔が――」
いつまでも傍にあると思ってた。
「その綺麗な目から――」
大きな雫が落ちるなんて思いもしなかった。
「いつまでも聞いていたいその声から――」
大嫌いだなんて言葉、聞きたくはなかった。
「代わりなんているはずないだろ」
なのに。
「俺はチャチャを殺したんだ」
この自身の手で。
「ありがとう、か」
チャチャの最後の言葉だ。
「チャチャは受け子だった」
それを今の俺にはどうすることもできない。
過去に戻るにも、解決法が分からないんだよ。何回やっても、チャチャを救えないんだ。
「もう、魔力が足りねぇんだよ」
俺が助ける未来はもう存在しない。魔力が尽きても、きっと俺は死なない。
いつまでも、この終わった世界で独りだ。
ありえない。チャチャのいない世界なんて絶対にありえない。
未来の無いこの世界で何を希望に生きればいいのか。変わることの無い景色など、俺に耐えられない。
それでも、俺の意志なんて関係なく時は流れていく。俺にはもう、何もできないんだよ。
――だから。希望を託そう。
俺じゃない俺にしかできない。
たとえ俺の意志が途絶えても、俺は諦めるはずないからな。
それが救いなのか? 流石に笑えてくる。
でも、誰に任せる訳にもいかねぇんだ。絶対に俺が救う。俺自身で救いてぇんだよ。
我が儘なんて知らねぇ。別の道なんて知らねぇ。
チャチャを救うのは俺でありたいんだよ。
「託すぜ。この世界の結末をよ」
狂い始めた感覚に最後の命令を下す。
「さあ。うんと遠い過去にいってくれ」
細かい調整なんてしねぇ。全魔力をつぎ込んでメッセージを過去へ飛ばすんだ。
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《――この記録がこの先残っていくのかは分からない。だが、もしもこの記録を見た人物がいるのなら、君に伝承の役目をお願いしたい。どうか、俺の想いが俺の未来に繋がりますように》