007 部活と苦しみの約束された日について
「スポーツと言えば、つばめは中学校の時は部活に入ってなかったの?」
話題を変えようとアマネが話を振る。
この不良生徒二人は帰宅部であり、現在その部活動中である。
「入ってましたよ」
「もしかして女子バレーだった?」
「え? 何で分かったんですか? 有名になるほど強くなかったはずですけど」
「いや、性格がそれっぽいなと」
「どんな性格ですかそれ」
「サバサバしているように見えて、実際はドロドロした『女』が隠れている感じ」
「いや、その意味は分からないですけど。先輩がバレー部女子を嫌いなのは分かりました」
そもそもこの人に一般社会で否とされていること以外に好きなものがあるのかは謎である。
「先輩は部活入ってなかったんですか?」
「うん。あ、一年の時クラスの委員長に誘われてディベート部に仮入部したことはあるよ」
「へぇ~。どんなことするんですか?」
「知らない。二日目で追い出されたから」
投げやりなその言葉に、「一体、何したんですか……?」とつばめが恐ろしいものを見るような目をしている。
言葉尻をとらえて個人攻撃でもしたのだろうか。
この人はきっと集団の中で生きていくとかできないんだろうな、とつばめは考える。
そもそも帰属意識が皆無だ。アマネにとって帰るべき場所、自分の居場所は存在しておらず、そしてそのことを気にする素振りさえ見せない。
そのことに少しの羨望と、多くの疑問を覚える。
なぜそれで不安にならずにいられるのだろう? 寄り掛かるべき柱を持たずにどうやって立っていられるのだろう? 私が気付いていないだけで先輩には先輩の寄る辺があるのだろうか?
そしてそれは自分ではない。
その事実にちくりと胸が痛む。
だが、だからこそつばめはアマネのことをもっと知りたいと思うのだ。
「先輩って誕生日いつですか?」
「なにさ、唐突に」
「いや、先輩に誕生日とかあるのかなと思って」
「……。えぇと乳児以下って言われてる?」
アマネが顔を引きつらせながら言った。
「私は4月13日です。その時、家にツバメの巣が出来てたから『つばめ』という名前にしたって言ってました」
その顔は気にもかけず、つばめは続ける。
その時期に生まれてあえて桜ではなく、燕を選んだのは前者があまりにポピュラーだからだろうか。
「12月31日だよ」
「大晦日! え、毎年蕎麦と一緒にケーキ食べるんですか?」
「……そう聞かれるから言いたくないんだよ」
「名前の由来はなんですか?」
「今日は何なんだよ、本当に」
「いや、前に先輩が名前も贈り物なんだから大切にしろなんて似合わないこと言ってたじゃないですか。だから親に聞いてきたんですよ」
「君、最近本当に生意気になってきたな。知らないよ、聞いたことないし」
しつこくしすぎたせいか若干不機嫌になってきたようだ。ぷいっと顔を背けてしまった。
「え~、じゃあ今度聞いてきてくださいよ」
「いいけど、いつになるか分からないよ。両親とも長期海外出張中だし」
「女の子連れ込み放題ですね!」
「怒るよ、そろそろ」
「……あ」
つばめが何かに気付いたようだ。
「なに?」
「いえ、絶対怒るから言いません」
「気になるだろ」
「怒りませんか?」
「怒らないよ」
「毎年、一人で蕎麦と一緒にケーキ食べてるんですか?」
「……」
スッと音もなくつばめの後ろに陣取り両手で拳骨を作り、両側頭部に当ててぐりぐりぐりと加圧する。
「いだだだっ! 怒らないって言ったじゃないですか!?」
「あれは嘘だ」
「嘘つき~!」
「それはどうもありがとう」
ぐりぐりと圧迫されながら、自分のことを聞かれるのは嫌なのかな、とつばめは考えていた。