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世は全てしょうこともなし!  作者: mozno
四章    年年歳歳花相似
18/22

018    バレンタインデイ


 冬休みが明けるとすぐにセンター試験が始まった。

 三年生たちがピリピリとしているのは言わずもがな、それに影響されてか二年生のクラスもかなり浮ついていたが、一か月も経つと来年度の準備を始めるか、忘れたふりをして遊ぶかに二分化しておとなしくなった。

 担任のよもぎが産休および育休に入ったため、アマネのクラスの担任は現在学年主任が担当している。

 進路指導という名目で呼び出されたアマネは進学希望ということだけ確認されると、それから後は主に普段の態度に対する説教へと変わった。

 二、三十分ほどめんどくさそうに頷くのを繰り返し、解放されるとあくびを噛み殺しながら後輩の待つ図書室へと向かう。


 図書室に入ると受付のカウンターで、つばめが伽倶夜に絡んでいるところだった。伽倶夜は迷惑半分、呆れ半分といった表情をしていたが、アマネを見ると露骨に顔をしかめてつばめの背中をこちらへと軽く押した。

 せっかくだからゆっくりしていこうかと提案すると、「早く帰れ!」と図書室を追い出された。

 帰りましょうか~とだるそうに言うつばめにアマネは両手を差し出した。


「つばめ。今日は僕に何か渡すものがあるんじゃないかな」


「え? 豆投げつければいいですか?」


「鬼か。ほら、いつもお世話になっている先輩に何かあるだろう?」


「それを言ったらいつもお世話してる後輩に、先輩の方こそ渡すものがあるんじゃないですか?」

 お互いが同じようなポーズをしている。


「完全にもらう側のつもりでいたから持ってきてない」


「私も自分がもらう側だと思っていました」


「そこは普通、後輩の君が持ってきなさいよ」


「だって最近好感度上がったから、先輩の番かなと思って」


「止めて! メタ発言は僕の専売特許だから止めて!」

 今までになく必死な声でアマネが言う。


「じゃあ帰りに買って交換しましょ。それならいいですよね?」


「えー、手作りじゃないのかー」

 ぶーと口を尖らせる。


「じゃあ、先輩の家に行って作りましょうか? 一緒に」


「部屋がチョコレート臭くなるからヤダ」


「めんどくさいな、この人」

 「何だと~」とつばめの頬をつまんで引っ張るが、やり返されてお互いに不細工な顔を作り合う。そうしていると階段から降りてきた御門に呆れ顔で声をかけられた。


「何をやっているんだ、お前たちは……」


「つばめがチョコくれないから……」


「そもそも学校に持ってくるのは禁止なんだが」


「「しまった、持ってくればよかった」」


「おい……」

 見事にハモった二人を見て、御門は片手で頭痛を押さえる動作をする。

 御門も今、帰ろうとしていたらしく、なんとはなしに昇降口まで同行する。


「うぐっ」

 御門のうめき声を聞いて、彼女の下駄箱を覗くとそこには小さな箱が一つ入っていた。


「おやおやぁ、さっすが生徒会長。羨ましいなぁ」

 ニヤニヤと下卑た表情を浮かべながらアマネがからかう。くつくつと笑いながら自分の下駄箱を見ると同じ物が入っていた。


「……えぇ」

 小さな箱を開けるとそこにはコンビニの値札が張り付いたままのチョコレート菓子と一枚の手紙が入っていた。

 手紙には綺麗な文字で『部室に出頭しなさい』、そしてその下に同じ人物が書いたとは信じられないくらいヘッタクソなトカゲの絵が描いてある。絵から一本線が伸びて『どらごん』と解説してある。

 御門の手元を覗くと、同じ絵が描いてあるのが見えたので差出人は同じだろう。ただ文面は『部室に来てね』だったので随分と扱いが異なる。


「じゃあ僕、帰るから。じゃあね、委員長」


「待て待て待て。行きたくないのは分からんでもないが。……あぁ、あれだ。たぶん行かないと後日別の方法でアプローチしてくるぞ」

 それを聞いてアマネが心底嫌そうな顔をした。


「つばめ。ごめん、ちょっと用事が出来たから先に帰ってて」


「どうかしたんですか?」


「うん、まぁ、三年生からの呼び出し? 的なもの」


「なにしたんですか……」

 呆れた後に、なんか面白そうだからという理由で結局ついてきた。

 三人で連れだって校舎を移動し、三階の端の部屋前で止まる。


「ここは……?」


「ディベート部の部室だ」


「ああ、アマネ先輩が二日で追い出されたっていう……」

 御門が扉を開けると黒髪で長髪、ツリ目の女生徒が椅子に腰かけていた。


「お、来たね!」

 立ち上がると結構高く、アマネと同じくらいの背丈がある。三年生であることを表す緑色のリボンが豊かな胸の上で揺れた。


「おや、素直に来るとは思っていなかった奴と、……その子は?」


「後輩です」

 アマネのつっけんどんな紹介に合わせてつばめがぺこりとお辞儀をする。


「それで龍頭先輩、なんのご用でしょうか?」


「卒業間際になって思い出したんだけど、君ら一年生の勧誘一切してないでしょ! 美沙は生徒会にかかりきりで最近遊びに来ないし、アマネちゃんは幽霊だし! あ、そういえば本当に幽霊みたいな恰好していたのを変えたんだね! いいね! 似合ってるよ!」

 ぐー、と親指を立てて右手を突き出している。


「というわけでこのままだと廃部の危機です!」


「それは僕が来た時から変わっていないと思うけど……」

 一年の時に訪れた時もこうして龍頭一人に迎えられたような気がする。


「ていうかアマネ先輩、一応ディベート部所属だったんですね。前に聞いた感じだと体験入部だけみたいな感じだったのに」


「あぁ、この高校、部活に必ず一つは入らなくちゃいけないからね。名前入れてるだけだよ」


「え? 私、どこにも入ってないんですけど……」


「大体六月頃に急かされるから。つばめの場合はごたごたしていたし、忘れられていたのかもね」


「確保ー!」

 アマネの言葉を遮って、龍頭がつばめを抱きしめる。


「やわ、やわらかい……。先輩と違って……」


「一言多い」


「君、名前は?」

 色々と押し付けながら龍頭が尋ねる。


「子安貝つばめです……」


「よし、この紙に名前を……」

 どこからか取り出したプリントには入部届と書かれている。


「いやいや、何してるんですか」


「私はね、ただ三年間過ごしたこの部活が無くなってしまったら悲しいなってそれだけ……」


「龍頭先輩……」

 龍頭の悲し気な面持ちを見て、御門が心苦しそうな表情を浮かべる。


「で、本音は?」


「このまま歴代生徒会長はみんなディベート部所属、……みたいな風潮を作りたい」

 アマネの冷めた質問につい誘導され、先程までの悲しげな雰囲気はどこへやら吹き飛んだ。

 御門は心配して損した……、と呟いている。


「帰ろう」

 龍頭をつばめから引き剥がすと、つばめがちょっと名残惜しそうな顔をしたのでこつんと頭を叩いておく。


「待ってってば!」

 そう言って今度はアマネの方にしがみついてくる。背中に暖かく柔らかい感触が伝わってきて、思わず「おおう」と声が出た。


「あの、龍頭先輩」

 ずいっとつばめが二人の間に入る。


「別に名前を貸すだけならいいですよ。それとクラスに次期会長を狙っている奴がいますから誘っておきましょうか?」


***


 翌日、伽倶夜に前会長と現会長が所属していることをほのめかして、ディベート部に向かわせた。

 そのさらに翌日の朝、彼女が登校してきたタイミングで聞きに行く。


「どうだった? ディベート部」


「いや、あそこ前会長が一人でダラダラしてるだけよ。討論らしい事なんてなんにもしてなかったし。そもそもする相手がいないもの。そのこととお菓子の持ち込みを指摘したら半泣きで『君はクビだー!』って言われたから、帰ったわ。時間の無駄だったわね、まぁ五分程度だったけど」


「おぉ、驚異の新記録」


「はぁ? 何の話よ?」

 いぶかしげに顔をしかめる伽倶夜とは対照的に、つばめは満足そうに頷いていた。






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