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世は全てしょうこともなし!  作者: mozno
三章    サカキの徒花
13/22

013    アマネのいない日その1


「へぇ、そんなことがあったんだ」

 寒空の中、校庭で体操服姿の少女たちが体育の授業だろうか、柔軟体操をしている。


「他人事みたいに言わないでくれる?」

 自分の足を抑えるつばめの関心のなさそうな声に、伽倶夜は腹筋を続けながら文句を言う。

 先日のアマネとのやりとりの後、つばめにすべてを話して和解した。許してもらえるとは思っていなかったし正直な話、殴られても文句は言えないと思っていたが、今のと丁度同じような態度で聞き流されたので何度も謝ったら若干引きつつも受け入れる旨を了承してくれた。

 どうして今になって話すつもりになったのか、先日の件について話して、返ってきたのはそんなすげない返事だった。


「だれのせいであんな変な人に絡まれたと思ってるのよ」


「それは、……委員長のせいじゃない?」


「うぐっ」

 そう言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。

 体育教師の合図で腹筋を止めて、互いに背中合わせになり、つばめが伽倶夜を背負う。


「うぅ」


「何よ、急に」

 唐突に唸り、つばめが伽倶夜を背から降ろす。どこか具合でも悪いのかと様子を見る。


「重い。80キロはあるな……」


「無いわよ! 半分よ、半分!」

 つばめの呟きを伽倶夜は目を剥いて否定した。


「いや、半分はさすがにサバ読みすぎでしょ……。40キロの女なんていないよ」

 つばめの反論に歯噛みし、今度は伽倶夜がつばめを背負う。


「……。あ、あんただって重いじゃないの! 100キロはあるわね!」


「やり返したいときはそういう極端なのじゃなくてリアルっぽい数字を言う方が効果的じゃない? 例えば、……58キロとか」


「……」

 伽倶夜が無言のままつばめを降ろす。


「あれ? もしかして言い当てちゃった?」


「そ、そんなにはないし」


「気にしなくてもいいんじゃないかな。軽い方だと思うよ。50キロのバーベルにちょっとお肉が付いただけだと思えば可愛いもんだよ」


「たとえが全っ然、可愛くない! 自分が軽いからってわざとやってるでしょう!?」

 むきになる伽倶夜をつばめが指差してけらけら笑っている。


 柔軟体操が終わると一か所に集められ、持久走が始まった。

 数分後、集団の後ろの方でひぃひぃ言っている伽倶夜の横で余裕綽々といった表情でつばめが並走する。


「こういうのでよくさー、一緒に走ろうねみたいなのあるじゃん」

 中学時代に部活で基礎訓練として走らされることが多かったのでなまっているとはいえつばめはそこそこ体力がある。ただやる気はないので手を抜いている。


「そ、そうね」


「何なんだろうね、あれ。友情を理由に対等であることを求めるというかさ。まぁ、確かに対等じゃないと友情は成立しないかもしれないけどその逆まで正しいとは限らないじゃんか」


「ねぇ、子安貝」


「なに?」


「そ、その話、げほっ、ぜぇぜぇ、今じゃないとダメ?」


「なんでそんなにボロボロなのさ」

 運動不足のせいである。


 時間をかけてゴールし終え、呼吸を整えると前髪をおでこに張り付けたまま、伽倶夜が言った。


「さっきの話だけど、何を基準にしての対等なの?」


「さっきの話で言うなら、体力とか順位とか?」 


「比較対象が勉強なら、あるいは芸術なら対等の基準もまた変わるってことよね? ならクローン人間としか本当には友達になれないじゃない。いいえ、クローンだって育つ環境が違えば自分自身とは能力は違ってくるはずよ」


「つまり自分と友達でいられるのは自分だけってこと? 委員長、結構性格悪いよね」


「茶化すな! いや、ていうかあんたにだけは言われたくないんだけど!」

 さも心外そうに肩を怒らせてから、咳払いをして続ける。


「そうじゃなくて何か一つでも対等というか、積集合になる部分があれば友達になれる可能性はある、ってことじゃないの? で、それがあるからあんたとあの逆木先輩は友達なんじゃないの?」


「……」

 伽倶夜の答えにつばめは黙り込み考える。


「そっか、……友情、だったのか。私が先輩に対して抱いている感情はずっと憧れだと思っていたんだけど、そう言えばあの人、人に憧れられるような人間性してないな」


「そのセリフでむしろ怪しくなってきたんだけど……。でも何かしらの対等なものが無ければ友情が成立しないというのなら、あんたとあの先輩の間には何か通ずるものがあったってことでしょ」


「同病相憐れむ的なね」


「だからなんであんたが否定的なのよ」




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