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結局、上での話し合いの結果がどうなったのか、シナリオが終わっても戻って来ない管理。
仕方が無いから全てオレが始末する羽目になり、あちこちの世界から存在を引っ張り、記憶調整の後にそれぞれは新たな人生を開始した。
さすがに魂を洗っての漂白とか、哀れでやれなかったんだけど、後から何か言われても知らないからな。
内包したまま時は過ぎ、慣れたら意識を下に降ろしての俯瞰もどきもやれるようになっていた。
なのでこの世界の俯瞰との連絡も取れないままでも、世界の不具合調整が何とかやれているんだけど、きついから何とかして欲しいんだよな。
(どうだ、あれがあいつの今の力量だ……信じられません。まさか世界内存在があそこまでの……お前は完全に負けているぞ……そうですね……あいつの弟子を名乗るなら、せめてあれぐらいはやらんとな……肝に銘じておきます……まあ、今回の事はあいつの独断で処理されるからお前に咎は無いが、本来ならあちこちの世界の管理と調整をすれば可能な行為ではある。階梯を越えられなくてもこの階梯の管理連中と協議して似たような事がやれるから、その気があるなら試してみるといい……分かりました)
この世界の中の時にして100年余りが過ぎ、マグラスさんも引退した後の話。
邪神の種と言われたダンジョンの数々も遂には討伐に至り、金貨迷宮のみを残す世界になった。
長年の金貨ばら撒きでさすがに量が減ったので、またぞろ砂糖やら香辛料のばら撒きで金貨を大量に増やし、最下層の倉庫に投入する日々となる。
それでも地下倉庫が満載になる頃にはいよいよ帰還の打診も通るようになり、切り良く200年で戻っても良いって事になった。
今のオレは意識体と呼べば良いのか、精神体の破片を核にした人間もどきで行動しており、それには仮想的な持ち歩ける異空間を付属させている。
早い話が本体の倉庫の口を持ち歩いているようなもので、転移の応用で何とか確立したスキルになる。
そして倉庫の中のあれこれを商業ギルドに見せれば食指を伸ばされ、散々足元を見た挙句、大量に放出する事になった。
本当なら何かお土産も買いたいところだけど、どうにもここを作った存在の技量が浅いのか、どれもこれもイマイチの品ばかり。
元の世界のあれこれには及ばない品ばかりなので、お土産は無しになった。
もっとも、女王蜂の蜜は相当の量になったのは幸いだが。
彼女もあの迷宮にいる限りマナに困る事は無くなっているようで、元の住処の迷宮とは比べ物にならないマナの濃さだと言っていた。
実は290層と300層を結ぶ、迷宮の存在だけ通れる転移陣を据えておいたところ、シーサーと女王蜂の交流が始まっていた。
思念での対話であれこれと話し合っているようで、もしかするとシーサーは居残りになるかも知れない。
どのみちオレに付いて来ても大抵は倉庫の住人になるんだし、気に入ったのならずっとここで過ごしても良いさ。
ああそういや、女王蜂だからクインって呼んでやるとやけに喜んでいたので、もしかすると名前が無かったのかも知れないな。
まあ、シーサーもクインもオレの眷属みたいな存在になっちまったようだし、この世界が終わるまでには迎えに来るからさ、それまでこの世界で好きに過ごすと良いさ。
それは良いんだけど、毎日が忙しくて彼らとのんびり出来なくて困っているんだよ。
いやね、戻って来ないんだよ、管理がさ。
だから苦肉の策であれこれやる羽目になってさ、俯瞰も何をしているんだか。
管理の仕事を放置する訳にはいかないのに、俯瞰の仕事も放置出来ない。
更に言うなら迷宮すら放置出来ないから1人3役をやる羽目になってさ、こうして忙しく毎日働く羽目になっている。
ただの支援のはずなのに、何でこんな事になってしまったのか。
そりゃ毎日色々やっていれば慣れはするけどさ、こういうのは世界内存在としての生に飽きてからとも思っていたんだよ。
まだ全然飽きてもないからずっと先になると思っていたのに、うっかり勝負に持ち込んであっさり負けたのが原因とは、我ながら嫌になる。
あんなに自分を小さく見せられるとか、あの技能も学びたいところだな。
その為にはプライドという毒を抜かないとやれそうにない。
かなり消したと思っていたのに、何時の間にか復活したようで、どうにも困ったものである。
そういや、苛められっ子の立ち位置がプライドを抜くのに最適とかって話をしてて、だから神様はあの立ち位置にオレを据えたんだと今なら理解している。
なのに記憶の封鎖のせいであんまり役に立たなかったけど、本来は表層意識でガードしてフタは自力で解除するものらしいな。
オレがそんな高い技能なんか持っているはずもないのに、あっさりと記憶の封鎖に同意したとかさ、当時のオレを神様はどう見ていたんだろう。
あんな未熟な存在をよくも連れて来てくれたものだよな。
そりゃ今でも未熟だけど、階段を少しは登れたんじゃないかと思っている。
まだまだ先が見えないぐらいの階段だけど、立ち止まる事がなければいつかは頂上に登れるだろう。
だから先の事など考えず、今やれる事をひたすらやれば良いってか。
でもさ、ここの支援は本来じゃないんだからさ、とっとと戻って来て欲しいんだよな。
(まさか、俯瞰の役割まで兼用でやれるとか、そんな事は習わなかったぞ。あれが理想形って事は、本当に基礎の基礎で無理矢理卒業したんだな、私は。ふうっ、どうして当時の私はあそこまで焦っていたのか。我ながら情けなくなるな。うむ、俯瞰の仕事にもかなり慣れてきたが、本来はこれも含めて管理の仕事なのだな。それを手助けしてくれる存在を付けてくださるのが上の慈悲とは、本当に私は未熟なのだと今では分かるよ。後は君が私を見つける事が君の試練の終焉らしいが、そう簡単に見つかる訳にはいかないぞ。確かに未熟だと自覚はしたが、管理の経験は私のほうが遥かに長いんだ。そう簡単に探索の波に引っ掛かる訳にはいかん)
(彼らはどうなったのですか……ああ、今な、かくれんぼやってるぞ……くすくす、それはそれは……まあ、あいつの秘蔵っ子は筋も良いし、先々が楽しみだろうが、自称弟子のほうは踏み台が精々だな……少しはましになりますかね……ならないぐらいのボンクラなら、オレのメシにするだけさ……それも変わりませんね……変わるものかよ……くすくす)
どうにも最近、俯瞰っぽい動きをしている存在を見かけるんだけど、どうにも波が管理みたいなんだよな。
アンタ自分の職務放置して何やってんの?
そもそも、管理が下に降りるとか、確か管理服務規程違反だったはずだよな。
誰に唆されたのかおぼろ気に想像出来るけどさ、安易に乗っちゃあいけないぞ。
あの存在の進言には全て裏があり、それを踏まえて承諾しないとオレみたいな事になる。
すぐに終わると思っていた交代劇も、中の時間でそろそろ200年が近いんだけど、まだ終わりと言ってくれない有様だ。
よーし、あっちが隠れるつもりなら、提訴してやろうっと、クククッ。
かくして次元管理官への繋ぎも巧くいき、そのまま上への提訴のような事になり、管理は服務規程違反で罰則を受ける羽目になる。
それは良いんだけど、交代要員が到着するまで継続していろと言われても、もう帰りたいんだからとっとと寄こしてくれよな。
(私を騙したのですか……人聞きの悪い事を言うなよな。オレはただ提案をしただけだ。それに乗ったのがてめぇだろ……あれは特例だとばかり……そんな訳があるか。普通はな、何とか出来る技量があるから、オレの提案も採用されるんだ。なのにお前は対処出来ないにも関わらず、安易に提案を受け入れた。それがお前の未熟さであり、甘さでもあるのさ。そいつを自覚して一からやり直せ。良いか、今ならやり直せるんだぞ)
(確かに管理の座は惜しいけど、修行には今の立ち位置のほうが自由が効く。そうか、管理ではやれない修行が今ならやれるのか。そうだよな、どのみち時などいくらでもあるし、少しぐらいの回り道など本来は関係無いはずなのに、どうして私はあんなに焦っていたのだろう。そうと決まれば先輩の……いやいや、私はそれ以前だろう。となると初期の頃の教官から始めるとするか。彼の技量の全てを学んでからでも決して遅くはあるまい)
(あはは、お前、降格になったのかよ)
(そうだった。かつてはこいつに煽られて……やれやれ、本当に未熟だったんだな、当時は)
(ああ、どうにも下手糞だと言われてね、最初からやり直しになったんだ……はっはっはっ、もうオレサマが相当先に進んでるぜ……おめでとう……オレサマに屈するか、あのユートーセー様がよ……ああ、君の勝ちだ……はっはっはっはっは、やったぜぇぇ)
(こんなに簡単な事なのに、どうして当時はやれなかったんだろう。本当に情けなくなる程に未熟だったのだな)




