0091
そうして段取りを付けた頃にあいつがやっと到着する。
なのに割り当ての荷物を持つどころじゃなく、仕方なくオレが全部持つ羽目になる。
「お前、途中で荷物持ちを交代しろよ」
「はぁはぁはぁ、こんなの、ありかよ。普通は馬車で運んでくれるもんだろ」
「オレ達の流儀が気に入らないんなら、今から帰っても良いんだぜ」
「冗談じゃあるか。ここまで来てタダ働きとかやってられるかよ。返したいなら違約金寄こせ」
「そこまで言うなら仕方が無い。コウ、良いんだな」
「任せて」
そうして入り口脇の小部屋で休憩する事になり、あいつは壁に寄りかかって俯いている。
マグラスさん達は部屋の隅にある、何かのモニュメントに揃って手を当て、こっそりと魔法陣で消えていく。
その途端、小部屋の扉が閉まり、何かのイベントが開始になる。
「なんだなんだ。え、あいつらは? 」
『おお、試練を求めし者、よくぞ来た』
「なんっ、まさか、ここは、嘘だろ、あいつら」
『しかも2人とは頼もしい。そうさの、まずはそなたらで戦いをせよ。生き残ったほうに試練を渡そうぞ』
「くそぅぅぅ、あいつらオレを生贄にしやがったな。こうなったら、死ねぇぇぇ」
軽く避けて足を引っ掛けてやると、そのまま顔から地面に突っ込んでいく。
プレートアーマーな彼はその自重でかなりのダメージを受けたようで、ゲホゲホ言いながら起き上がってくる。
「くそ、舐めやがって、この野郎」
大体さ、前衛職は良いが、ポーターなんだからそんな重い鎧は置いて来いよな。
マグラスさん達が求めているのは、あくまで荷物持ちと雑用なんだ。
なのに普通のパーティメンバーのような格好で参加したうえに、荷物が持てないとかふざけてるだろ。
頭に血が登ったのか、直線的な攻撃が何度も来るが、足を引っ掛けるだけであいつばかりが怪我をしていく。
そのうち息も絶え絶えになって起き上がれなくなるが、恨み言だけは止まる事がない。
「こいつ、もう動けないぞ」
『殺しは嫌なのかの』
「まあね」
『殺せぬとあれば致し方あるまい。次なるステージで見極めるとしようぞ。そやつは魔物のエサにするのでな、そこに放置で構わぬよ。さあ、我のところに来るがよい』
「さよなら、名前も知らない雑魚さん」
「ま、待て、この、野郎っ」
よろよろと立ち上がろうとする雑魚を蹴飛ばして壁に叩き付ける。
ああ、ちょっと力を入れ過ぎたか。
昏倒したみたいだけど、どうせ魔物のエサになるようだし、そのままで良いよね。
そして誘われるままに魔法陣で別の空間に飛ぶ事になる。
『おぬしは殺しを厭うようじゃが、見殺しにした時点で手は穢れておるぞぃ』
「それが? 」
『気にならぬのかの』
「あんな世間体の言葉に騙されるなよ。もう雑魚も居ないんだし、猫は剥いでも良いだろ。さあ、試練とやらをやってもらおうか。何? お前を殺せば良いのか? 」
『はっはっはっ、元気の良い生贄じゃのぅ』
「神聖魔法・聖なる浄化」
『な、なん、じゃと』
「光属性最上級魔法・天上の輝き」
『ぐぁぁぁぁぁ、止めろぉぉぉぉぉ』
「合成魔法・万物の黄昏」
『そ、存在、が、消え、貴様、これは、一体……』
ふん、世界外魔法に抗えるかよ。
この世界の魔法とはシステムが違うからな、世界内存在に抗う術は無いさ。
さてさて、あいつも食われたみたいだし、そろそろ合流といきますか。
『よくも我がしもべを消滅させたの』
あれ、上役が出て来たぞ。
てかこいつ、ダンジョンマスターじゃないのかよ。
やれやれ、無用心だな。
最下層で隠れていれば良いものを、飛んで火に入る夏の虫だぞ。
「捕縛」
『こんなもの……こん、な、もの……おのれ、何をした』
「すぐ戻って来るからじっとしてろ」
やれやれ、ダンジョンマスターが動けないとかさ、コアの取り放題だよな。
最下層に転移してコアを抜き取り、インベントリに入れてまた戻って来る。
「お疲れぇ」
『貴様、何をした。これは、これは』
「転送」
さようなら~
ダンジョンコアが抜かれた事で、もうマスターとしての力は行使出来ないからさ、自分の足でここに戻って来ないといけない訳だ。
しかもシステムが止まっているから、今のあいつは普通の人間と同じく、死んでも蘇生はやれない事になる。
その癖、人類の敵の立ち位置は変わらないので、うっかり神官とかに出会ったら指差して言われるぞ……『人類の敵』ってさ。
マスタースキルが使えれば偽装とかも使えるが、隠す術がなくて人間並のステータスとか、殺してくださいと言っているのと同じだ。
今頃は王都の神殿の中だろうから、周囲の神官達はさぞや賑やかだろうな。
神聖騎士達の猛攻を潜り抜け、無事に戻れる事を祈っておいてやろうな。
しかし、まさか逆に試練を出す羽目になるとはな。
~☆~★~☆
結局、マグラスさんと合流になり、まともに向かって来ない魔物を排除しながら下の階層に進む。
2人生贄の恩恵か、かなりのショートカットになったらしく、相当先で合流になった。
再開を喜んでくれたマグラスさんだったが、何もくれなかったと答えたら不思議そうにされた。
まあ、コアをもらったとか言う訳にもいかんしな。
「おい、ここに普通はコアがあるもんじゃないのか? 」
「おかしいですね」
「お前、まさか、ここで相対したのかよ」
「いーや、あの部屋だよ」
「お前なぁ、コアは値打ち物なんだからな、あるなら出せ」
「知らないよ」
「あのな、コアがあったらここの持ち主になれるんだからな」
「そんなに人類の敵になりたいの? 」
「あんなの言うだけさ。ここがアジトになればよ、王都にも近いから便利になるんだよ」
この三文芝居、何時まで付き合わないといけないのかな。
「合流魔法・指定先・サクリアダンジョンマスター・対象・サブマスター・実行」
マグラスさんの幻が消え、周囲の様相も変わり、眠っているマグラスさん達が見えてくる。
23階層の次が最下層とかあり得ないだろ。
そんな幻惑に嵌まると思ったかよ。
盗られたコアを取り戻したかったのは分かるけどよ、やるならせめてもっと節目の階層にしろよな。
折角なので近くのセーフティゾーンに風呂を構築し、沸かせて衝立で囲んでおく。
そうしておもむろに料理を始めると、匂いのせいか起きてくる。
「お前、何時合流したんだ」
「ついさっき」
「それで、試練はクリアになったんだな」
「あいつ、戦う以前だったよ。オレ、何もしてないし」
「そんなに弱いのか、あいつは」
「オレは足を引っ掛けただけだよ。あいつ、ポーター募集なのにあんな重装備だし、自重があるから転んだらダメージででかいのな」
「はっはっは」
「しかし、大口を叩いた割りには情けないですね」
「全くだ。お、風呂か、ありがてぇ」
「もうすぐ料理も出来るからさ」
「やったね」




