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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
4.軽率の代償
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 《貴様ァ、何を考えている……落ち着けよ……折角、誘致して安定化させようと思っていたのに、全てを台無しにしてくれたな……そもそもそれが失敗だったからうちの神様を頼ったんだろ……なら、何とかやると言うのだな……あのな、一度迷宮は全部消すからな……何だとっ……それでな、全部消えたら誘致の面々を広い世界に分布させろ。今のままじゃテリトリーが被ってまともな経営にならんのは分かるだろ……それでどうやるのだ……最後に残った1人を元の世界に帰してやると言えば、平和にしろと言っても争いになるさ……そんな事で争いに? ……アンタはもう、上の存在になっちまってるから忘れているのかも知れんが、元は世界内存在として暮らしていたはずだ。異世界に誘拐された者にとって、望郷の念ってのは日々大きくなるものだ。もう帰れないと半ば諦めつつも、元の世界に思いを馳せるってのもあるはずだ。そんな時に限定で帰れるとなればもう、誰が何と言っても止まらんさ……そんなものかな……初心を忘れるなとか言われなかったか……うっく……塵芥ちりあくたのように思うのは勝手だが、元は同じを忘れるから、下の存在の行動原理が理解出来なくなるんだ。その点、うちの神様はよーく分かっているぜ、世界内存在の心理をな……そうか》


(耳が痛いな。そうか、オレは何時の間にかそれを忘れていたんだな。しかしあいつ、ただの世界内存在じゃないな。さすがは先輩の推薦って事か)


 さすがに99の迷宮を討伐した事で、凄まじい量のダンジョンポイントを獲得し、それを使って難攻不落の300階層の迷宮にしておいた。

 そして最下層は大海原に設定し、ブラックシーサーペントのシーサーをを放しておいた。

 魔力のある世界、それも迷宮の中に放した事で、あいつは喜び勇んで泳ぎ回っていた。

 魚介類や雑魚な魔物を設置したので、腹が減ったらそいつを食うだろう。

 ずっと倉庫の住人になっていたんだし、ここいらでのんびりするといい。

 時間猶予はまだまだあるんだし、階層主としてのんびり過ごせばいいからな。


 そうしてかつての勇者召喚の世界……あのクイーンビーに会いに行き、分家の相談をしてみたところ、本人が誘致されたいと言われてしまう。

 やはり誰も来ない迷宮の底は相当に寂しいらしい。

 オレも滅多に迷宮に戻らないと言ったけど、それでもと言うので誘致した。

 ついでに迷宮に生えている木々も勝手に誘致したので、290階層はかつてのあの世界の階層そっくりになった。

 後は倉庫整理で大量の金貨獲得になったので、迷宮の中の宝箱の中身は全部金貨にしておいた。


 広大な階層の中で見つかる宝箱。


 その中身が全て金貨というところから、金貨迷宮などと呼ばれるようになり、初心者から熟練者までがチャレンジする迷宮になった。

 致死な罠は備えず、魔物もそこまで強くはない。

 そんな浅階層は初心者達の練習場となり、そこで馴染んだ者達は更なる階層に挑む。

 迷宮ギルドの見立てでは、この迷宮は100階層と予想されていて、浅階層は19層までに認定されている。

 20層から少し敵が強くなり、罠も大怪我をする物が少しずつ設置されるようになる。

 そうして40階層からは熟練者御用達と言われ、現在の到達階層は47階層になっている。

 これぐらいの深さになれば、金貨も袋で出るようになり、探索者達の懐も潤うってものだ。

 この世界での金貨は10万円相当なのだから。


「おっし、金貨20枚獲得だぜ」

「やったな、1人4枚か、よしよし」

「リーダー、食料がもうありません」

「ふうっ、残念だがここまでか」

「けど、帰り一瞬ってのが良いですね、ここ」

「ああ、ありがたいぜ。よし、帰るぞ」


 行きは地道に進まなければならないが、帰りは一瞬で戻れる転移陣。

 なので探索グループは狩りの終盤は転移陣の近くのセーフティゾーンに荷物を置き、限界までその階層で狩りをして荷物満載で帰還する事になる。

 他の迷宮と違って素材の入手難易度が低い為、目ざとい商人連中はその迷宮周辺に越して来る事になり、自然と街が出来ていく。

 魔物からは素材が、宝箱からは金貨が、後は採掘場所からは宝石の原石が出たりする。

 比較的安易に稼げる迷宮として、優良迷宮に認定され、多くの探索者で賑わう事になる。


 そうなると他の迷宮の人気が下がり、否応無く困窮していく現地採用のダンジョンマスター達。

 世界に1万はあるとされた迷宮も、困窮の余りに魔物の量が減り、次第に衰退していった。

 そんな衰退した迷宮を討伐し、いくばくかのダンジョンポイントにしていく。

 もっともダンジョンコアだけは値打ち物なので、裏方にでも流せばかなりの金にはなる。


 でもあれ、聖石そっくりなんだよな。


 なので予備魔力貯留珠として接収する事にして、ダンジョン内の宝物や素材と共に獲得していく。

 コアを抜けば迷宮との結び付きが消える魔物達だが、行く当てが無ければ死滅する羽目になる。

 なので難易度ごとに誘致先を決め、1万の迷宮の中の主要な魔物はオレの迷宮に誘致していく。


 うちのシーサーにも子分が出来、悠々と海を泳ぐ様は威風堂々たるもの。

 シーサーペントウルフという、ヘビだかオオカミだか分からない名前だけど、オオカミのように群れで獲物を襲うタイプの魔物らしい。

 そのトップになったシーサーな訳で、今日も自由きままに大海原を泳いでいるはずだ。


「おい、コウ、ポーターやってくんねーか」

「何処のダンジョン狙うの? 」

「お、やってくれるのか、やったぜ。あのな、王都西のサクリアダンジョンだ」

「アンタも大概だよな。Eクラスの奴に言う事かよ。あんな難易度Aのダンジョンとかよ」

「てめぇは黙ってろい。オレが聞いてんのはこいつにだ。で、来てくれるよな、コウ」

「オレを雇えよ、マグラス。先日やっとCランクになったんだぜ」

「煩ぇよ、てめぇにメシが作れるかよ」

「何言ってんだ。ダンジョンメシは干し肉と硬パンって相場が決まってんだろ」

「なあ、コウ、頼むよ」

「仕方無いなぁ」

「おしっ、確保だぜぃ」

「おい、マグラス、あんまり低ランク苛めていると、協会に提訴するぞ」

「ふん、好きにしろ。さあ、行くぞ、コウ」

「へいへい」


 表向きオレはアイテムポーチ持ちのポーターとして、王都の迷宮協会でのたくっている。

 もちろん魔物の解体もやれるので、素材にしてアイテムポーチに入れて持ち運ぶのだ。

 貧乏なパーティはそんな奴を雇う余裕は無いが、それなりのランクのパーティの場合、そういう雑務を代行してくれる人を連れて行く事が多い。

 しかし、アイテムポーチ持ちのポーターってのも珍しく、大抵は冒険者を引退した元高ランクぐらいのものだ。

 それと言うのもアイテムポーチもそう安いものではなく、本当の低ランクでは買おうにも買えない品なのだ。

 オレは99の迷宮を潰した時に、彼らから接収したからたくさん持っているが、汎用小型でも金貨100枚ぐらいはする。

 オレが使っているのは小型大容量な品であり、レジェンド級と呼ばれる国宝にもなり兼ねない品になるが内緒だ。


 オレにはくれなかったけど99個あるもんね。


 マグラスさんとはGランクの頃に知り合ったんだけど、野良パーティの奴らが雑魚に襲われて、オレを残して逃げちまったんだ。

 と言うのもオレが足止めをしているうちに体勢を整えて反撃するからと言われ、盾で耐えていたら走る足音。

 すっかり気配も消えた頃に、雑魚を殲滅して素材を確保、後はのんびり帰ろうとしているところにバッタリだ。

 事情を説明して混ぜてくれる事になったが、帰りならまだしも行きだったが為に、過剰なまでにガードしてくれたんだけど、うっかり爪を見せちまってな。

 と言うのもマグラスさん達が奇襲に遭遇し、肝心の回復役が大怪我しちまったんだ。

 何とか撃退したものの、彼女の傷は深く、手持ちの回復薬で命は取り留めたものの、これ以上の探索は不可能として帰還する事になったんだけど、帰り道でまた奇襲に遭遇し、他のメンバーも動けなくなったんだ。

 んで、見せたくはないんだけど、他言無用で襲ってきた魔物を殲滅し、彼ら全員を回復させ、探索再開になったんだ。


 それまでは普通のダンジョンメシだったんだけど、見せた以上はもう良いかなと、簡単な料理を作って振舞ったんだ。

 そうしたらそれが好評で、毎食作る事になったんだけど、セーフティエリアで風呂を作った事で更なる高評価を受け、すっかり専属契約の勧誘を受ける羽目になっちまったんだ。

 なんせ火と土と水(回復含む)の3属性使えるポーターとか他には居ないとまで言われ、快適に探索が出来るなら安いものだと言われ、オレはいいって言ったんだけど、多めに分配してくれたんだ。


 それ以来、長期に潜る時には誘われるようになり、分配の素材の売却のみでランクアップして現在に至ると。


 オレはランクアップをそこまで考えてないと彼に言い、のんびりと過ごせばそれで良いと、専属契約は断っている。

 なのでこうして、長期の探索の折にはワンポイントでの契約になるんだけど、彼の他のメンバーにもすっかり慣れたこの頃。

 だけどそんな事は他の奴らは知らない訳で、有名パーティに寄生する低ランクって言われるようになったんだ。

 まあ、ポーターだから戦いはしなくて良いんだけど、マグラスさんと潜る時には援護もやる事になっている。

 だから余計に重宝してくれるんだけど、他の探索者はそんな事は知らない訳で、どうにも評判は宜しくない。


「ねぇ、コウちゃん。何時まで黙っているつもりなの? あんな雑魚に舐められて悔しくないの? 」

「良いんだよ。オレはのんびり過ごしたいんだ」

「惜しいわよねぇ。アンタならすぐにAランクになれるってのに」

「貴族嫌い」

「アハハ、まあ、それはあるけどさ、それも付き合いよ」

「それでも貴族は嫌いだしさ」

「本当に惜しいわ」

「ありがと」


 リーダーは盾戦士のマグラスさんで、回復役のシーナさん、重戦士のマイクさんに、盗賊のケイナさん、そして4属性使いのエリチュードさんの5人パーティで大陸中のダンジョンを巡っているんだけど、本拠地はサーカ国の王都なので、そこでのたくるオレをたまに連れて行く事になっている。


(コウって本当に貴族を嫌っているのよね)

(恐らくな、元貴族関連だろうよ)

(ああ、それでなのね)

(大体よ、普通のビギナーがアイテムポーチとか持てるかよ)

(そういやそうね)

(まあ、こっからはオレの想像だけどよ、あのポーチが手切れ金代わりで勘当になっちまったとかよ)

(けどあんな良い子が勘当っておかしくない? )

(有能なる次男ならあり得るぜ)

(ああ、確かにね)

  

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