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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
3.召喚の顛末
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 あれからミヤビも立ち位置を定めたらしく、加奈子の中から出て行った。

 もっとも、七変化のミヤビって言うぐらいだから、ひょっこり他のクラスメイトに混ざっている可能性も無くはない。

 まあそういうのは探らないと分からないものだし、今のところは探る予定は無い。

 何か用事があれば向こうからアクセスして来るだろうし、その時に分かれば問題は無い。


 去年はトラブルで行けなかった修学旅行だけど、今年はしっかり行くつもりになっている。

 あいつら、なまじ進級に拘ったせいか、修学旅行無しになっているんだよな。

 2年の秋の修学旅行も、その当時は異世界で過ごしていたんだし。

 ただなぁ、加奈子が凄く行きたそうにしているんだよな。

 だから別料金で修学旅行に重ねてツアーを組めば問題無いはずだ。

 てかさ、いけなかった者達への特別誘致とかやってみても良いかも知れない。

 弓道部の寄付の時以来だけど、理事長と相談してみようかな。

 また寄付がどうのこうの言うかも知れんが、追加で1億なら余裕だろう。


「ううむ、確かにそうだの」

「まあ、寄付はするから心配するな」

「そう言うてくれるなればそうしようぞ」

「その代わり1億しか出さんぞ」

「家から出たと聞いたが、親からでは無いのだの」

「あんな親が出す訳ないだろ。だから親に内緒の最初の寄付なんだし」

「なれば個人の才覚かの」

「まあ、何か要望を出すたびに1億はくれてやる。だから素直に通せば良いだけだ」

「何も聞くなか、致し方あるまいの」


 弁護士経由で1億入金し、彼らも追加で修学旅行に行ける事になる。

 行き先に付いては北欧となり、寄付金はそこにも補填される事になる。

 イングランド⇒フランス⇒ドイツって3カ国で8泊9日の旅の予定ってかなり長いんだけど、ちゃんと通訳は確実に付くんだろうな。

 高校生で英語以外が話せるとか、帰国子女以外では滅多に居ないだろう。

 うっかり不備があったりしたら、話せる存在を決して見逃してはくれまい。

 そうなったらもう、自由なんかは無くなって、ひたすら人の世話を焼かないといけない羽目になる。

 かつては旅行なんかに意味を見出せずにパスしたんだけど、曲がりなりにも彼女が出来たんだし、付き合いって大事だよな。

 加奈子が行けないならまたパスしても良かったんだが、行けるようになった以上はこれも思い出のクチだろう。

 

 そのうちあいつらにもそれは伝わり、日々の補習がまた派手になった様子。

 それと言うのも、旅行までにノルマ達成出来ないと居残りって先生が脅したからだ。

 既に理事長に根回ししているから、いくら達成出来てなくても居残りにはならないんだけど、裏事情は話すべきじゃない。

 そんな訳で、まあ頑張れと言ってやるしかない訳で。

 後は平日の補習を過分にやれば、長期休暇に少し休みが取れるらしく、ノルマ以上にやると息巻いている。

 加奈子もそこまで成績が悪い訳じゃなく、単に単位が足りないだけなので補習は順調にこなしているようだ。

 しかし補習がメインになれば日々の授業が疎かになるようで、VR書店で授業の分の勉強をやっているらしい。

 

 そういや、生活指導の先生はあれからしばらくして居なくなっていた。

 担任の先生の話では、交通事故で入院する事になったと言っているが、本当のところは判らないし興味も無い。

 そして代わった先生はやはり、オレの髪の事は何も言わないようになる。

 とは言え、少し長くなり過ぎたかも知れないな。

 鼻もすっかり隠れて、物を食うのに髪が邪魔になるぐらいだしな。


 少し切ろうかなとも思い、指先でチョンチョンと突いて短くする。

 スキルが戻ればもうハサミ要らずだな。

 多少は短くなったけど、まだまだ長い前髪。

 これってあんまり短くするとバックにした時の安定性が悪いと言うか、すぐ戻るんだよな。

 水で濡らしてバックで安定するぐらいの長さと言えば、今が限度ぐらいなんだし。

 てか、切るなら後ろ髪を切ったほうが良いかもな。

 向こうで1年放置でかなり長くなっているんだし、このまま伸ばすってのも良いけど、あんまり長いのは邪魔になるからな。


 ふむ、初の理髪でもやらかしてみるか。


 思い立ったら吉日と、学校帰りに理髪店。

 この世界初めての体験と言うか、向こうでも滅多に行かなかった理髪店。

 もっとも、向こうじゃ髪は伸ばしっ放しにしていたんだし、行かないのも当然だよな。


「えと、前髪はこのままで、後ろを少し切ってください」

「え、このまま? 長くないかい? 」

「いえ、これぐらいが良いんです」

「そうかい、ならそうするけどよ」


 お任せで目を瞑って思考の波に揺られていると、あちこち切っているような気がして……珍しく眠っていたようだ。

 ゆさゆさと揺らされて目が覚めるものの、何でかバックにされている。


「あの、何でバックにしてんの? 」

「アンタ、もったいないよ、そんな綺麗な顔を隠すなんて」


 おばさんになっているけど、あるじはどうした?


「前髪、切ってないよね」

「ああ、心配無いよ。梳いておいたからさ、前に降ろしても顔は隠れないからさ」


 ぐああああ、そんなぁぁぁ。


「あのさぁ、オレ、わざと顔を隠してんの。分かる? 」

「何でさね、もったいない」

「そんなの自由だろ。あーあ、こんなに短くしちゃって。どうしてくれんのさ」

「そんな事聞いて無いしさ」

「旦那のほうには言ったんだよ。前髪は触るなって」

「アンター、お客さんの髪の注文、聞いたのかい」

「ああ、適当に刈ってくれって言われたぞ」

「ほら、見なさい」


 またぞろ伝家の宝刀を振りかざすか。

 あんまりやりたくないんだけど、どうして嘘を付くかな。


 カチッ……『えと、前髪はこのままで、後ろを少し切ってください……え、このまま? 長くないかい? ……いえ、これぐらいが良いんです……そうかい、ならそうするけどよ』


「ほーら、こんな注文」

「アンタ、用心が良いねぇ」

「で、どうすんの、この落とし前」

「アンター」

「あんだ、煩いな。お、男前に仕上がったじゃねぇか」

「お客さんの注文、アタシに言わなかったわね」

「だからさっき言っただろ。適当に切ってくれと言われたって」

「録音があるんだから嘘付いても分かるわさ」

「あんだよ、てめぇ、そんなもん用意してたのかよ」

「当たり前だろ。その程度の自己防衛、やらずに裏がのたくれるかよ」

「はんっ、裏だとぅ、ガキの癖に。そんなのはな、大人になってからするもんだ」

「おばさんってお嫁さんのほう? それとも婿取ったの? 」

「こいつは婿さね」

「なら、叩き出しちまいな。そうしないと裁判沙汰で大変になるからさ」

「そんな伝手があるのかい」

「顧問弁護士持ちだ」

「あわわわっ、アンタ、もう我慢出来ないわさ。前にもいい加減な事を言って。さあ、出て行きな」

「ふんっ、後悔するな、ババァが」

「出て行けぇぇぇ」


 対話の間に写メを探偵に送り、調査を依頼。

 後は顧問弁護士に起訴依頼。

 おっさんが追い出された後、散髪代を支払っておく。


「これ、散髪代な」

「えっ、これって」

「良いから良いから」

「けど、こんなにも」

「宿六とは言え、技師追い出したんだ、店も大変だろ」

「済まないね。注文通りにしてないのにさ」

「また伸びたら来るからさ、そん時は頼むな」

「あいあい、今度はちゃんとするからさ」


 さーて、踊ってくれよ、おっちゃん。

 



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