0072
祭りは終わった。
「やっぱ、人間、慣れだな」
「意外と平気だったわね」
「そりゃ恨んでいる相手だしよ」
「でも、なんかスッキリしたよ」
「あんな奴らが怖かったなんて、昔の僕は本当に情けないよ」
「それはアタシも同じよ。まあ、どんな奴でも殺せば死ぬんだよね、あはは」
「なんか甘い匂いがしないか? 」
「うえっ、さすがにそれは無いでしょ」
「そりゃ気分が悪くはもうならないけどよ、あんまり良い匂いじゃねぇぜ」
「血臭って言うのかな。最初はきつかったけど、さすがに慣れたよ」
「いやほら、こう、何て言うか、涎の出そうな匂いって言うか」
「お前、まさか」
「何だよ」
「ステータスで種族、見てみろ」
「ま、まさか……【ステータス】……お? おおお? キター」
「おいおい、マジかよ」
「ああ、良いなぁ」
結局、同類になったのは1人だけで、とりあえず後継者候補として神様に申告しておいた。
そいつの親だけはあんまり乗り気じゃなく、ただ子が乗り気になっているから流されたって感じだ。
良く言えば子の自主性を尊重する親だが、悪く言えば放任主義って事だ。
それなりに裕福な家のせいか、高校の学費は払うものの、登校拒否しても特に何も言わないのだとか。
ただ、ミエがあるのか、苛められるから中退したいと親に言っても、取り合ってくれないらしい。
だから必然的に登校拒否になるが、留年していれば苛める同級生も居なくなるだろうとか、そんな事しか言ってくれないらしい。
その親に対しては、行き先が山奥の廃村って事で許可が出た。
やはり世間体を気にするのか、街中で誰かに見られるのを嫌う傾向にあるようだ。
そんな親でも逆らえなかったそいつは、殺しの体験からすっかり変わってしまった。
元々の素養があったのか、鬱屈する気持ちがかなりあったのか、人生初の人殺しで覚醒したらしい。
高校は中退して家を出る覚悟を定め、このままオレの弟子として暮らしたいと言う。
どうしても無理ならそれでも構わんが、もう苛める奴は消えた事だし、平凡を装って卒業し、県外就職の振りして2度と家に戻らなければ良いだけだ。
そう説得し、ひとまず家に戻る事になった。
それでも以前とはもう違う心構えとなり、何かあったら簡単に家を出るに違いない。
ひとまずそいつに食事をさせ、新種族初の食事を美味そうに飲んだ。
在庫をかなり放出し、飲めなくなるまで飲ませた後、ゆっくりと部屋で休ませる。
他の奴らは孤島でのバカンスを楽しみ、最初に紹介したシーサーとも馴染んでいった。
「ふぁぁぁぁ、腹減った」
「ああ、好きなだけ飲め」
「何かよ、飲むたびに力が増えるような気がするんだけどよ」
「ああ、増えるぞ。ステータス見れば分かるだろ」
「……ほわっ? 何だこりゃ」
「そろそろ3桁になった頃か? 」
「以前の10倍越えている」
「ちゃんと力をセーブして暮らさないと、化け物と言われるぞ」
「こりゃマジで気を付けねぇと」
彼には神様を紹介し、新学期のホームルームから出張と決まった。
あくまでも巻き込まれたって事で、同級生の勇者連中と共に召喚され、現地ではとりあえず自由に過ごして良い事になっている。
吸血族なので年を経ても見目が変わる事も無いので、現地で最低10年の体験の契約をあいつは承諾した。
そうして転移魔法の獲得が無理でも、時期が来たら送迎が成されるとの事。
彼は10年毎の連絡の契約で、戻りたくなったら迎えに来て欲しいと神様に告げ、快く受け入れられた。
後継者に認定されたので、あちらの1年がこちらの1日になるように調整するらしい。
つまり、神様は10日毎に彼との定時連絡をやり、目処が付いても付かなくても戻りたいと言えば迎えに行くらしい。
《オレが迎えに行っても良いけど……君の悪評が酷くてね、出来ればそれは止めてくれと言われているんだよ……それは残念……くすくす》
苛めっ子達の死骸は全て倉庫の中で眠っているから、彼らは行方不明って事になる。
そのうちまた赤道直下の噴火口に投入する事になるだろうけど、まだ先でも構わない。
とりあえずオークをたっぷり食って増殖したスライムは、都会の下水道に転送しておいた。
それはトイレのスライムも同様で、廃屋のトイレは今、使用中止に戻っている。
家の中のあれこれを取り外し、寝具や家具も回収した。
彼らは今、孤島でバカンス中。
この土地は買い取る事になっているけど、ここはあくまでも転送拠点として使うだけだ。
転移魔法陣が描かれたカーペットの上にジュウタンを敷き、それ以外は何も無い家になっている。
廃村からバス停までの道のりは、自転車で移動する面々は自転車をボックスに入れ、ミニバイクで移動する者はそれを入れている。
いくら超小型とは言え、それぐらいは入るのが持ち歩き異空間ってものだ。
さすがにバスは無理でもミニバイクぐらいなら余裕だし、軽自動車もギリギリ入るかも知れない。
後継者の彼には標準のマジックボックスが支給されるだろうけど、それ以外は異世界体験の機会まで待つしかない。
それでも殺しの体験済みの彼らの事だから、優先的に活用するだろうと思ってはいるが。
そうしていよいよ夏休みも終わり、それぞれを家の近くに送った後、久しぶりにシーサーと海中散歩に出かけた。
とは言うものの、オレはシーサーの身体にくっ付いているだけだ。
シーサーの高速移動スキルはMPを使うが、オレという供給源があるから心置きなく使っている。
実は吸血族になってからと言うもの、特に呼吸が必要ではなくなっている。
本当に人間と色々異なっている種族だが、オレは今の状態を気に入っている。
そんな訳でシーサーにくっ付いてのんびりと惰眠を貪り、シーサーは久しぶりに気持ち良く泳いでいると。
ふと目覚めてシーサーに念話でマグロが欲しいと話す。
早速にもマグロの群れを追いかけて、オレは倉庫にシーサーはパクリと。
どうやら味が気に入ったようで、小物はシーサーの嗜好品となり、大物はオレの戦利品となった。
他の魚の群れにも遭遇すれば、同様に獲得していく。
シーサーの主食は魔力だけど、嗜好品としては何でも食べはする。
だけどこの世界の生物にはMPが無いので、異世界と違って本当に嗜好品でしかない。
となるとやはり、オレが他の世界に行く事があれば、連れて行くしかあるまい。
他のMP供給源が無ければ、シーサーは痩せ衰えて死んでしまうから。
そしていよいよ新学期、彼は契約のままに異世界に旅立った。
勇者3人のおまけとして誘致されたようで、3つのスキルは、マジックボックスと世界言語理解と魔法攻撃無効にしたそうだ。
魔法攻撃無効ってスキルは地味にその範囲が広い。
隷属魔法を防ぎ、首輪を付けられたとしてもその効果を及ぼさない。
フレンドリーファイアも防ぎ、魔法系物理攻撃も無効化する。
つまり氷の槍とか土の槍で攻撃を受けても、それがダメージにならないのである。
そして称号は、慈神の使徒の弟子になったとか。
自称使徒が正式に認められたらしい。
それから彼らはもう苛められる事もなくなったが、警察の捜査対象になったりして色々と忙しい日々を送るようになった。
それでも肝心の死体が出て来ないので、直接の関与の証拠も得られず、苛められっ子の犯行とするには証拠も何も無い状態だ。
彼らはそれぞれ、そんな事がやれるなら最初から苛められたりしないと訴え、夏休みには山で鍛えてもらっていたのだと告げる。
実際、廃村の土地は既に購入してあり、犯行の証拠は消してある。
後は木刀や案山子をそこらに置き、体力作りを中心に苛めに負けない強い心の育成に努めていたのだと証言した。
実際、彼らはレベルアップの恩恵で、あたかも身体を鍛えたかのように強くなっており、体力テストでもセーブしながらも好成績だったとか。
そこらのガキ大将よりも強くなれば、それを苛めようって奇特な存在は出て来ない。
だから夏休み前に苛めていた奴らが消え、次点の奴らが苛めようと思っていた矢先、体育祭の為の体力テストでそいつらを軽く凌駕したと。
そんな数値を見て、それでも苛めようなんて奴は殆ど居なかったらしいが、間抜けがちょっかいを出し、あっさり反撃されたって話だ。
殴りかかられて簡単に避け、そのまま片腕で胸倉を掴んで持ち上げたんだとか。
そうしてゆさゆさと揺らしてやれば、もう2度と手は出さないと半泣きになっていたとか。
まあ、窓に向かって歩きながら脅したらしいので、窓から落とされると思ったんだろうな。
その弊害は体育祭出場になり、いきなりクラスの期待に答える事となり、クラスメイトにようやく馴染んだんだとか。
それでもその内面はもう、クラスの奴らとは別物になっており、今は芝居で乗り切っているらしい。
そんな彼らにはこう告げている。
どうしても殺したい相手が居れば、殺してネックレスボックスの中に入れちまえと。
そうして孤島のシーサーの部屋で相談すれば、食ってくれるから心配要らないと。
ただ、持ち物と衣服は外し、素っ裸で渡せと言っておいた。
そりゃ何でも食べはするが、さすがに衣服や財布とかは嗜好品にもならない。
そして要らない物はシーサーの部屋の片隅にでも置いておけば良いと。
まあ、そんなのを見つけたら回収しておくけどな。
のんびりした時が流れていく。
弟子達は休みの日には廃村経由で孤島に転移して来て、のんびりと休暇を楽しんでいる。
その時に魔法の技能講習なんかもやったりしているので、彼らの技能は少しずつ上昇している。
後はネックレスの聖石への供給をやったりもしている。
そんなある日の事、神様から連絡事項が入る。




