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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
1.如月の悪魔
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 本当なら富豪にだってなれるはずの、予知の力をあんまり使わない訳。

 それはその能力が両親と引き換えになったと思っていたから。

 あの時、確かに感じたのだ。

 玄関を出て行く両親に、今なら分かるが死の匂いを。


 当時は嫌な予感ぐらいにしか思わず、それでも僕は両親を引き止めた。

 もう会えない気がするから行かないでと。

 両親は笑いながらも縁起でもないと僕を叱り、2年生になったんだからお留守番出来るよねと、それっきりだ。


 本家の婆さんの法事へ向かう途中、正面衝突で婆さんの元に行っちまった両親。

 あの時に感じたんだ。

 僕は両親に捨てられたんだと。


 死の予言をした息子を無視し、既に死んでいる親の法事に出向く。

 そして既に死んでいる親と同じ立場になる。

 これはもう、親に捨てられたと言っていいだろう?

 僕と居る事が死ぬより嫌だったんだなと、理解した瞬間に僕から色々な物が抜け落ちていったんだ。


 そうして何も感じなくなった。


 両親の葬式はタマネギの助けを借り、悲しい顔は香辛料で作った。

 咳き込むからそれが余計に真に迫り、あたかも両親の為に泣いているように見えただろうか?

 そして僕は笑顔の貼り付け方を覚え、人間の芝居も覚えていった。

 かつてそうだった人間を思い出しながら真似て、あたかも元に戻ったと思ってくれただろうか。

 だけど一度壊れた物は元には戻らない。


 戻ったように見せかけていただけだ。


 先日の殺しで久しぶりに人間の仮面が剥げた。

 やはりあれが本当の僕だと思えた。

 だけどあんな存在、この国に受け入れられるはずもない。

 ならば続けよう、人間の芝居を。


 何時か誰かが殺してくれるまで。


 今日はメールを送る。

 病院の事務長と料亭の女将と組事務所に。


『京都に自転車でおいでやす。待ち合わせは7月8日6時2分』


 京都の競輪、7レースの三連単、8-6-2って予想だ。

 月に1回の予想って約束になっていて、当たれば2割の配当が報酬になる。

 今まで外れた事が無いから、莫大な儲けの2割ずつが口座に入金されている。

 本当は他にも居たんだけど、報酬をケチったから偽予想の連続で切ったんだ。

 わざわざ逆目で送っといて、紙が裏返しになっていたって冗談みたいな言い訳で返したしな。

 そいつはオレへの報酬を誤魔化し、ここ一番での大勝負に負けた。

 億単位での負けに半狂乱となったが、交番の前で斬りかかるものだから、傷害の現行犯で逮捕されたんだ。

 そしてその犯人の言い訳を誰も信じてはくれず、彼は今頃何処で何をしているんだろうね。

 まさか中学生の予想を真に受け、全財産を注ぎ込んだとか言えば、頭の構造を疑われるだけだ。


 そして僕は無罪放免だ。


 確かに予想はしてたけど、券を買わない予想に何の罪があると言うのか。

 だから契約者がバレようとも、あいつは勘が冴えているから試しに予想させてみた。


 これで終わる話だ。


 んで、当たったら小遣いという名目で口座に入るだけで、天涯孤独の少年への小遣いの額が、多いからどうのこうのってのは止めて欲しい。

 確かに親戚は存在しているが、没交渉になって久しいのだ。

 たらい回しにしていた少年に、何かの才覚を発見して引き取るとか、あからさま過ぎて世間体が酷い事になる。

 まあ、僕もそんな親戚に用は無いが。


 現在、口座の額は億を越えている。


 だけどそれは両親の遺産と生命保険って名目になっている。

 本当は全ての遺産と生命保険を合わせ、例の法事の本宅に送り付け、絶縁を通達したのだ。

 親の物は全て渡すから、もうこれっきりにしてくれと。

 まあ、たらい回しの果ての結論であり、どいつもこいつも後見人の立ち位置を欲しがり、口座の管理をしたがった。

 その目的が横領なのは明白であり、だからこそ悉く断った。

 その結果がたらい回しであり、僕もいい加減嫌になっていたんだ。

 だから弁護士立会いの元、親の全ての財産を放棄する代わり、親戚縁者と縁を切ったという訳だ。

 だけどそんな世間体の悪い事、世間に公表出来ないよね。

 だから僕の口座は相変わらず、両親の遺産と生命保険って事になっているんだ。


 そして今、口座名義は青山祐二になっている。


 今はまだ義務教育中だから元の名前を使うが、高校になったら新しい名前を使う事になっていて、既に戸籍も獲得している。

 組の伝手で数億で獲得したんだけど、儲けの出るギャンブルの賞金で賄えたんだ。

 まあ、大した事をした訳じゃない。

 全国の親分連中が集まる非合法カジノのルーレットで、次の当たりを何度か親分さんに教えただけだ。

 掛け金100万で3600万になり、そいつをそっくり賭けて12億9600万になり、チャラにする代わりに完璧な戸籍を4つで手を打った話。


 そのうちの1つを貰っただけだ。


 手落ちがあれば12億余り、到底払える額ではない上に、損害賠償もプラスされる。

 そんな訳で完璧な戸籍が手に入り、男名義の中の青山祐二ってのを選んだだけだ。

 そいつはどうやら16才で行方不明となり、天涯孤独って事で抹消になるはずだった戸籍らしい。

 それをどういう伝手で手に入れたのかは知らんが、使える物は使うつもりだ。


 実はその青山祐二君は今、世界の旅をやっている事になっていて、それは中卒での旅って事になっている。

 なので現在13才の僕は2年後、18才って事になって高校に入学の予定なのだ。

 その為の手続きも実は準備が整っていて、僕が中学を卒業したらそのまま入学式に出られる事になっている。

 それは例の事務長の伝手なんだけど、本当に金さえあれば大抵の事は何とでもなるものだなと、感心してしまうのだ。


 でも、別に裏口って訳じゃないよ。


 当該高の入試は既に受けており、合格基準の判定は貰ってある。

 そのうえで世界放浪をするって事になっていて、戻ってからあらためて1年生をやるって事に決まっている。

 まあたったそれだけの配慮で数億の寄付金となれば、私立には抗いがたい誘惑に思えたのかも知れない。


 僕がやった事は単純だ。


 組のノミに対し、悪魔名義で100万、大穴に賭けただけの事。

 それを何度かやって10億近い儲けを出し、それで全ての手続きをしてもらったと。

 だからきっと組も、それに数倍する儲けを出しているはずであるが、そんな事はどうでもいい。


『よろしく……どちらさんかいの……悪魔だけど……うげ、出るのかよまた……姉ヶ崎9レース9-8……うへぇ、対抗買わねぇと。毎回助かるぜ……2割な……おうっ、確実に入金するからよ……千葉の穴はどうしようか……念の為頼む……4レース8-4-1、10レース9-2-8……うし、それも買っとくぜ。ありがとよ……うい』


(ああ、膨れた膨れたぁぁぁ、そこに1番が突っ込むぅぅ、3番もただでは済まないぃぃぃ、よれて2番と5番に接触だぁぁ、大荒れだぁぁぁぁぁ)

(うへぇ、こんなの予測すんのかよ……やっぱ、悪魔だろ、あいつ……違いねぇ。けどな、今は味方だ。敵じゃないなら邪険にすんなよな。下手に邪険にしてよ、敵に回ったらお前、どうするよ……うっく……分かったろ……あ、ああ)


(いけませんね。どうにも部外者にかき回されているようです。悪魔ね、そんな非科学的な存在、誰が信じるんですか)



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