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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
2.放置の対策
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0062

2nd.stage Epilogue

 

 妙なプライドのようなのを感じるが、そんなの動きの邪魔にしかならないぜ。


 詰め将棋のように罠を張り、追い詰めて仕留める。

 そんな不思議な思考のままに、速やかに事態は進行し、勝敗が決する事になる。

 このスイッチもどき、もう相当に慣れたな。

 やはりかつて使っていたスキルなんだろう。


「はぁぁぁ、くそ、まさか負けるとはな」

「素人舐めたら怖いよ、クククッ」

「誰が素人だ、この野郎」


 かくしてエキシビションは熱狂のうちに終了し、某ギルドの面々は全員、トトカルチョに勝った事だけを記しておく。

 そんなこんなでイベントは終わり、やたら雑多なイベントアイテムの処分に困っていた。

 譲渡不可とか、売却無効とか、どないせぇっちゅうねん。


「呪いのアイテムゲットだぜ」

「くっくっくっ、確かにな」

「で、どうすんだよ、このアイテムの数々」

「いやな、その対策と言うか、新しい施設がオープンするらしくてな、そこで活用する為にばら撒いたんじゃないかって言われているぜ」

「何て施設だよ」

「その名もズバリ、アイテム合成だ」

「ああ、大昔のネトゲなんかでのアイテム回収のシステムか」

「今度の運営は色々と考えているようだし、こいつは今後が楽しみだぜ」

「それで? あのゴミ装備はどうなるんだ」

「ああ、あれな、同種の合成で100パーセントの確率で強化されるらしくてな、+10にまで高めたらそれなりに強力になるらしいな」

「つまり、1024個同じアイテムが無いと+10にならないと」

「いや、それだがな、+の付いたアイテムは取引可能なんだとよ」

「つまりあれだろ、アイテム合成をやらせる為に譲渡や売却を無効にして、更には半券だから体験しないと使えないと」

「本当に色々と考えていると思うぜ、今度の運営はよ」

「そういや、新規がかなり増えたらしいぜ」

「多くなってくれればそれだけ寿命も長くなるってか」

「それなりに気に入っているんだし、長く保って欲しいぜ」


 春休み中、オレはひたすらイベントアイテムの処理に勤しんでいた。

 それでも24時間という訳にもいかず、リアルのあれこれをこなしながらの処理になり、気分転換の為に散歩していた時、もう顔もあんまり覚えていない存在と出会う。

 元々、印象の薄い奴だったが、相方の尻に敷かれているかのように、オレの事に付いては何も意見を挟まず、なすがままになっていたのに今更なんだよ。


「あいつと別れた」

「ふーん、それで? 」

「お前の件では何もしてやれず、済まなかった」

「そうなんだ」

「愛想も尽きたか、まあそうだろうな」

「感謝はしているよ。幼い頃から世間の厳しさを教えてくれて、人間の本質も教えてくれた。更には世渡りの方法も教えてくれたし、金儲けの方法も知る事になった。あんたらは知らなかったろうけど、中学の頃には既に、かなりの稼ぎになっていたんだぜ」

「山本さんにも世話になったな」

「おい、そいつはおっちゃんの事か」

「沢田の名だけは残ったが、実質的には婿養子の立場でな、あいつには何も言えず、お前の事にも何も出来なくてな、せめてと思って学生時代の先輩を縋ってな」

「やれやれ、手の平の上ってか」

「ワシはただ、それとなく見てくれと頼んだだけだ。そこから先はお前の才覚だろう」

「大体、なんでオレがあんなに虐待されないといけなかったんだ」

「あいつは気付かれてなかったと思っているようだがお前は不義の子でな、自らの罪の意識のせいなのか、殊更にお前を虐げてな」

「ああ、予想的中か、うん、別にそうじゃないかと思っていたし」

「そうか」

「まあいいや、最後に軽く仕合ってくんない? 」

「何だと」

「多分にオリジナルが混ざっているが、基本はあんたの独り稽古の産物だ。門前の小僧の実力、測ってくんないかな。最近、ちょっと磨いてくれた人が居てさ、その集大成を披露したくなったのさ」

「あれを見ていたと」

「見取り稽古って言うのかな」

「ワシは愚かじゃったの」

「で、どうなの? 」

「分かった。ワシの全てをもって相手をしよう」


【……で、どうかな……確かに今の時代、造り酒屋というのも希少ですが、それだけと言うのもなんですね……更に希少な古武術の師範が手に入るぞ……何ですと……オレの基本と言えば欲しくならないか?……それはまた何ですね……かなりしょぼくれているけど、まだまだ使えそうだし。んで、余った人員で造り酒屋のてこ入れをしてさ、そうすりゃそっちの若手の戦闘力の底上げにもなるし、他社とタイアップ無しで中で飲める酒というのもいけるし、何なら成人対応の何かの景品にしてもいいし、プレイヤーのキャラの姿絵のラベルの酒なんかもやれそうだし……貴方もお嬢みたいですね……あ、似た者同士? クククッ……ええ、お似合いですよ……叔父貴経由でならいくらでもてこ入れするからさ……そこで融資の話になるのは抜け目が無いですね……何を言うか、もうオレはあいつとは関係無いんだぜ。ただ、未公認の弟子として師匠の行く末の手伝いと言うかさ……くすくす、分かりました……まあ、相当にしょぼくれているから使い物にならんかも知れんが、錆を落とせば何とかなるかも知れん……どっちが勝ったんですか?……途中で息切れしやがってよ。あのシスコンより体力が無いぜ……うぶぶっ……まあ、そんな訳だから頼むぜ……はい、分かりました……じゃあな】


 全盛期のあいつと殺り合ってみたかったぜ。

 けど、それなりに楽しませてもらったからまあいいか。

 櫻木さんには特別低金利融資になるように渡しておくからさ、精々、老後を安楽にさせてやってくれよな。

 影は薄かったけど、別にあいつに虐げられていた訳じゃ無い。

 幼少の頃からの見取り稽古の成果で軽いプラス、おっちゃんの件で軽いプラス、後は関わらずにプラマイゼロで合計ちょっとプラスだ。

 だけど、他の奴らはマイナスだから、そんなの比べようが無いだろ。


 さてまたアレをやりますか……いい気分転換になったし。


「お前、今日もそれかよ」

「あのなぁ、インベントリの中、満載だったんだからな」

「お前、どんだけクジを引いたんだ」

「お前らには縁が無かったろうけど、まとめて引けるクジがあったんだぞ」

「あれなら使ったぞ。面倒だから任意の設定でな」

「最大が1万回ってのは知らんだろ」

「おいおい、何をやったらそんなに引けたんだよ」

「カジノ」

「ヤマカン戦法かよ」

「よーし、やっと終わったぜ。さあ、商売商売」

「売るのかよ」

「今、ギルメン、何人だっけ」

「色々抜いて今は8人だな」

「共同正犯か」

「妬みもいい加減にしろってんだ」

「そいつらにも体験させてやりたいぜ。6才の頃からの面白い体験をよ」

「無理だろ。死ぬだけさ」

「タンポポの毒には気を付けよう」

「雑草の話かよ」

「彼岸花の球根は意外と食える」

「ありゃ元は飢饉対策での縁起が悪いって事にしての、非常食の伝承だろ」

「お前も全問正解だったのか? やけに色々詳しいが」

「も? マジかよ」

「あれ、違うのか」

「お前な、ラストの10問ぐらい、大学クラスの問題だったろ」

「そういや、ドイツ語の問題もあったな」

「爪はどんだけだよ」

「話が逸れてるぞ。ギルメンの数の分だけレアホースあるぞ」

「うっく、それは、ううう」

「うちのギルドのトレードマークになるといいな、レアホース」

「良いのかよ」

「もちもち」


 それぞれに名前を付けて嬉しそうに跨るギルメンを遠目に見るプレイヤー達。

 そんなの無視して始まりの草原を駆けていく面々。

 それぞれは+10の武器を持ち、これからの狩りの助けになると喜んでいる。

 それと言うのも調子に乗ってイベントの一攫千金のルーレットをあり金勝負で10回やって、強制退場になっちまったんだ。

 でもって1万回まとめて引けるクジを自動取得に設定してひたすら引かせた結果、インベントリの中に9999ってアイテムが重複で満載になり、アイテム合成も纏めてやる羽目になり、それぞれ100個ぐらいに纏まったものの、使い道が無いという結果にどうしようかと思ったんだ。

 なのでどうせならギルドに貢献しようかと、ギルメンに馬と武器の提供をやったんだけど、最初は購入とか言っていたけど掲示板の相場で断念したらしい。

 なんせノーマル×1024個で+10になるのに、+1の価格があんまり安くなく、それが512個必要な+10とか金が足らないって騒ぎになったからだ。

 なので一計を案じ、ギルメンである限りのギルドの共同財産からのリースって形にして、ギルドへの寄付にした。

 それでも馬にはそれぞれ名前を付け、ああして楽しそうに走り回っていると。


 角の生えたウサギが蹴散らされているんだけど……


「あーあ、良いなぁ」

「あそこのギルメン、儲けたな」

「なんかさ、ギルドの財産にして貸与らしいぜ」

「なら、タダかよ」

「オレも入れてくれないかな、あのギルド」

「アイテム目当てかよ」

「仕方無いだろ、+10とか買うといくらすると思ってんだ」

「そんな心根じゃ入るのは無理だろ。あそこ攻略最前線だしよ」

「良い武器が手に入ったらオレもちゃんとやるさ」

「防具はどうすんだよ。そんなんで最前線に出る気かよ」

「これは、武器を買う為に節約してたからさ。タダで手に入るなら良いのを買うさ」

「止めとけ止めとけ。そんなアイテム狙いでの入会希望とか、先が辛くなるだけだぞ」

「武器さえ手に入ったら後は知るかよ」

「お前、それは拙いぞ。ギルドの共有資産だからな、VRの資産も窃盗に含まれるって判例があるのを知らんのか。バツイチになるぞ」

「何だよそれ。独身だからそんなの関係あるか」

「ガキかよ。バツイチってのは前科1犯って事だ」

「そんな裏の隠語とか知るか」

「このご時勢にそれは自慢にならんぞ。てか、ここの運営会社の事すら知らんのか」

「もう止めてやれよ。子供にはきつい話題だぜ」

「ふうっ、いかんな、ついな」


 結局、余った+10はインベントリの肥やしとなり、今後は攻略系同盟ギルドに貸与する事になる。

 それはギルマスの要請で渡す事になるが、馬だけはそういう訳にもいかないと、そのうちオークションに出そうかと思っている。

 夜の時間帯の始まりの草原での花火大会を以って、イベントの結果発表と新装備でのお披露目は終わりを告げた。

 今後、ギルマスに対する装備貸与の相談が多くなると思うが、精々攻略の役に立てて欲しいと願うばかりだ。

 ただ、弓だけは職が皆無だったので、そのうちオークションにでも出してみようかと思ってはいるが、それも貸与になるかも知れず、今はインベントリの肥やし状態である。


 なんかさ、そういう将来の構想みたいなの、色々立てていたんだけどな。


 まさかあんな事になるとは当時、全く予想もしなかったけど、将来は何とかなるという、謎の閃きの理由だけは判明したんだ。

 それはともかく、春休みはゲームとリアルでそれなりに充実し、新学期が始まろうとしていた。

 新学期が始まるその日の朝、オレは何時ものように早朝のトレーニングが終わってシャワーを浴び、朝食を作ってお裾分けをした後、学校の準備をしていたんだけど、その日の閃きはおかしかった。


 その閃きのままにオレは学校に向かったんだ。


 だがそれが日常の終わりになると、当時のオレは全く気付かなかったんだ。

 それと共に、騙し騙し続けていた生活が遂に終わりが来てしまうという事にすら。

 全ての元凶は分かっているが、もはやどうしようもない。

 本当につくづく、例え消えたと分かっていても、それでも許せない想いは消えないものだ。

 叶うなら、過去に戻ってあいつを……


 それはともかく、新たな転機が訪れた事は確かだった。

 

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