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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
2.放置の対策
57/476

0057

 

 爽快な気分で目が覚めたけど、弓のリュックを持つと閃きが止める。

 やれやれ、まだ周辺をうろついているのか。

 仕方が無いから今日はランニングだけで終わらせるか。

 なのに、これを持って行けと言わんばかりに……やれやれ、まだ荒事が続くのか。


 やっぱりこれ、何かの干渉だろ。


(これは、何処からですか……あれは?……やれやれ、困りますね。排除プログラム発動……いけませんね、他人の世界で遊ぶのは。そんなに遊びたいなら特異点でお好きにどうぞ、くすくす。さて、また修正ですか、困ったものですね。さては、何処かから漏れましたね。下の存在が才覚とか、別に良いじゃありませんか。人は人と思えないとか、情けないにも程がありますよ)


 ランニングを開始するも、誰何すいかの声が掛からない。

 おっかしいな、確かに閃きは……あれ、クリアになってる。

 もしかして、退治してくれたのかな、ありがとう、管理さん。


(記憶封鎖の中でもそこまで辿り着きましたか。でも、やはり嬉しいものですね、そういう波は)


 2時間程、軽く走り回って家に戻り、シャワーを浴びて軽く汗を流す。

 そう言えばもう、隠す意味も無かったんだよな。

 今日は閃きもクリアなままだし、ちょいと裏の格好で攻めてみるか。

 結局、表の奴らは下に見たら舐める生き物なんだと遂に理解したぞ。

 となればもう、隠す事は逆効果になるって事だな。

 どのみち、大なり小なり裏に関わっているんだし、家と決別になった今、本当に隠す意味も無かったんだな。

 しっかりと決めるとやはり気分が引き締まるな。

 しかし、髪を上げると、額が冷たいな。

 やっぱり今日だけにしようかな。

 ふうっ、息が白いが、とっとと学校に行きますか。


(おい、あれ、誰だよ……知らねぇけど、なんでうちのクラスに……まさか転校生か……さあ……あれ、あの席、誰の席だっけ……沢田、えっ……まさか)


「よっ、おはよ」

「お前、今日はまた派手だな、くっくっくっ」

「はっきり言うとな、もう隠す意味無かったんだよな。オレ、家を出たつもりで、気分の中ではまだだったみたいだ」

「そのツラで冷遇されてたんじゃないのか」

「そうなのかな? よく分からんが、ツラの皮1枚の事で虐待とか、つまらん奴らだ」

「え、アンタ、誰よ」

「またかよ、煩い女だな。昨日も何か言っていたが、覚えておけとか、どういう意味だったんだ」

「え、嘘、そ、そんな」

「ええええっ、沢田君? うっそー」

「こりゃいかん。無視のほうが良かったぞ」

「くっくっくっ」


 妙に周辺が騒がしくなり、少し後悔しているけどもう仕方が無い。

 どうしてこんなに煩いんだ、全く。

 髪を下ろせばキモイと言うし、上げればまた煩いし。

 人の事とかどうでも良いだろうに、煩い奴らだぜ。

 やはり明日から元に戻そう。


「お、沢田、今日はやけにハンサムだな」

「よく分からないけど、そうなんですかね」

「ああ、普段と全然違うぞ」

「あんまりキモイキモイと煩いので、イメチェンしてみました」

「お前ら、今から騒いでも遅いぞ。散々貶めておいて、相手をしてくれると思うなよ」

「あああっ、そんなの狡いわよ」

「ねぇ、沢田君、お願いよ」

「1年間の態度で皆さんの事はよく分かりました。今後2年間、間違っても付き合う事はありません」

「はっはっはっ、まあそうなるわな。自業自得だ、お前ら。さあ、授業続けるぞ」


 授業が終わって昼休み。

 石崎に呼ばれて行った先、掲示板の様子を見せられる。


「とにかく見てくれ。それでな、特定して排除の予定だから我慢してくれ」


 ~~~~~


【弓は】ハズレ職について語るスレ・5【リアチ職】


 1 通りすがりの弓術師


 すっかり過疎っていたけど、とんでもないのを発見したから改めて立てる

 先日のギルド対抗戦での事だけど、訳が分からない攻撃で全滅した某ギルドの面々が今でも騒いでいる件について

 あれさ、リアチの弓職の攻撃なのよ

 そいつの言うところによると、射程距離300メートルらしくてよ

 かつて、レベル1で始まりの平原のエリアボスをワンキルしたらしいんだわ

 そんな奴だからさ、即死も当然って訳なんだけど、この弓の威力が有り得ない点について、リアルマネーチートの恩恵って事な

 つまりさ、廃課金すれば同じ事がやれるって事だよな

 運営の1億課金、もしかしたらこういうの想定してたんじゃないかと思う訳なんだけど、あいつがどれだけ課金しているのかは知らない

 だけどかなりの額なのは間違いないんだ


 てかさ、こういうのってずるいよな



 2 通りすがりの弓術師


 >>1


 嫉妬乙


 過疎ってるのにわざわざ立てるな

 ギルド対抗戦での詳細とか、ギルメン確定だろ

 そんなのすぐに特定されるぞ

 VRにしろ何にしろ、ゲーム会社はボランティアって訳じゃ無いのは数世紀前からの常識だろ

 そんなの無課金厨の戯言にしか聞こえんぞ

 やりたいなら自分もやれば良いだけだろ

 話はそれだけだから、もうアゲんな


 そういう晒しもネマ反になると知ってるか?



 3 通りすがりの弓術師


 ネットマナー違反取締り乙



 4 通りすがりの弓術師


 ああ、それらしき奴があのギルドの連中と会ってたぜ

 ある狩場でよ

 オレ? 当然、隠れて一部始終さ

 PK舐めんなってな

 ログ添えてギルマスメール

 まあ、うちらもロールプレイでヤバい事はするけどよ、ネマ反はダメだろ



 ~~~~~


「反撃乙」

「殆ど特定もやれているしよ、お前、辞めたりしないよな」

「辞めたら課金がもったいないだろ」

「で、結局は1億なのか? 」

「調子に乗って10億」

「うぐっ、マジかぁ」

「オレも甘いよな。もう縁を切った母親の勤め先で、親戚が取締役で、経営が怪しいってだけで寄付みたいに課金しちまうとかよ」

「そうなのかよ」

「久しぶりのVRMMOでその気になったのもあるんだけど、関連じゃなかったらそんなに課金するかよ」

「そんな心根の奴を勘当とか、考えられん奴らだぜ」

「だから造り酒屋も斜陽になるし、勤め先も傾くのさ」

「ならよ、運営ヤバくないのかよ」

「内部事情のリークになるから他言無用だが、経営が変わるらしいぞ」

「良くなるのか」

「この手の事業は初かも知れんが、組織としては(裏の)影響力もでかいから恐らく問題あるまい」


 そんなこんなでゲームの関連は全て任す事にして、特定して排除するまでしばらく入らない事になった。

 種火が無ければ炎上しない訳で、放火犯の退治まで待機する事にしただけだ。

 もっとも、そんな特定、裏に依頼すればすぐだし、その気になればこの世から消すのもすぐだ。

 だからこそ皆は余計に個人の特定はやらんのさ、やられるから。

 因果は応報になるのが裏のキマリ……よほど狡猾にやらないと今の時代、すぐに特定に至っちまう。

 だからこそ高いメールアドレスの需要もあるというものだけど、そういうのがやれないなら止めておいたほうが良いのさ。


 大体、掲示板に書くとか表と言っているのも同じだ。

 少しでも裏を知っていれば、あんな無謀で無駄な事はやれないものさ。

 それこそ藪を突いての自殺志願にも等しい行為。

 大体、アバターネームでコウって出してやっているのに、それに気付かない時点で表確定だろ。

 裏を知っていたら別人とは普通は思わないものだけどさ。

 それともまだ浅いって事かな。

 まあ、まだ数年の若輩だし、そうなのかも知れないな。


 それはそうと、殺しの件だけど。


 周囲の煩い女はまだしも、あの6人の事は妙に沈静化したまま終わりを告げた。

 どうやらサワコウに疑惑が移ったらしく、あの殺した男の関連になったようである。

 だから櫻木さんの伝手の本部が誘導した結果かも知れないが、何も言わないので確かめようがない。

 もっとも、何も言わないのは聞くなって事だから、オレも終わった事として処理している。

 ともかくその関連でしっかり回収したらしく、そのついでにテクニカル社のほうもかなり厳しいって話だ。

 それで追加融資の要請があるものの、巧い断り方が見つからず、どうしようかと言われてつい。


「バッチリの断り方があるぞ」

「ほお、どうすればいいんだ」

「金主が嫌がると言えばいい、クククッ」

「あっ、そうかっ、けど、良いのか」

「もう既に縁切りの公正証書はあるんだ。今更どうこうは遅いぜ」

「なら、頼む」

「伯父さんの為ならエンヤコラ」

「ああ、ありがたいぜ」


 そして櫻木さんに連れられてテクニカル社に赴く事になる。

 オレは最初、物陰で待機して、頃合で出る事になっている。

 全然懐かしくない女の声が近付き、櫻木さんがそれを断っている。


「何とかお願い。このままだと会社が危ないの」

「長男の12億はどうなったんですか」

「あの子はダメよ。金利とか言って」

「こちらも金利だから同じじゃないですか」

「酷いのよ、2割も寄こせって言うのよ」

「普通はそれぐらいですよ。本来なら私もそれぐらい欲しいんですけどね」

「身内じゃない、何とかお願い」

「実はですね、うちの金主さんがどうにも」

「説得するから、お願い」

「コウさん」

「やあ、櫻木さん」

「貴方ね、お願い、いくらでも良いから」

「足りないなら自分で稼げば良いでしょう」

「出来ないから言っているのよ。ねぇ、恩に着るから」

「ですが、貴方は次男に言いましたよね。旅行に行きたいなら自分で稼げと」

「あいつ……余計な事をっ。あんなのもう家の子じゃないんです。もう縁を切りましたから」

「縁を切ったのならますます貸す訳にはいきませんよ、ねぇ、櫻木さん」

「はっはっはっ」

「え、何よ、どうしたのよ」

「いくら縁を切ったからと言って、息子の姿を見て分からない親か」

「え……嘘」

「ここに貸すならうちの金、引き上げるよ」

「それは困るな。なんせうちのメインの金主なんだしさ」

「あんた、どうやって、そんな」

「さて、他人の貴方に話す義理はありませんね。縁を切ったんでしょ? さて、次は何処ですか、櫻木さん」

「うちの本部に来てもらえるかな。トップが是非にと」

「ふむ、何かな。融資なら500億までにしてくれるとありがたいが」

「謝るから、ねぇ、それ、貸して」

「櫻木さん、行きましょう」

「待って、待ちなさいよ」

「離せ」

「貸してくれるまで離さないわ」

「櫻木さん、どうしようか」

「やれやれ……おい」

「へいっ」

「離して、離して、あの子はアタシの子なの。だからお金はアタシのモノなの」


 頭がおかしいのか。


 やれやれ、あんな頭のおかしい女に虐待されていたとか、情けないな。

 けど、散々煽ってやったから危険な行動に出そうでもある。


「その時は処理してくれるかな」

「やはり行くと思うんだな」

「あんな辻褄の合わない事を平気で言うぐらいに狂っているんだ。絶対に来るよ」

「ああ、あれはさすがに」

「けど、もう何も言われないはずだ。良かったろ、クククッ」

「それでわざとあんな言い方を。はぁぁ、済まんな」

「より大きな餌を見せたからさ、もう櫻木さんには何も言わないでしょ。そしてこちらには顧問弁護士が控えていると」

「つまり、非合法に対してか、処理の話は」

「さすがに包丁とかで脅されて、起訴とか間に合わない。過剰防衛と言われても、死んだ後で蘇生してくれない以上、ただの理想論に過ぎない。それでも罪と言われるなら仕方がないけどな」

「あんまりは庇えんぞ」

「まあ、精々、発覚しないようにするさ。ああ、ちょっと買物を」

「うん? 何を買うんだ」

「急にフライパンが買いたくなった」

「くくくっ、何だそれは」


 底の厚いフライパンを購入し、そのまま手に持って……カィーン


「何だ、今の音は」

「何かがフライパンに当たった」

「まさか、おい」


 カィーン……カィーン


「逃げよう、殺される」

「とんでもねぇな。お前、そういう能力があるのか」

「虫の知らせって言うのかな……カィーン……時々、何かをしなくてはならない気がするんだ……カィーン」

「それで今まで危険を避けて来たのか、成程な。つまりあの時の矢もそうなんだな」

「何故か持っていかないといけない気がした」

「それで命拾いしたんだからありがたいが、うっかり漏らせんな」

「本部に飼い殺しは勘弁してくれ」

「ああ、さすがにそんな事になったんでは、オレは立つ瀬が無いぞ」


 (なんだ、あの化け物は……くそ、このままじゃ)


 何とか地下に潜り込み、櫻木さんは本部に連絡を入れ、遂に乗っ取りに乗り出すらしい。

 さすがに縁を切った子を殺して、その遺産を奪おうだなんて、裏でもやらないような狂った思考。

 それで財産が奪えるとか、そんな理屈は通らない。

 オレも石原弁護士に連絡し、テクニカル社の帰りに命を狙われた事を話し、録音を添付して起訴を頼んでおく。

 あれで沢田家も終わりになるだろうけど、自業自得だろうな。


 そういやそろそろサワコウの株が売られた頃合か。

 それであっちもどうにもならなくなったのかもな。

 櫻木さんに400抜かれ、ほぼ倍額になっていた株式も売られ、知恵を付けた相手にも色々言われ、もうどうしようもあるまい。


 ああ、そっちからの殺しか。


 けどな、オレを殺しても金は手に入らんぞ。

 なんせ管財人は石原弁護士になっているんだから、オレが消えたら彼の財産になるだけさ。

 けど、誘惑しても無駄だからな。

 彼への報酬という金の流れが無いのにも関わらず、ちゃんと支払われているんだから。

 しかもだよ、その報酬額は任意になっているんだから、欲しければ好きに得られるって報酬額だ。

 それなのに危険な橋を渡ってまで、オレの財産を横取りする意味も必要も無い。


 さてと、恒例の10桁、行っときますか。


 石原さんは別として18人に増えているけど、あんまり大量に買うと他の人が困るぞ。

 時間差攻撃で10桁、12桁、14桁と、メール送信予約をしておく。

 最初であり金勝負をした人は、次のナンバーズで小銭になり、深読みして控えた奴は、その次で小銭になる。

 更に言うなら欲の深い奴は来ないはずの16桁をひたすら待つ事になると。


 まあ、好きに買えば良いが、2割を忘れるなよ。


(ううむ、送ってくれるのはありがたいが、さすがに何度もとなれば目立つからな。だが、確かにこれならば金の流れは誰にも分からんな。なんせ無いんだから、ふっふっふっ。さて、起訴だったな。テクニカル社と沢田興産の繋がりか。この録音もまた勝手な物言い。本当にとんでもないな)


 仕手もどきのやれそうな株を物色し、閃きのままに購入&売却予約を組んでいく。

 でかいのはどうやら中抜きになるようだが、そんなのどうでもいい。

 散々、予約して遊んでいたら、ようやく預金が500億を割り込んできた。

 次の閃きに従って買おうと思ったら、迎えが来たらしい。

 適当に予約してサイトから撤退する。


「お待たせしました」

「テクニカルの帰りだ」

「本部も進めると言ってます」

「コウさん、どれぐらいいけるかな」

「ちょっと遊び過ぎたから300ぐらいかな」

「分かりました。それではその300を借りる手筈を」

「櫻木さん経由で良いんじゃないかな。彼の金主だしさ」

「それで良いのですか」

「ああ、彼にどれぐらいの率を渡すかは知らんが、こちらはそれ以下で構わん。もっとも、今回の件だけだけどな」

「分かりました、伝えておきますね」

「なら、オレは帰るよ、櫻木さん、またな」

「ああ、今日は済まなかったな、コウさん」

「遊びの金が戻ったら、また追加入れるからさ」

「ああ、その時は頼むな」


(かなり馴染んでますね……まあ、数年来の付き合いだからな……コウと言えば既にかなりの知名度になっていますが、まだ若いでしょ、あの子……しかし、才覚はオレ以上だろうな……そこまでですか……だが、取り込みは勘弁な……やはり嫌ですか……おいおい、うちのメイン金主を取らないでくれよ……え、メインなのですか。事務長はどうなりました……僅か160億で色々と便宜が煩いが、コウさんはそんな事は無い。その癖、現在、既に1000億……え、そこまでとは……湾岸の件に食い込めたのも、コウさんの金があっての事だ。だからオレからは切らねぇし、そっちにも変な勧誘は困る。あいつは金を持っているのに、何故かその手の欲が見えない奴だ。だからその手は使えんぞ……分かりました)


 デコボコになったこのフライパン、どうしよう。

 

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