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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
2.放置の対策
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 ナイフの汚れをあいつらの服で拭いた後、水溜りで軽く洗って水を切り、懐のナイフサックに戻す。

 雑用は確かだけど、弓道部に行きますか。

 もうじき3年も居なくなるし、そろそろ廃部の危機とかまた騒ぐんだろうな。

 おっと、消臭剤を使っておくか。

 意外と匂うものだしな、冬だけど。


「あ、お前か? うちのボスに頼んだのは」

「あっちの建物の裏に6つだ、処理しておいてくれ」

「何だと? お前みたいなのが殺し? 」

「髪をこうやると」

「うげっ」

「喋ると」

「知らないっ、オレは何も知らないっ」

「処理頼むな」

「分かりやしたっ」


(ヤベぇぇ、コウの表を知っているとか、うっかり喋ったらそれこそ殺される。オレは何も見てない覚えてない。よし、応援を呼ぶか……うへぇ、これはまた、妙に綺麗な死体だな。確かに血まみれだけど、一塊になったままかよ。とんでもねぇ凄腕じゃねぇかあいつ。争った形跡が無い殺しとか、あの若さで有り得ねぇぐらいだぜ。道理で本部がやけに褒める訳だぜ……何だとっ……どうして警官がこっちに……拙い、くそ、どうしてだ……タレコミでもあったかのように、次々と……下手打ったのか? あいつが? まさか)


 何時もの雑用を終わらせて、のんびりと帰途に就く。

 やはり廃部の話で持ちきりになっていて、もうじき2年も退部がどうのこうのと騒いでいた。

 的の張替えをやって掃除をして、初心者の弓でヘロヘロと軽く打ち、嘲りの雰囲気の中、片付けて帰る。


 やはり何も感じないな。


 いや、心が浮き立つぐらいだが、マジでヤバい心理状態だ。

 そういや、今夜からギルド何ちゃらとか言ってたな。

 よしよし、早く帰って……お、今日は白菜が安いのか。

 けどなぁ、また水炊きと言うのも芸が無いと言うか。

 よし、こいつは漬物にして、何か無いか。

 お、こりゃまた立派な。


「へい、らっしゃい」

「美味そうだな」

「国産黒毛和牛だからよ」

「いいとこ1キロ」

「お、何か良い事あったのか」

「ああ、かなりね」

「そういや今日は、カッカッカッ」

「あれ、少し多くない? 」

「サービスサービス」

「ありがと、おっちゃん」

「また買ってくれな」

「あいよ」


 いかんな、滴る物を見ていたらどうにも欲しくなって。

 よし、今日はステーキといくか。

 付け合せ、何にするかな。


「ちょっと良いかな、君」

「何です? 買い物の途中なんだけど」

「ああ、ごめんごめん……それは、肉かい」

「美味そうでしょ。見てたら欲しくなって、奮発しちゃいました」

「あ、ああ」

「それで、何か」

「いや、何でもない、悪かったね」

「いえ、では」


(うう、あんなの見たら、思い出して……はぁぁ、参りましたね。しかし、あれはシロですね。さすがにあんな凶事に関係は無いでしょう。だからこそ平気で、ああ、気持ち悪い……となると、他に)


 さあ、帰ってレアで食うかな。

 おっと、トマトジュースも買うか。

 いかんな、どうにも血が騒いで。


 料金を払って店を出る。

 警官がうろうろしているけど、処理が間に合わなかったのか?

 おっかしいな、気配も何も無かったと言うのに、何でこんなに配備が早いんだ。


「君、ちょっといいか」

「どれぐらいですか、これから料理なんですけど」

「独り暮らし? 」

「それが何か」

「君、高校生だろ、親はどうした」

「もういません」

「それは悪い事を聞いたね」

「いえ、親に勘当されましてね。今は弁護士の方が後見人です。何でしたら連絡しましょうか? 」

「いや、それは良いが、勘当って何をやったんだ」

「あのですね、これから晩飯作るんです。いくらこの季節だからと言っても今日はまだ暖かいほうだし、古くなるんですがまだ掛かるんですか? 」

「いや、そうじゃないが、古くなると言っても問題無いだろ」

「折角、国産黒毛和牛のいい所を買ったのに、古くなりますよ。ほら、美味そうでしょ、真っ赤だし」

「うっ、あ、ああ」

「ああ、早く食べたいのに。レアで」

「ああ、悪かったな」


 プシッ、ゴクッゴクッゴクッ……はぁぁ、久しぶりのトマトジュースは美味いね。


(う、思い出したら……いかんな、つい近いからと安易に……こいつはシロだな。あんな殺しの後で肉とかトマトジュースとか、あり得ん話だ)


 それにしても学生をターゲットにするとか、当局も何を考えている。

 いくら今時は裏にも関わるとは言ったけど、さすがに殺しまでは無いのが普通だ。

 それともコウがバレているとか、そんな事は無いよな。

 となると、サワコウ関連か? 違うのか。

 元両親からのリーク? でもないのか。

 となると何の関連だ。

 まあいい、ともかく今は肉が食いたい。

 とっとと帰って……ああ、血が騒ぐな。


 部屋に入って夕食の支度。


 早く肉が食いたくて堪らない。

 閃きで絶妙な火加減のレアとか、そんなのやっている場合じゃない。

 もうこのまま食いたいぐらいだ。

 あれ、美味いな……生なのにやけに美味いな。

 ああ、このままでいいから食おうか。

 でも冷たいから少し温めるか。

 両面を軽く焼き、何も付けずに食べても美味いが、やはり塩胡椒かな。

 軽く温めてそのまま食ったり、塩胡椒で食ったり、ソースで食ったりと色々やっていたんだけどさ。


 何か知らんが夢中で食っちまった……1キロもあったのに。


 弱ったな、明日も食おうと思ったのに、妙に食べたくなって。

 また明日、買いに行ってみるか。

 いや、まだスーパー開いているよな。

 追加で……参ったな、どうしてこんなに肉が食いたいんだ。


「お、あんちゃん、どうした」

「追加でいいとこ5キロ」

「大好評か」

「焼く、食う、焼く、食う」

「カッカッカッ、そうかそうか」

「たまにだから追加で買う」

「そりゃありがてぇな。今日までだから残ったらどうしようかと思ってな」

「今日まで? なら、あるだけちょうだい」

「良いのかよ、そんなに買って」

「これでも料理は得意なんだ。冷凍にすれば数日保つだろうし、こんな美味しい肉とか始めてだからさ、毎日食べたいんだ」

「すっかりファンになっちまったってか、ありがてぇな。よし、ならよ、ホルモンはサービスにしてやるぜ」

「え、良いの? 」

「いいっていいって、全部となると10キロ越えるからよ、そんなに買ってくれるなら問題ねぇさ」

「ありがと」

「でな、別に新鮮さが悪いって訳じゃねぇが、センマイを生で食いたいなら今日までだからな。早く帰って即座に食えよ」

「ありがと、おっちゃん」

「おうっ、またな」


 儲けた儲けた。


 ホルモンおまけって太っ腹だよな。

 センマイは生でも良いが、帰ってすぐ食えと言っていたな。

 酢味噌は買ってあるし、さあ、早く帰って食うか。

 生食の賞味期限ギリギリかもな、今日までというぐらいだし。

 残ったホルモンはタレに付けて、寝る前に焼いておくか。

 でまぁ、ステーキは明日以降でも良いだろう。


 冷凍庫なら数日は保つだろうし、明日の分はチルドに入れておけば冷凍の必要もあるまい。

 何ならサイコロステーキの弁当でも入れて、学校で食うって方法もある。

 弁当も毎日はきついが、たまになら作ってもいい。

 さてさて、生センマイか、楽しみだな。

 あれ、まだうろついているのか。

 やはり何かのタレコミの可能性が高いが、いい加減にしてくれよな。


「ちょっと君」

「今は急ぐんだ。用があるなら後にして」

「良いから来なさい」

「時間が無いと言っているだろ」

「せんぱーい、こいつです」

「何の話だよ」

「お前か、犯人は」

「あのですね、肉が古くなるから後にしてくれませんか」

「おい、こいつとはどういう事だ」

「あんな事ばかり言って、怪しいでしょ」

「嘘じゃないぞ。ほら、このホルモン、古くなったら食えないだろ」

「うげぇぇぇ」

「失礼だな、アンタ」

「いや、待ってくれ、これは、君、あっちに行きなさい」

「肉に変な匂い、付かなかったろうな」

「いや、悪かったね。ちょっと今日は」

「うちの顧問弁護士に連絡しておきます。買った肉にゲロかけようとする婦警とか、許せませんから」

「いや、あれはだね」

「もういいです。西署の婦警ですね」


 くそ、はーなーせー……センマイがぁぁぁ……古くなるぅぅ……


「待ってくれ、あれは、違うんだ」

「何かの陰謀ですか。さっきから何度も何度も呼び止めて」

「え、そうなのかい」

「任意にしろ、何にしろ、ちゃんと証拠があっての事でしょうね。昔ならいざ知らず、今時、杜撰な捜査とか、知らなかったでは通りませんよ」

「申し訳なかったね」

「とにかく、何かあってもいけませんから、顧問のほうに連絡しておきます。これからはこちらへ頼みます」

「え、これは、あの」

「うちの顧問弁護士ですが、何か」

「いや、あの、もう、言わないから、その、連絡は」

「もう行きます」

「本当に悪かったね」


【もしもし、石原さん?……うむ、久しぶりだの……あのですね。西署の山本って婦警だけど、晩飯のおかずにゲロかけようとしたんです。これは嫌がらせでも酷いでしょ……録音はあるのかね……当然……明日にでも来るといい……頼みますね】


「君、謝るからもう止めてくれないか」

「まだ何か言いたいようだけど、肉が古くなるって言っているのに呼び止めて。婦警はゲロかけようとするし、その上司は肉を腐らせて証拠隠滅を図る。西署ってのはどうなっているの? 」

「うっ、そんなつもりは」

「そんなつもりは無かったけど、結果的に肉が腐り、そして腐った肉だからゲロ吐いたって誤魔化すつもりかよ」

「そうじゃないのに」

「なら、呼び止めるな」

「あ、ああ」


 折角のサービスなのに、食えなくなったらどうしてくれる。

 生センマイとか鮮度が命なのによ。

 ああ、臭かった。

 ここらの住民はえらい迷惑だな。

 そこらで座り込むのは良いが、掃除ぐらいは自分でしろよな。

 おいおい、あの視線……どうにも覚えてらっしゃいって閃きが伝えているが、またぞろ何かの干渉かよ。


 パーン……


 うえっ、どっかで車のタイヤでもパンクしたか?

 まあいい、急いで家に帰って食べないと。


 (どうして死なないの? 確かに心臓を……何をしている……あ、私、どうして……懲戒免職では収まらないぞ)


 酢味噌とまぶして少し食う。


 うん、美味いけど、やっぱり鮮度命なんだな、これは。

 もっとシャキシャキすると言っていたから、本当はもっと鮮度が高いものなんだろう。

 もっと寒い時期なら良かったんだけど、今日はそこまでの寒さじゃないし。

 しかも夕方に立ち話とか、腐ってくださいとお願いしているのも同じだ。

 あれから何度も何度も呼び止めて、起訴は無しにしてくれとしつこいのなんのって。

 説明する義務は無いけど、そのたびに立ち止まる羽目になって。

 てか、風聞も悪いんだからと訴えたのに、なんであんなにしつこいかな。

 振り切るのは簡単だけど、それじゃ近所の噂になると、そのたびに起訴と弁護士の話をして、そこらの怪訝な視線の奴らの対抗策をやる羽目になるし。


 あれでえらく時間を食っちまったな。


 本来なら損害賠償も請求したいところだが、貰った肉ってのがネックなんだよな。

 確かに大量に買った肉のおまけだから、付加価値と言えばそうなんだけど、敏腕検事だとそこを突かれる可能性が高い。

 そもそも、そこまで争ってまで困る訳でもないとなれば、ここは残念だけど泣き寝入りして、状況に付いての起訴で収めておく。


 そりゃあな、今の司法は色々ときついのは知っているけど、それって自業自得なんだぜ。

 警察の歴史は冤罪の歴史って言われるぐらい、かつての捜査は杜撰を極めていた。

 それが今では科学の発展と共に冤罪も殆ど無くなったけど、ついでに判例も増えちまった。

 つまり過去の杜撰な捜査を、未来の科学が解き明かしたんだけど、その時に逆転無罪になる過程で、それが判例になったんだ。

 それらが枷のように今の司法を縛り、なおかつVRの時代と共に抑圧はVRで晴らすようになって、些細な犯行が消えていった。

 犯罪が減ればそれだけ忙しいから手抜きという言い訳も使えない。

 自然、吟味しての捜査をせざるを得ず、そして冤罪も無くて当然って世の中になっていった。

 だから今回の件は本当に稀なケースで、恐らく何かの干渉があったんだろうと推察される訳だ。

 だってそんな証拠もはっきりしていないのに職質とか、身を滅ぼすような捜査だし。

 しかも裏の関与を全く考慮に入れず、いきなり表と思しき少年を対象にするとか考えられない事態だ。

 さすがにあそこまでやれば、良くて懲戒免職、悪くて懲役にもなりかねない訳で、オレの顧問弁護士への電話でさしもの干渉も破られるぐらいの衝撃になったと。

 だからあんなに引きとめようとしていたんだろうけど、やっちまった記憶はあるんだろうし、そんなの今更だよな。

 それでもあの婦警はまた別だな。

 あれはプライドとか何かが影響して、妙に意固地になっているだけだ。

 そういや、背中に何かの接触を感じたけど、まさか……


 いや、さすがにそれは無いか。


 まあいいや、生センマイはまた何時か食べればいいだけだし。


 仕方が無いから残りは焼く事にして、残りのホルモンもタレに付けておく。

 肉はとりあえず冷蔵庫に入れ、ホルモン焼肉を楽しんだ。

 その後で浸けておいたホルモンを焼き、またタレに浸けて冷蔵庫に入れておく。

 ラップをしておいたから明日でも問題あるまい。

 サイコロステーキ弁当の予定が、ホルモン弁当になりそうだけど。

 しかし、何であんなに肉が食いたかったのかな。

 まるで衝動のようにひたすら食っちまったけど、本当はまだ少し食いたい気分。

 ああ、生センマイ、食いたかったな。


 満腹で眠気が出たけど、今日はログインしないと……

 

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