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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
1.如月の悪魔
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 ちょうど2年の夏休み明け、彼は半年振りに登校する。

 彼は別に入院していた訳ではなく、組の修行場で色々学びかつ修練に明け暮れていただけだ。

 彼の両親は既に無く、親戚たらい回しの果てに自活生活になっていた。

 その時の後見人は料亭の女将であり、今では親分さんも加わっていた。


 もちろん幹部候補生には違いないが、そこに強制は無い。

 あくまでも成人するまでの後見人としての位置取りで、どうしても嫌ならと言われている。

 しかし彼は既にその道でも構わないと決めており、後見の見返りに閃きを上納する。


 すなわち、大穴の予想である。


 それはともかく、新年早々入院する事になった彼は改めて挨拶をする羽目になる。

 左目に眼帯、それに左腕に包帯という、あたかもアレのような風体。


 そう、中二病な風体である。


「畑中強です、よろしくお願いします」

「趣味は何だぁ? 言ってみろよ」

「そうですね、今は学識の収集でしょうか」

「彼女居るの? 」

「今はいません」

「昔は居たんだ」

「まあそうですね」

「その格好の意味を教えてくれよ」

「怪我によるものです」

「左手がうずくのか? はっはっはっ」

「そうですね、筋を痛めましたので、もうしばらくは」


 もちろんそれは嘘である。


 実は彼は決意表明のつもりで刺青を入れてある。

 それは小さなものだが、見る人が見れば分かるマークだ。

 入院時期に変装をして、関西で入れてもらったのだ。

 このバッジと同じように入れて欲しいと、そう言うだけで簡単にしてくれた彫り師。

 確かに関東の組だが、如月組の金バッジを持って来て、それを彫ってくれなどと言われて断れる訳が無い。

 しかも飛び込みとは言え、500万を提示されれば否応も無い。

 かくして彼はその左腕に金バッジと同じ模様を持つ事になり、それは彼だけの秘密として今はある。

 それゆえに誰にも見せるつもりはなく、包帯はひたすら続ける事になるだろう。

 それゆえに中二病と呼ばれようと、彼はそれをどうにも思わない。


 気分は既に玄人がゆえ。


 刺青はちょうど手首の辺りにあり、後に腕時計で隠す予定になっている。

 もちろん、バンソーコーを張っての事なので、腕時計を外しても直接見える事は無い。

 ただ、うずくのだ。

 刺青が全てそうなのかは彼も知らないが、とにかく何かするたびにうずくのだ。

 それは体育の着替えの最中でも、刺青に当たると派手にうずく。

 なので何かするたびに腕を抑えている風情がどうにも中二病と重なり、変な意味でカモフラージュになっていた。


 左目に眼帯をして左腕を抑える人⇒中二病。


 この図式がクラスに広まり、彼は図らずも患者と認定されていた。

 それと言うのもクラス内に2人、隣のクラスに1人、同じような風体の者達が居り、だからこそ余計にそう思われたのも仕方の無い事かも知れない。

 確かに彼ら程に顕著ではなく、また呟いたりはしない。

 だけど所業が同じが為に、同類と思われたのも致し方あるまい。

 そうなれば同じ風体の奴らからの接触もあり、そこで初めて自分がどう思われているのかを知る事になった。


「悪いけど僕はそんなんじゃない。左目はドスで切られてね、傷が消えないんだ。そしてこいつはまた別口だけど、とにかく変に意味じゃないから」

「くっくっくっ、充分だぜ、同士」

「いや、だからね、くっ、腕が」

「ああ、うずくんだろ、くっくっくっ」

「汗が沁みただけだ。くそ、まさかこんなにうずくとは」


 白粉彫りの弊害か、手首のせいか、彼は数年それに苦しむ事になるが、それはまた別の話である。


 しかし彼は冷静に判断した。

 ここで中二病のレッテルを貼られて、何か困る事があるのかと。

 そして帰宅部だった彼は、流されるままに彼らのクラブに所属する。


『超常現象研究会』


 俗に、中二病クラブと呼ばれる場に混ざる事になった。

 そうなればそれに合わせようと、彼は通称を用いる事に決めた。


「畑中強です。悪魔と呼ばれています」


 この自己紹介は大いに受け、彼はすんなりと彼らのグループに受け入れられた。

 そんな折、ケータイが鳴る。

 見ればKSの文字……如月組からのホットラインだ。


『はい、もしもし、悪魔です……悪いが今日、来てくれるか……分かりました……済まんな、どうにも強い相手でな……お任せください……頼むな』


「おいおい、お前、悪魔で通じる相手が居るのかよ、いいなそれ」

「くそぅ、オレもそんな相手が欲しいぜ」

「そんな訳で帰ります」

「ああ、また明日な、悪魔」

「またな、悪魔」


 どうにも変な事になったと思いつつも、強い相手の事に思いを馳せていた。

 それは恐らく賭場の話であり、かなりヤバいブツが絡んでいる。

 単なる勝ち負けに呼ばれるはずもないとなれば、心を鎮めて精神を集中していく。


 学生服では表からは入れない。

 だから隣の家の庭から入る事になっている。


「ごめんください、サブです」

「どうぞ、中へ」


 サブ……サブロクのカブって事で、賭場関連の隠語になっている。

 玄関から入って専用の部屋で着替え、裏口から庭を通って隣に入る。

 そうして賭場に赴く事になる。

 いつもの変装スタイルである。


「あんちゃん、50万ほど替えたってや」

「へいっ、サブやん、久しいのぅ」

「今日は勝たせてもらうよってに、あんじょうしたってや」


 そんな小芝居の後、ターゲットの正面に案内される。

 どうやら賭場荒しに近い存在らしく、あちこちの賭場で荒稼ぎをしているとか。

 その見極めに呼ばれたのと、対抗で張る事で儲け倍率を減らす算段もある。

 ちなみに出目予測は10倍返しになっており、たまに適当な数字を言う者達も出る。

 だがそんなものがそう簡単に当たるはずもないが。


『半』

「せやな、2-3の半や」


 合わせた上に10倍返し。

 これで当たっても収益は1割しかない。

 そして当たり、彼に9割、ターゲットに1割。


『丁だ』

「ピンゾロの丁や」


 またしても同じ割合。

 しかしさすがに10連続的中となると、どんな奴でも疑って当たり前。


『これはどういう意味かな』

「どう、と言われてもな」

『そいつだ、そいつ。出目も合わせて10連続とか、あり得ないだろ』

「そういう貴方様も10連続で当てていますが」

『オレは出目まで当ててねぇ』

「それはこの際、関係無いのでは」

『くそっ、イカサマかよ』

「あんちゃん、言い掛かりは困りまんな。ワイは出目が読めるだけや」

『それがイカサマの証拠だろ』

「ならよ、そのサイ、手で持ってワイが当てたろか」

『何だとっ、やれるもんなら』

「1-5……ああ、3-5にしたな。これこれ、そう動かすな。今度は6-6か」

『透視……そ、そんな』

「他にもあるで。掛川組のバッジ、そんなところに入れといてええのんかいな」

『んなっ』

「しっかし今時、ふんどしとはまた」

『止めろっ、見るなっ』

「皮の話でっかいな」

『見るなぁぁぁぁぁぁ』

「後な、ネズミが1匹、縁の下や」

「囲めぇぇぇ、逃がすなぁぁぁぁ」

「ほな、後は宜しゅう」


(あんさんも度胸やな。掛川に騙されたんやろうが、この如月には悪魔が居るよってにな、イタズラはあかんて……何なんだ、あいつは……悪魔や)


「なあ、そろそろ体験したいんやけど? 」

「何を、ですねんな、サブやん」

「せやから殺しや、殺し。後々ここにお世話になるんやったら、殺しの1つや2つ、経験は必要やろ。あの掛川の回し者、どうせ殺るんやろ」

「本決まりになりましたんかいな」

「ワイは元々本気やで。覚悟も決意も終わってる。後は経験だけや」

「親分に聞いてみまっさ」

「殺人童貞を捨てん事には、切った張ったはやれんでな。それを命じる身になるんやったら、その経験は必要やろ」


(そら悪魔と言われるはずや。あん年であの落ち着きよう。ワイの直下より上やな。前途有望にも程があるやろ。ワイもそのうち抜かれようの)

(あかん、まだ早い……せやったらサブやんに直に頼みま。ワイからはどうにも……しゃあないな。せやけど、分かってんな……へい、直下でも構いまへん)

(やれやれ、組に入る前に既に部下がたんまりや。しかし、さすがにまだ早い。せめて18……)


「サブ、まだあかん」

「しゃあないな、ワイの決意、見せたろかいな」

「なんやて」


 見せるつもりは無かったが、ここいらがいい機会と腕時計を外す。

 そして包帯を外して手首を叩く。

 うずくがそれはこの際、無視をして叩けば、ほんのりと浮かび上がるマークがある。


「お前、これは」

「西で入れたんよ、クククッ」

「それが覚悟か」

「いやぁ、白粉彫りはうずきまんな。お陰ですっかり中二病や」

「そこまでしての覚悟か。ならば止める事は出来んな」

「得物は何を? 」

「ハジキや」

「そらあかんな。ちゃんと殺しの実感の得られる方法やないとあかん。ワイがこの手で確かに殺したっちゅう実感が欲しい。どやろ、素手で解体ってのは」

「お前、いくら何でもそこまでは」

「悪魔に相応しい所業やろ、クククッ。統率は別にカリスマだけやない。恐怖もありまっしゃろ」

「本気やな。本気でこの道に進むつもりやな」

「こうなったらとことんや。如月の悪魔の初殺し、とくと御照覧あれや」

「分かった」



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