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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
1.如月の悪魔
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 翌日から石本は欠席となり、それは当然詰問に発展する。

 しかし話は既にしている彼にとって、また同じ話の繰り返しに少しうんざりしていた。


「だから以前にも言ったよね」

「くそぅ……それであいつはどうなるんだ」

「さあ? 知らないし興味も無いよ。まあ、何処の海に沈められるんじゃない? どうでも良いけど」

「悪魔ってな、そういう意味かよ」

「あああれね、組員の人達が言い始めたんだ。殺しの現場を見ても平気でレアステーキを食うってさ」

「マジかよ」

「いやぁ、見ていると食いたくなってね。意外と美味そうなんだよね、人間の肉。くすくす」

「うううっ、狂ってやがるぜ、てめぇ」

「くすくす、まあそうかもね。でも別に問題無いよね」

「もうてめぇには関わらねぇ。だから何もすんな、良いな」

「何もしなければ良いんだね、分かったよ」


 そうして彼は本来なら多少なりともしようかと思っていた嘆願を、きっぱりと止める事にした。

 なので彼らは共犯扱いとなり、それぞれは拉致されて世間から消える。

 それと共に苛められっ子達も消える事になった。

 全ての証文は組に渡り、少し割り引かれて彼の手元に戻る。

 本来はそっくり渡すつもりだったが、額が額だからとの事で割引になったのだ。

 それをどう使うかなど、彼の興味の範疇にはなく、彼らの行く末になど全く興味もわかず、彼は素直にそれを受け取った。


 新年になって人数調整が成され、少し多かった隣から4人来る事になった。

 不良グループが消えて、それで苛めが無くなるなどと甘い話は無い。

 彼らに抑え付けられていた、第2不良グループとも言える存在が台頭し、新たな獲物を求めてうごめく事になる。

 彼らは愚かにも彼をターゲットに収め、囲んでの集団リンチに及ぶ。

 彼はじっと耐えてその場をしのぎ、そのまま病院に行って治療の後、診断書を書いてもらう事になる。


「しかしね、それは喧嘩か何かだろ? 答えないと書けないよ」

「そうですか、では事務長に訴える事にします。治療行為の診断書は、要請に対して義務ですからね」

「生意気な事を。書けばいいんだろ、書けば。だがな、10万払えるのか? 」

「ええと、橋本事務長、本当に10万円? 」

「いえいえ、2万円もあれば充分ですよ、畑中様」

「だそうだよ」

「そ、どうして」

「君、僕に恥をかかせてくれたね。この事は後の査定に影響すると思ったほうがいい」

「書きます、ちゃんと書きますから、なにとぞ」

「ちゃんと書いてくれるなら僕は別に構わないですよ? 全治6ヶ月の重傷って、くすくす」

「ふむ、それに形成も付けときましょうか。そうですね、鼻骨の形成などですが」

「プロにお任せしますよ」

「任せておきたまえ。勝訴になるように全面的に協力させてもらうから」

「なら、次は来週ですか」

「ありがとう」

「程々に」

「もちろんだよ」


 ノミに少々、後は場外か。

 あんまり派手に儲けると目立つよ、くすくす。


 彼とは場内で知り合った仲。


 そして賭場で再会し、幹部候補生なのを知る。

 もちろん変装を見破れなかった彼は、久しぶりと言われても分からなかったのではあるが。

 しかし、使い込みでヤバかった彼の周囲からその危険が消え、今では悠々自適な暮らしに変わっていた。

 彼から儲けの2割が振り込まれ、口座の額は少しずつ増えていく。

 そのうちに組の顧問弁護士とも知己を得て、今回の訴訟はその先生主導となる。

 診断書を添えての刑事訴訟となれば、彼らの家に内容証明郵便が届く事になる。


 もちろん彼は入院中だ。


 まあそういう名目の元、面会謝絶の札の中の部屋に彼は居ない。

 これはちゃんとした理由がある。

 すなわち、逆恨み対策である。

 捨て鉢になって殺されては堪らないと、本当は別の部屋で治療をしているという名目。


 もちろん警察にはそれを話してあり、部屋内に刑事が潜み、ベッドにはマネキンを寝かせていたりした。

 泳がせればためらう事なく病院まで泳ぎ、深夜の捕り物と相成った。

 かくして傷害犯は殺人未遂犯に昇格し、彼の財布を盗った件も合わせ、強盗殺人未遂事件として世間を騒がせた。

 確かに少年法の壁がありはしたが、少年院に何年も行けばその将来はかなり暗い。


 しかも下手にゲソは付けられない。


 だって如月組の幹部候補生が被害者なのだから。

 そんなのを下手に部下にすれば、如月組との戦争にも成りかねず、知らない弱小ならいざ知らず、かの業界で如月組と正面から喧嘩をする度胸など、そうそうありはしない。しかも、加害者を配下にするなど、筋もへったくれも無い話だ。当然、大義名分は如月組となり、大損をしてまで受け入れる組などあろうはずもない。


 もっともそれ以前の問題だったが。


 年少送りになった先では、彼らは如月組の関係者をはじいた奴らって認識になっていて、将来の就職先に仇を成した者達と口を利く者などありはしない。

 うっかり口を利いて知り合いとか言われたら……なので彼らに関わる者は誰も出なかった。

 関わったのは息の掛かった看守だけだった。


「しかし、お前らも度胸と言うか」

「何の話ですか」

「如月の将来の幹部をはじいたんだろ、評判になってるぞ」

「そんな、まさかあいつが」

「何でも親分のお気に入りで、だからこそお前らに関わった奴らも共犯扱いにするって回状が回っているって話だ」

「何であいつがそんな」

「さあな。それより、身辺に気を付けるんだな。お前らを殺って売り込みってのもあり得る話だ」

「先生っ、何とかしてください」

「聞いたぞ、何度も何度も殴り蹴りした上に、切り刻んだんだってな」

「そんなにしてない」

「まあいい、忠告はここまでだ。さあ、夜までに掃除、やっとけよ」

「うううう」


 彼の左目の上下には、縦に長い傷が残る事になった。

 それとある理由により、退院しても左手に負荷を掛けられない生活が少し続く事になりそうだった。


 かくして半年後、彼は登校するのだが……



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