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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
1.如月の悪魔
21/476

0021

 

 翌朝、ヤキソバパンを食べさせてみる。

 やたら柔らかいパンに驚いたようで、またしても夢中で食っていく。

 よし、コーヒー牛乳だ。

 木のコップに入れてやると、甘くて美味いと好評だ。

 そしてサンドイッチになり、ハンバーガーに続く。

 目新しいメシの数々はどれも美味いと、ひたすら食っていくセイル。

 食後のデザートにとプリンを食わせたら、妙に幸せそうに食っていた。


『最後の、あれは良いな。あんなに甘い物は初めて食うぞ』

『甘いパンもあるからな、そのうち食わせてやろうな』

『そういうのは子供が喜びそうだな』

『ああ、配ってやるさ。大量にあるからな』

『そんなにあるのかよ』

『ああ、こっちじゃ手に入らないと思ってな、可能な限り仕入れたさ』

『それでも食えばそのうち無くなりそうだが、それでも良いのか』

『たまに食うぐらいなら良いが、やはり種族が変わったんだろう。そこまで欲しいと思えんのさ』

『それならそれで良いが、出すのなら金を受け取れよ。こういうのは癖になるからよ』

『セイルは既になっているようだが』

『ああ、しっかり癖になってるぜ』

『開き直るかよ、クククッ』


 集落で馬を借りて移動が早くなるが、オレは馬になんぞ乗った事は無い訳で。


『良いから後ろに乗れって』

『馬と競争してみたい』

『やれやれ、無理だと思うがな』

『それ行け、やれ行け』

『すぐに分かるか。よし、行くぞ』


(馬と競争など、オレが解いてやっとぐらいだぞ。まさかそこまでとなると……いや、それはさすがに無理だろう)


 ほお、さすがに速いが、力を解放すればこれぐらい。

 最近まともに運動してなかったから、これはいい鍛錬になるな。

 うん、中々のペースのようだし、このまま走れば夜までに着けるかな。


(まだ追従するのか、呆れた奴だ。あれならオレ達と変わらんぞ。オレも戒めがなければこれぐらいは……しかし、さすがに王都までは無理だろう)


 昼まで走り詰めて俄かに止まる。

 到着かと思えば昼飯らしい。

 馬の餌はもらってあるらしいが、オレから馬へのプレゼントだ。

 角砂糖をやると喜んで食っている。

 やはり馬は何処でもこれが好きなんだな。

 後はニンジンを食わせてみるが、これもひたすら食っている。


『おい、何をやったんだ。飼い葉を食わないぞ』

『特別報酬さ。早駆けさせたんだし、褒美はやらんとな』

『贅沢になったら困るぞ』

『腹が減れば嫌でも食うさ。よし、昼は串肉とビールで良いな』

『ああ、これは実に美味いぞ』


 桶に水を入れて馬に飲ませた後、ブラシで撫でてやると気持ち良さそうにしている。

 本当はセイル用に買ったブラシだが、どうにもあいつの毛にはちょっと合わなくてな。

 どうやら馬用のブラシだったらしい。


『馬の世話にも慣れているのか。その年でどれだけの経験を持っている』

『これは単なる知識に過ぎない。馬にブラシを掛けたのはこれが初めてだ』

『それにしては慣れているようだが』

『馬がおとなしいからだろう。暴れられたらとてもやれんぞ。よしよし、気持ち良いか』


 そして昼からも走り、夕方にようやく到着する。

 馬は別便で返しに行くらしく、預けておくのだがどうにも名残惜しい様子で鳴く馬。

 ううむ、馴染んでしまったか、参ったな。

 ニンジンを係の人に渡し、メシの時に食わせてやってくれと頼んでおく。

 そして角砂糖を食わせて撫でてやり、またなと言って別れる事になる。

 どうにも寂しそうな気配を感じてやりきれないが、どうしてそんなに懐いたものかな。

 確かに馬と併走していたけど、あいつメスなのかな。

 2本足で走る同類と思われたのかな。


『あんなに馬に懐かれるのも珍しいな。乗っていたオレより馴染むとはな』

『あれ、メスだろ。2本足で走る同類と思われたんじゃないのか』

『はっはっはっ、そうかもな。よし、今日は遅いから明日の朝、いよいよ乗り込むぞ』

『良いか、人族の捕虜をとっ捕まえたと言うんだぞ。それでお前の失敗は帳消しになる。なんせ召喚された異世界人を捕らえたんだ。大手柄だしな』

『そんな事が出来るはずがないだろ』

『大義名分ぐらいは知っておけよ。牢屋に入れた後でお前の親に話を通せばいいだけだ。お前、王族のクチなんだろ。配下を殺られて逃げ帰ったとか言われたら、王族としての立場が無いだろうが。配下は殺られたものの、召喚された奴を捕らえて戻ったと言えば、些細な失敗で終わる。王族に話さえ通れば、下の奴らにどう思われようと関係無いさ。いいな、そうするんだぞ』

『お前はどうしてそこまでやれるんだ。確かに有効だが、そこまでする理由は何だ』

『オレはお前達に滅んで欲しくないのさ。今、王族と下の者が争えば、人族が更に有利になっちまう。お前が手柄を立てたとなれば、下の者も抑えられるだろうし、一緒に任務に就いた者の家族も名誉になる。それを充分に労ってやって、裏で対談にすればいい。オレはどうせこの世界に係累などは無いんだし、評判などはどうでもいい。良いな、そうするんだぞ』

『はぁぁ、これは親父にしっかりと言っておかんとな。万が一の事があったら大変だからよ』

『くれぐれも襲わないように言っておいてくれよ。オレもお前達の仲間は殺したくないんでな』

『馬と平気で1日走るような奴だしな、それは徹底させよう』


 そうして凱旋的立ち位置を徹底させ、セイルはオレを引き連れて王宮に入っていく。

 突き刺さるような視線の中を歩くのは実に背中がゾクゾクする。


『ああ、強烈な殺気の中を歩くと、実に殺戮衝動が刺激されるな』

『悪いな』

『背中がゾクゾクするぞ。誰でも良いから殺したい』

『頼むから我慢してくれ。お前が言い出した事だろ』

『それは分かっているが、これはどうにも。まさかここまで強い反発とは思わなくてな、ちょっと制御が怪しくなってきたぞ』

『とりあえず面会まで我慢してくれ』

『早く牢屋に入れてくれ。このままだとどうなるか分からんぞ』

『ヤバいなそれは』


 そうして王との面会となり、セイルは報告をする。

 配下を殺されたものの、召喚された者を連れ帰ったと。

 ますます強くなる殺気と共に、周囲の者達がセイルを絶賛する。

 召喚の秘法には届かなかったものの、召喚された者を連れ帰る快挙を成し遂げたと。


『表を上げい、人族に召喚されし者よ』

『ほお、中々の面構え。これが魔王か』

『何だと、貴様、死にたいかっ』

『静まれぃ』

『ははっ』

『中々の度胸だな。さすがは召喚されし者と言ったところか。セイル』

『はっ』

『こたびの任務ご苦労であった。召喚されし者の捕縛と連行は快挙である』

『ははっ』

『こやつを牢に入れておけぃ。後々、直々に取り調べる。良いか、手を出すで無いぞ』

『畏まりました』


(これは芝居であろうの。どうにもセイルが気遣っておるようだし。恐らく、捕らえられたのはセイルのほうであろう。それをこやつが解き放った可能性が高いが、その真意を知りたいものじゃ。セイルを従えるなど、余程の理由が無ければ無理な事。それを知らねばなるまいて)


 どうにも手荒いのは良いが、この服やはりまともじゃないぞ。

 叩かれても全然痛くないし、蹴飛ばされても全く効かん。

 あの神様、どれだけここの神様が嫌いなんだよ、クククッ。

 この服だけで鎧が要らないぞ。

 まさかと思うが、オレがあっちで買った服、全部じゃないだろうな。

 専用服だけで500着近くあるんだぞ。

 他にもサイズ色々の服を大量に仕入れてあるんだが、あれもとか言うまいな。

 とんでもない量なんだが、どうすんだよそんなチート服。

 まあ、王族にでも献上してみるか。

 ドレスはあんまり無いが、上着なら着れるかも知れん。

 しかしな、魔王の正体があんなだとは、やはり人族の言い掛かりに等しいな。

 あれのどこが魔王だよ。


 百獣の王のほうが相応しいぞ、クククッ。


 独房でのんびりしていると、俄かに騒がしくなる。

 ぼんやり見ていると王とセイルの登場だ。

 人払いをしているようなので、もうじき尋問の始まりだな。


『済まなかったの』

『セイルに聞いたのか』

『おぬしの案と聞いたが、真意はどうなのじゃ』

『伝えたままさ。オレは嘘はあんまりつかん。全然とは言わんがな』

『何の為じゃ。おぬしは召喚されたのであろうに』

『世界から誘拐される事を名誉に思うような、おめでたい頭はしていない。あいつらは他人の生活を無視して、勝手にオレ達を誘拐したんだ。他の奴らはおめでたい頭のようで、あちらに従うようだが、オレは巧い事、誤魔化して脱出に成功したってところだ。だからここに置いてくれ。そうすれば人族との戦争の時には存分に人族を殺してやろう。オレは殺しが好きな狂人だから、殺す事を厭わない。人族の軍が迫るようなら、人族の振りして忍び込み、中から存分に食い荒らしてやろう』

『恨んでおるのかの、召喚した者を』

『今では特に恨みは無いさ。ただな、勇者を騙して戦いに送り出すような、あの国の体制が気に入らん。やれもしないのに魔王を倒したら元の世界に送り届けるなどと、そんな事を平気でのたまう奴らが大嫌いだ。帰りたい心を利用して敵を倒させ、終わったら用済みとばかりに真実を話す。さぞかし腑抜けのようになるだろうが、戦いが終われば勇者など無用の長物にされるのがオチ。過ぎた武器は平和の脅威とばかりに、そうするのが目に見えている。そんな奴らに従う理由など無いさ』

『愚かよの。そのような事を平気でするとは』

『最初に騙して勇者を隷属だぜ。従う気になれるかよ』

『あのような忌まわしき物、まだ使っておるのか、人族は』

『あいつらが攻めて来るようなら、同郷のよしみでオレが殺してやろう』

『さて、おぬしを何処に置くかじゃが』

『町の外れに軟禁ってのはどうだ』

『外に出られなくても構わんのか』

『特に問題は無いな。今は、だけどな』

『ふむ、それなれば離宮にするかの。セイル、おぬしが離宮の警備担当になれ、良いな』

『畏まりました』

『セイル、競争、忘れてないよな』

『うっ』

『ほお、競争とな』

『セイルと競争の約束をしている。封印を解けば勝てると息巻いていたが、どうだろうか』

『うむ、なればそれを執り行おうかの』

『ほとぼりが冷めた頃に』

『うむ、そう致そう』

『セイル付きの覆面従者って役回りでどうだ』

『成程の。離宮住まいと思わせてセイル付きの従者。頃合を見計らっての競い、そして公表か』

『オレは自分を人族と思ってはいない。見た目は人族だが、中身は違うと思っている。セイルとの競争で似ているが人族とは違うと理解してくれると良いのだがな』

『皆がそう思ってくれる事を願うか』

『そもそも、血を飲む人族など聞いた事があるまい』

『吸血種か、それなれば。しかし、あやつらは既に滅んだと聞く。ふむ、末裔か、それなれば』

『人族に紛れし吸血種、その先祖返りでも良いぞ』

『その手の策はいくらでも沸くようだの』

『これも嘘と言えば嘘だがな』

『策と嘘は違うものじゃ。うむ、それを使おうかの』

 

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