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自由奔放な猫の如く  作者: 黒田明人
1.如月の悪魔
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0016

 

 ビールとジュースとカップラーメンを1人に売った後、他の3人も色々と買いに来た。

 どうやら個人個人で管理したいようである。


『オレにもラーメン売ってくれ』

『カップうどんとかは? 』

『うおお、カレーうどんあるか』


 1箱ね。


『金貨50枚』

『はぁぁ、ぼったくりだよな』

『仕方が無いじゃない。こっちでは手に入らないんだし。ああ、アタシはカップ焼きそばで』


 1箱ね。


『私はそういうのは良いわ。他に何があるのかしら』

『月の友とか? 』

『えっ、まさか』

『えええ、変態よ』

『ああ、買わないんだ』

『あああ、謝るから、お願い』

『1枚が金貨1枚。24枚入りだから金貨24枚。2袋買えば金貨40枚』

『本当に足元を見るわね。じゃあさ、6袋を金貨100枚ってのはどうかしら』

『値切りに掛かるんだね』

『だって君、使わないよね』

『世にはオークションって代物もある。貴族の奥方がこれを知れば? 』

『はぁぁ、仕方ないか。5袋で金貨100枚、これなら良いでしょ? 』

『アタシは2袋ね』

『おい、残り60枚で何かねぇか』

『宅配ピザ1枚金貨10枚』

『それは高くないか』

『金貨60枚なら10枚良いよ』

『おしっ、それでいい』


 かくして皆様の資金の殆どをせしめ、所持金は金貨395枚となったのでした。

 確かに当座の資金とは言ったけどな、あれに旅の資金も入っているんだ。

 武器や防具も自分で揃えないといけないし、外での食事や宿泊もそれで賄うんだ。

 だってさ、金貨1枚が10万円相当って換算率だぞ。


 銅貨 10円

 銀貨 1000円

 金貨 10万円


 これがメイン通貨で、サブ通貨に半貨ってのがある。

 それもモロに通貨を半分に切ったような通貨で、半銀は銅貨50枚として扱われている。

 それはともかく、この国の生活水準からすれば、金貨100枚もあれば武器から防具から旅の準備は余裕で揃うのだ。

 その為の資金なのに簡単に手放したな。

 やはり持ちなれない金を持つとそうなるものなのか。

 望郷心と不味い飯があいつらの判断力を奪ったに違いない。

 生活物資はまだまだあるんだよな。

 またそのうち売ってやろうかねぇ。

 化学製品は手に入らないだろうと、色々考えて大量に購入した結果だ。

 あいつらシャンプーとかコンディショナーとかも欲しがりそうだな。


 たくさん買ってくれたからと、4人にトラベルセットを渡しておいた。

 かなり喜んで早速、今夜のお風呂から使うとはしゃいでいた。

 一度落とした生活水準も、上げる手段があると知れば、またぞろ欲しいと言うに決まってる。

 いかにぼったくり価格を付けようと、便利さを知っているからそうそう諦めも付くまい。

 追加資金を貰ったにしても、売られていたら果たして我慢出来るかな?

 まあ、今はまだ追加では売らないさ。


 気が向いたらまたな。


 資金を手に入れたので巷の防具屋に行ってみる。

 盾を買おうと思ったのだ。

 確かに斬ったり殴ったりが手っ取り早いが、あいつらにそれを見せるつもりはない。

 となれば盾2枚で遊んでみようと思ったのだ。

 しかし、つらつらと見ていくが、適当な盾が無い。


『もっとこう、丈夫な盾は無いの? 』

『丈夫と言ってもなぁ、これなんかどうだ』

『全然だね。こんなのすぐ壊れそうだよ』

『そうなると注文を受けての特注しか無いぞ』

『ならさ、形はこれで材質を全面こいつにして、こんなのをこいつに付けて欲しい』

『おいおい、そりゃまた相当な重さになるぞ』

『ダメかい? 』

『まあ、金さえ出してくれるなら、どんなのでも作るが』

『前金で支払うよ』

『とは言うが、金貨10枚は最低かかるぞ』

『この金属、そんなに高いんだ』

『こいつはな、武器なんかに使う特別な金属でな、確かに堅くて丈夫だが重いのが難点だ。だから少し使う事で丈夫にしてあるんだが、安くはないんだ』


 丈夫で硬い金属と言われ、つらつらと見てみるがどうにも鋼にしか見えない。

 特別な金属と言われても、元は鉄な訳だし、どうしようかと迷った彼だった。

 だが今の段階では充分だろうと、彼は纏めて注文する事にした。


『盾1枚が金貨10枚かぁ』

『ひたすら丈夫な盾にするなら、確かに全てこいつなら間違いは無い。特注ならとことん拘ってやるが、さてどうするね』

『丈夫な盾1枚金貨15枚で10枚作って』

『5割り増しか、つまり拘っても良いんだな』

『とことん拘っていいよ』

『どうにも持てそうにないんだが、誰が使うんだね。まあ、それを詮索する気はないが』

『ほら、金貨150枚』

『ううむ、あるところにはあるもんだな。よしっ、確実な品を拵えてやろう。ちょいと待ってな、受け取りを書くから』


 街に何軒かあった防具屋の中で、この店が一番ってのが彼の予測。

 店内に入って色々見るが、丈夫さは足りないものの品はどれも丁寧に拵えてあった。

 店主を見ても悪い予感は立たず、これならばと特注に及んだ彼だった。


 王宮に戻った彼は、いつものように訓練場に顔を出す。

 元クラスメイト達は熱心に訓練しているようであるが、どうにも素人のそれだ。

 確かに身体能力は向上しているのだろうが、あいつらは揃って文化部だ。

 だからどうしてあいつらが選ばれたのか、今でも分からない。

 事によると、誰でも良かったのかも知れないと、彼は今ではそう思うようになっていた。


 そもそも、水増し発動な召喚なら、それだけ精度が落ちても不思議ではなく、魔法の概念からすると、次元の穴から一番近い存在を手っ取り早く引っ張ったという感じでは無いかと思われたのだ。

 だから恐らく、水増しが無ければそこに取捨選択の自由があるのではないかと思われ、かつての伝説の魔導士が呼んだ勇者とは意味合いが違うのではないかと思われた。

 それでも神様の3つの願いがあるからには、そこいらの一般人よりはましである。

 だからそれだけが目当てで呼んだ可能性もかなり高く、どうにも神頼みな勇者の存在に、少し憐憫を感じた彼だった。

 ここいらの事情や世界の知識もテラによって挿入されており、彼はそれを自然に活用していた。


 かなり見込まれたものである。


「やっているね、勇者の諸君」

「お前、毎日、何しているんだよ」

「そりゃ、書庫で色々な本を読んでいるよ」

「くそぅ、そういうのをやりてぇのによ」

「勇者は戦うのがお仕事。一般人は本を読むのがお仕事」

「いいからアンタもやりなさいよ」

「剣が重い」

「ああ、そういや、STRは1だったな」

「お前ら揃って10なんだろ。そんなのと一緒にすんなよな」

「ならよ、少しでも鍛えたらどうなんだ」

「誘拐犯の言うままに? ごめんだね」

「そりゃ確かにそうだけど、仕方が無いだろ、戦いが終わらないと帰れないんだから」

「あれっ、帰れるって言ったの? 」

「ああ、魔王を倒せば帰れるようになると言ってたぞ」

「ふーん、召喚魔法陣にそんな機能がね。まあいいや、僕は別に帰れなくても良いから、戦いはお任せするよ」

「おいおい、それで良いのかよ」

「天涯孤独はどこでも構わないさ。それにうっかり帰ったら色々と法律も煩いしね。ここじゃお酒もタバコも飲み放題。いい世界だよね」

「ほんと騙されたわ。アンタ、意外と不良だったのね」

「そんなのを見せるなんて愚か者のする事さ。クラスで粋がっていた雑魚とは違うよ」

「じゃあ、少なくともあいつらよりは強いんだな」


 それにしても暢気なものだと彼は改めて思う。


 召喚魔法陣に送還の術式などは含まれておらず、魔王を倒させる為のその場しのぎの嘘だと彼は気付いていた。

 世界から誘拐した者達の言うままに隷属の首輪を着ける事になった彼らは、まだあいつらの事を信じているらしい。

 余りに頭がお花畑な彼らに対し、これが平和ボケなのかとつくづく哀れに思った。

 そしてそろそろ現実を認識させてやるべきかと思ったのだ。

 彼はもうじきここから出るつもりであったが、彼らを切欠に使おうと思い立つ。


「何を以って強さとするのかは知らないけど、殺し合いなら僕の勝ちだね」

「お前、殺し合いとか簡単に言うのかよ」

「何を言っているのかな? 君達はこれからそれをするんだよ。相手は真っ赤な血を持つ存在だ。そんなのを殺していくのが君達のお仕事だろ」

「え、でも、モンスターとかじゃ」

「魔族は人間じゃないから殺しても平気かい? モンスターなら殺しても平気かい? そもそも君達は動物を殺した経験すら無いんじゃないの? 」

「だけど必要ならモンスターなら殺せるさ」

「元の世界で動物すら殺した事の無い存在が、いきなりモンスターをね。僕は猟師と山で色々殺したから慣れているけど」

「オレもやろうと思えばやれるさ」

「ああそうさ、モンスターを殺さないと平和にならないんならやるさ」


 さて、いよいよ真実を暴露しちまうか。


「魔族ってさ、ファンタジー小説じゃあ獣人族の事なんだけど」

「うえっ、嘘でしょ」

「ケモミミ、殺すお仕事」

「嘘だろ、そんなの聞いてねぇぞ」

「ああ、デタラメ言うんじゃねぇよ」

「ともかく、殺しに慣れないとね」

「アタシ、そんなの嫌よ」

「何? 話し合いで平和になると思ったの? そんな事で平和になるなら召喚とかやらないよね」

「モンスターなら殺せるさ」

「いいや、人殺しだ」

「嘘だっ」

「うううっ、そんなの嫌よ」


 最初にそれを想定せず、世界を平和に導くとか簡単に考えていたんだろうね。

 元の世界でも平和の為の戦争なんてのもあった事だし、そういう戦いの事を全く考えなかったとは。


 つくづく頭がお花畑なのだな。


 おっと、騎士様の登場か。

 今日は特別な訓練か。

 試し斬りね。

 こいつらはモンスターだと思っているようだけど、オレの予想では死刑囚だ。

 そろそろ殺しに慣れてもらわないと、戦いに出せないもんね。

 さて、そろそろ計画を実行しようかね。


『何をしている。お前か、お前は良いとして、今日は試し斬りだと言っておいたな。準備をして集合だ』

『あの、その試し切り、参加しても良い? 』

『お前が? まあ、やれると思うなら構わんが』

『最近、殺してないんでね、勘が鈍るからここいらで殺しておきたいんだ。良いかな』

『ほお……見てくれとは違って、そいつらよりもキモが座っているな。それに殺しの経験も豊富のようだ。うむ、実に意外だ』

『それで、殺しても良いんだろうな』

『うむ、死刑囚なのでな、しかし、そうなると勇者でないのが実に惜しいな』

『こいつらには殺しより先に、拷問でも教えたらどうだ。まず先に人を傷つける事に慣れさせないと、いきなり殺しの体験は精神を壊すぞ』

『成程な、そこまで脆弱か、それならばそのほうが良いかも知れん。しかしお前、かなりの度胸だな。余程の死線を越えたとみえる』

『僕はね、もう恐怖も何も感じる事がないんだよ。だから誰でも殺せるし、誰でもいたぶれる。命令のままに、どんな善人でも殺せるのさ』

『その年でそこまでになるとは……まあいい。ともかく皆で来るんだ』

『アタシは嫌よっ』


 ああ、嫌がっても仕方が無いぞ。

 だって君達の付けているのは隷属の首輪だから、傍らの魔術師の操作で足は動き出す。

 嫌なのにどうして足が止まらないのって言われても、そういうアイテムだから仕方が無い。

 死刑囚が8人か、全部殺しても良いのかな。


『ねぇ、こいつら全員殺しても良いの? 』

『お前だけが殺すなよ。勇者の為の儀式なんだから』

『じゃあさ、後は僕が何とかするよ。同郷のよしみでさ』

『やってくれるか。オレはそういう細かい事が苦手でな』

『女子供の機嫌を取りながら、殺しに慣れさせるのも大変だよね』

『ああ、だから実際、どうやれば良いのか分からなくてな。やってくれるのなら任せるぞ』

『お任せあれ。んで、装置は? 』

『おい、こいつの言う事を聞くんだぞ』

『はい、分かりました』


 こいつにも首輪か……全く、隷属の好きな国だな。

 それはともかく、任されたとばかりに死刑囚に近付き、彼らの様子を見る。

 全員が人族のようだが……あれ、こいつは違うぞ。

 人族のようだが、オレの鑑定は誤魔化されん。

 神様にもらったスキルだしな。

 しかしあの神様、こっちの神様に何か恨みでもあるのかねぇ。

 あの称号、とんでもねぇじゃねぇかよ。

 下手な加護なんかより余程強いぞ。

 まあ、オレにはありがたい話だが。



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