前夜
二ヶ月連続テストはずるいと思うんだ・・・
四人は明日に向けて、早速準備を始めた。ソフィアは町へ買出しに一人で行ってしまい。エーリルはほぼ初対面の二人と荷造りをしていた。
「それとこれ、まとめといてくれ」
「ああ、うん。どうやってまとめるの?」
「分からないのか」
フリッツはエーリルに対して疑問を持ちながらも、荷造りの仕方を教えた。あらかたの作業を終えると、フリッツは自分の武器を並べ、カインは魔法書を広げて勉強し始めた。エーリルは特にすることが見つからなかったので、フリッツの作業を椅子に座って眺めていた。
「別に珍しい物なんか無いぞ」
「まあ、いいじゃないか見るくらい」
フリッツはしばらくの間武器を磨いていると、ふと作業の手を止め、エーリルに顔を向けた。
「お前、もしかして戦ったこと無いのか?」
エーリルはぎくりとし、視線を泳がせた。
「本当なんだな」
「うん」
「いろいろ不自然な点が多かったからな」
「話すと長くなるけどいいか?」
「ああ、いいとも」
「なにやら面白そうな話ですね」
カインも手を止め、エーリルの話を聞き始めた。
エーリルは隠していてもいずればれると思い、元いた世界からこの世界へきた経緯を話した、もちろん性転換のことは言ってない。
「いきなり信じられるようなことじゃないな。なあ、カイン、異世界から人を召喚なんて出来るのか?」
「不可能とは言い切れないです。もし本当にそうだとしたら、エリスは自分で魔法陣を作り上げたことになりますね」
「なんか、ごめん。明日戦うのに足引っ張って」
フリッツとカインは幻滅するどころか、にこりと笑った。
「誰にだって初陣はあるもんさ、とりあえず、お前は前に出ないで後方にいるように行こう。」
「一番の後方は私がやりましょう」
「うん、ありがと」
「となれば練習だ」
フリッツはいきなり立ち上がって、自分の装備である短剣を拾い上げた。
「とりあえず、剣術を一通りやったんならさっそく実戦だ」
そう言うと、短剣の切っ先をエーリルに向けて戦闘態勢をとった。
「えと、大丈夫?」
「大丈夫さ、素人の剣術で怪我するほど下手じゃない」
カインは邪魔になるような荷物をどけ、多少動き回れるような空間を作ると、安全な場所から二人を見守った。
「じゃあ、行くよ」
エーリルは盾を構え、剣を引き抜いた。天幕の中に透明な抜刀音が響き渡り、それに続くように緊張が張り巡らされた。
「いいか、相手から目を離すなよ。盾で防ぐ時もだ」
フリッツが一歩踏み出したかと思うと、一気に間合いを詰められ、短剣が弧を描いた。エーリルは反射的に盾で短剣を受け止め、剣を水平に薙ぎ払った。しかし剣は空を切った、フリッツは一瞬で間合いから脱出していた。
「以外に反応が良かったな、だが攻撃が大振りだ。もっと小振りで相手の隙を作り出すんだ」
今度はエーリルが前に踏み出し、素早く3回斬撃を繰り出したが、すべてかわされ、足を払われて床に倒れた。
「ほら、まだまだやるぞ」
起き上がり、フリッツと距離をとると、エーリルはヨハンの訓練を思い出した。何百、何千と繰り返された剣術だから、考えなくても出来る。出来ないのは当てること、訓練では止まった目標にひたすら打ち込んでいたが、今は違う。
(短剣だから距離をとっていれば問題ないと思っていたが、間合いを一気に詰めてくる。一番効果的なのは)
エーリルはフリッツを見据えた、足の動き、目線、短剣の軌道。いつの間にか緊張が取れ、怖いくらいに冷静になっていた。
「そっちからこないなら、こっちから行くぜ」
フリッツが足を前に出そうとした瞬間、エーリルは行動に出た。
(今だ)
突っ込むぐらいに強く踏み出し、盾で短剣を弾くと、エーリルは剣の持ち手を逆手に返し、全身で円を描くようにしてフリッツに切りかかった。
「あ、やべ」
その刹那、高い金属音がしたかと思うと、エーリルの手から剣がなくなっていた。剣は床に落ちて、そばには一本の矢が落ちていた。
「いきなり何やってんのよ、吃驚するじゃない」
声のほうへ目を向けると、大荷物を抱えたソフィアがいた。その手には短弓を持っている。
「フリッツがエーリルに剣術を教えていたところです」
「にしては明らかに死にかけたてわよ」
「だって、フリッツが素人の剣ぐらい余裕って」
「まさかあの素早さで逆手に変えてくるとは思わなかったんだよ」
ソフィがエーリルの剣を拾うと、フリッツに渡した。
「エーリルの装備は普通のとは違うのよ」
エーリルの剣を受け取ると、非常に驚いた表情をした。
「何だ・・・この剣」
フリッツはカインを呼び、二人で剣を見ながら何かを話していた。しばらくして他の装備もみたいと言ってきたので手甲を外し、ついでに盾も一緒に渡した。
「間違いないな、これは魔法金属だ」
「何よ、それ」
ソフィアも初耳だったらしく、訝しげな表情をしていた。
「魔法石と鉱石を融合した、非常に稀な鉱石さ。今のところ情報がほぼ無くてな、伝説的な存在だと思ってたが、まさか装備の状態で出会えるとはな。製作者に会ってみたいもんだ」
「なんか照れるな」
「そうかしら」
翌日
ついにエーリル達にコア破壊命令が出た。予言どおり、廃坑の奥深くでコアが確認されたらしい。エーリル達には現地民の討伐隊補助として参加することになった。
「さて、準備は出来たかしら」
「大丈夫だ、やってくれ」
エリスはエーリル達四人を一箇所に集め、囲むようにして魔法陣を描き始めた。
「ソフィア、本当に妖精族の里にいなくていいのか」
「ふん、武装族に心配されるほど妖精族はやわじゃないわ」
「こんなときに限って喧嘩はやめてくださいな」
エリスは3人の会話を聞いてくすくすと笑った。
「どうかしたか?」
「何にも無いわ、エーリル、いい仲間を見つけたわね。」
「見つけたというか集まったというか」
「大切にしなさいね」
「ああ、もちろんだ」
エリスが魔法を唱えると、瞬く間にエーリル達は光に包まれて姿を消した。
会話が多かったですね