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火に沈む 2

太陽が見あげる程に高くなった頃、エーリルが素振りして時間を潰していたらフリッツが帰ってきた。

「あ、帰ってきましたよ」

カインは本を閉じ、鞄にしまって服の埃を掃った。ソフィアとオステアはエーリルの素振りを眺めているだけだった。

「おーい、なんか役割振られた」

「どんな」

フリッツは手に持っていた地図を広げた、この町を真上から見た物で、塔を中心に広がる町はどこか蜘蛛の巣を連想させた。

「俺らの配置はここ」

そう言って、指をさしたのは町の北端だった。

「コアこの町に出現するのは分かっているのだが、町のどこに出現するのかが分からないそうだ」

「随分と大雑把ね」

「その分、分かりやすくていいんじゃないか」

早速、それぞれ自分の道具を抱えて決められた場所へと急いだ。町の中にも焦りが見え、全員どこか焦点の合わない視線をめぐらせていた。その理由は、コアがどこに出現するのか不明なためだった。もしかしたら目の前に現れるかもしれない、そんな不安が心にとりつき、ちょっとした物音でも剣の柄に手がかけられた。

「よし、ここら辺だな」

エーリル達が着いた場所は、見張り台の下だった。物の影に不必要なものをおき、それぞれ武器を構えた。

「じゃあ、ソフィアとカインは見張り台にあがってくれ。そうすれば弓を活かせるし、詠唱も十分にやれるだろう」

フリッツが指示すると、誰も文句は言わずに行動に移った。

「エーリルと俺とオステアは道で待機だな」

「私はソフィア様の側に居りたいです」

「オステア、我慢だ」

オステアはしかめた顔をして小石を蹴った。エーリル達からは塔への道が一本見えるだけで、見通しは悪かった。塔までの道に配置された兵を数えると、少なくとも二十人はいた。もしまわりも同じように配置されているとするならば、百人近くは集められたことになる。

「かなり大掛かりだな、一個のコアにこんな人数あてて大丈夫なのか」

「さあな、町に出現って今までになかったらしいからな。そりゃ少しは警戒するだろ」

多少の胸騒ぎを覚えつつも、そういうことで納得しておいた。ふと、空を見あげると城のようにずっしりとした積乱雲が見えた。気づけば日差しもきつい。たしか、ここに来てから三ヶ月ぐらいだった気がする。そうだとしたら、向こうはすでに夏休みだ。自分のいない向こうの世界を考えながら、エーリルは建物の日陰に移動した。

「えーと、なんですかあれ」

日差しから日陰に避難してきたオステアは塔の方向を指差した。エーリルがそのほうへ向くと、塔の上に赤黒い球体が見えた。エーリルが声を出す前に、フリッツが剣を引き抜いて走り始めた。

「コアだ!町の中央に出現しやがった!」

周りからざわついた声が上がり、抜刀音が後に続いた。コアの中から人型ノーネームが無数に這い出し、塔を伝って町に広がり始めた。エーリルもあわてて剣を引き抜くが、予想外のことにどうすればいいのか分からなかった。

「フリッツ、俺達はどうすれば」

「お前らはカインとソフィアを守れ!」

塔の周辺では戦闘が始まった、しかし実際にノーネームと剣を交えているのは二十人もいなかった。道が狭く、人が密着しすぎると邪魔になるため、後方にいる者は遠距離の武器を装備していない限り見ているだけの戦場になった。一方的に増え続けるノーネームに対し、押えているだけの人間側は明らかに不利だった。そこに加勢するかのように、フリッツは紛れていった。

「遅れました、今から詠唱を開始します!」

見張り台から下りてきたカインはすぐに魔法を唱え始めた。カインを中心に広い魔法陣が現れ、赤い光を放っていた。カインの後に続きソフィアも下りてきた、弓に弦を張り、すでに矢で援護をしていた。

「ここからコアを狙えないの?」

「やってみます」

手を上に掲げると、眩い光と共に巨大な炎の槍が現れた。カインは大きく振りかぶり、コアに向かって一直線に投げた。

「貫け!」

炎の線を空に残した槍は真っ直ぐコアへと走っていった。コアへとあたり、その様子を見ていた者全員が勝利を確信した瞬間、コアの中から巨大な鎧の手が出現し、槍を握りつぶしてしまった。

「な、なんだあいつ・・・」

巨大な手は徐々に全貌を現し、塔の先端を片手で掴み、足を壁に引っ掛けてしがみついた。目測でも三メートルはあるような巨人であった。頭部は細長いバケツのような兜をかぶり、全員を覆いローブのような鎖帷子くさりかたびら。片手にはそのノーネームと同じ長さの杖を持ち、全身が薄黒く異様な雰囲気を漂わせていた。以後、この魔法使い型のノーネームをエーリルはウィザードと命名。

「エーリル、もしかして前のハンターと同じなの?」

「分からない、けれどあいつを早く倒さないとまずい気がする」

ウィザードは杖を掲げると、その先端に赤く輝いた球体を作り出した。塔の下で戦っていた者はウィザードの存在に気づいた者から怖気ついて逃げてしまった。

「あ、あれは・・・」

カインはウィザードが作り出している球体を見て驚愕していた。いつもは表情の変化があまりないカインが目を見開き、顔には汗がつたっていた。

「あれがどうした?普通の魔法じゃないのか」

「説明は後です!とにかくあの魔法を止めてください!!」

赤い球体はどんどん膨張し、コアと同じぐらいの大きさになろうとしていた。ソフィアは弓を限界まで引き絞り、ウィザードの足場を狙って矢を放った。矢は足首に当たり、ウィザードは大きく体勢を崩した。

しかし、片手で踏ん張り塔から落ちなかった。それでも詠唱を中断させ、杖の先端にあった球体は弾けて空気中に散らばっていった。

「結局なんだったんだあれは」

「あの球体は立体型魔法陣といって、私の使う魔法陣とは桁違いな魔法を使えるようになるものです。詳しく説明すると本が何冊あっても足りませんが、簡単に言うと一般的な魔法陣が足し算で身体的魔力と自然魔力を合わせられますが、立体型だとその二つが掛け算で増えていくようなものです。かなり高度な式なので扱える人は十人も見たことが無いです」

「えと・・・とにかく詠唱を止めれば問題ないでしょ!」

ソフィアは次の矢を番え、カインは詠唱に入った。人型ノーネームの中に弓を持つ者が現れ、カインとソフィアが厄介と感じたのか矢を放ってきた。エーリルは盾で守り、オステアは目で矢を捉えて刀で叩き落した。ウィザードは体勢を立て直すと、再び詠唱に入った。

「そうはさせないわ!」

その瞬間、コアから鳥型のノーネームが多数現れ、ソフィアの矢は鳥型に当たった。同時に放ったカインの火球も鳥型に防がれてしまった。

「なん、だと・・・」


エーリルが最後に見たのは、ウィザードの魔法陣から一筋の光線が町中をでたらめに通り、一拍遅れて凄まじい爆発と光が襲ったことだった。

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