コア破壊命令 2
今年一回も風邪ひかなかったのに年末に風邪をひいた、咳がつらすぎて笑える。
「だから、ここの部分をこう捻ってだな」
「なるほど、そういうことね」
魔法石を用いた短剣のように短い杖に光源を灯すと、目に刺さる様な輝きがエーリルを襲った、
「常に顔より上に掲げておくんだ、お前の役目はひとまずそれだ」
杖を掲げると、廃抗内を見渡すことが出来た。坑道は鉱石や道具を運ぶためのトロッコレールや資材置き場などのために、十数名で固まっていても余裕があるくらいに広かった。フリッツやソフィアを前衛に置き、カインは後衛で準備し、エーリルは中衛に置かれた。ちなみにライルはエーリルと同じ中衛であった。
「腕が疲れたら変わるよ」
「そうか、ありがと」
廃墟独特の古くカビ臭い臭いに、いつ襲ってくるかも分からない敵に対しての緊張が混ざっていた。フリッツはたまに冗談を飛ばしたりしたが、常に片手のどちらかを双剣の柄につけていた。日の光が届かない坑道内は外と比べて涼しいくらいだったが、エーリルは背中に嫌な汗をべったりとかいていた。
やがて、誰もしゃべらなくなり、景色の変わらない坑道が続いていた。地下に向かっているらしく、道は緩やかな坂道となっていた。
「もうそろそろ、補給班が来る頃じゃないか」
「ああ、そうだな。少し休憩にしよう」
ベルントがそう提案すると、抗夫たちは安堵のため息を漏らして、その場に座り込んだ。エーリルも道の中心に杖を立てると、壁に寄りかかり一息ついた。
「はい、あげる」
ソフィアがそういって差し出したのは、水の入った水筒だった。エーリルは何も言わずに受け取り、一口飲むと冷たく甘い水が全身に染み渡っていくのが分かった。つい一気に水筒の半分まで飲んでしまったエーリルは「しまった」と思い、ソフィアに水筒を申し訳なさそうに返そうとした。
「悪い、結構飲んだ」
「・・・」
しかし、ソフィアはエーリルではなく坑道の奥に目を向けていた。つられてエーリルも奥を見たが、光が届いている範囲では特に異常は見られず、その先は飲み込まれそうな闇に満ちていた。
「どうした」
「いや、別に、何か物音がしたから」
すると、自分達が歩いてきた方向から声が聞こえた。数名の補給班だった。補給班はそれぞれ大きな荷物を背負っていたが、特に必要性が無いことを知ると見るからに嫌そうな顔をしていた。
「じゃあ、俺達は無意味ってことかい。」
補給班は悪態をつきながら、出口に向かって歩き始めた。その時、エーリルの横から風が吹いた、それはひゅんと音がして、とても小さな風だった。その風が過ぎると、補給班の一人が前のめりに倒れた。倒れる瞬間、声にもならないような、まるで鳴いている蛙を踏み潰したような声がした。
「敵だ!物陰に隠れろ!」
フリッツが叫ぶと、各自持っていた武器を構え、置かれていた廃材や柱の影に身を隠した。
「エーリル、盾を」
そう言われエーリルは姿勢を低くし、盾でソフィアを隠すような形に構えた。ソフィアはしゃがみながら弦に矢を番えた。ひゅんと音がして、盾に弾かれたのは銀色の矢であった。銀色の矢は絶えずに闇から放たれ、エーリル達は身動きが取れない状態になった。弓を持っている人はなんとか応戦したが、相手の距離が分からないのであたっているのかすらも分からなかった。カインも魔法を使おうとしたが、隠れた場所が狭い柱の影で、詠唱する時間も場所もとれなかった。すると、抗夫の一人が倒れた補給班に向かって叫び続けていた。
「あいつが!あいつはまだ生きている!今すぐ治療してやらないと!!」
すでに何本もの矢が体中に突き刺さり、血溜りを作っていた。それは誰もがもう二度と動かないことを確信した。しかし、発狂した抗夫は物陰から飛び出して倒れている仲間に駆け寄った。
「馬鹿!やめろ!まだ攻撃は続いているんだぞ!」
発狂する声はとたんに途切れた、エーリルは咄嗟に目を閉じ、ただ攻撃が収まるのを願った。やがて、エーリルの願いが叶ったのか、矢による攻撃は止み、変わりに金属の鎧が擦れるような音が響いてきた。
「剣を構えろ!」
エーリルは立ち上がり、剣を引き抜いた。闇から現れたのは、鎧、エリスがこの世界に呼ぶときに見せた鎧とまったく同じだった。しかし、鎧の中に詰まっているのは違った。黒くどろどろとした憎悪、殺意、怒りのようなものが詰まっていた。これが、ノーネームだった。エーリルは途端に足が震え、恐怖のあまりに歯ががちがちとなった。剣の切っ先も小刻みに揺れている、先ほどの死んだ抗夫が自分と重なった、自分もああいう風に体に剣や槍や矢が突き刺さるのかと思うと立っていられなかった。エーリルは思いっきり盾で自分の頭を殴り、痛みで恐怖をごまかした。見える、ちゃんと見えた。ノーネームは数十といて、それぞれ弓や剣、槍などを装備している。その内の一体が剣を構え、走り出した、それに続いて何体ものノーネームが走り出した。
「だ、駄目だあ!逃げろ!」
抗夫の一人がそう叫びながら逃げると、恐怖に囚われた抗夫は続いて逃げ出した。それでも、フリッツはノーネームに向かって走り出した。
「俺が先陣を切る!戦えるやつは俺に続け」
残った抗夫は僅かで、ベルントやライルは残り、なまくらな剣を握り締めてフリッツに続いた。
「エーリル!カインは詠唱中は無防備だ、盾で守ってやってくれ!」
エーリルは頷き、カインの元へ走った。フリッツは先頭のノーネームが剣を振り上げると、怯みもせずに大きく踏み込み、双剣であっという間に鎧の関節部分を切り裂いた。ノーネームは黒い液体を噴き出すと、崩れて跡形もなく消し去った。
「ノーネームは不死身じゃない!関節部を狙え!」
フリッツが集団の中に切り込むと、次々とノーネームが倒れていった。後に続いたベルントは豪腕で叩き切るようにして止めを刺していった。ライルも必死になって奮戦していた。
「エーリル!来るよ!」
ノーネームのうち一体が槍を投擲してきた。エーリルは落ち着いて盾を構え、槍を弾いた。一向にカインは集中して詠唱を続けている、時間が経つにつれて杖が赤い光を纏い始めると、それに反応するかのように、カインに向けての矢や槍の数が増えてきた。
直接倒そうとノーネーム数体走ってきたが、ソフィアが弓で射止め、裁ききれなかった奴は短剣で倒した。
「詠唱完了、やけどしないように気をつけてください!」
カインは両手を広げると、地面に刺さっていた杖が浮かび上がった、そして両手をノーネームに突き出した。杖からは太陽のように光り輝く小さな火球が飛び出し、ノーネームの集団上空で止まると、真下に向けていくつもの光線が降り注いだ。けたたましい発破音がしばらく続いた後、火球は燃え尽きて残ったのはフリッツと抗夫達だけだった。
「・・・何とか、しのげたか」
あと2回で終わるっていってたけど、もうあと2回でお願いします。