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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
血と種と新世界
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第8話 支配と追求

 一切の炎を消し、手を頭の後ろに組んだ。

 もし俺の正体がバレていて、向こうがそう判断すれば次の瞬間にでも俺は捕獲あるいは射殺されるだろう。しかし時には危険を顧みずに歩み寄らなければならないこともあるのだと思う。

 シグルドは一旦しゃがんでから、またこちらを睨んできた。


 『でもシグルドはあなたのこと冥狼兵(フェンリルソヴロ)だって知ってたみたいよ』


 このわずかな時間の中にさらに静かな間が訪れた。俺は重要な言葉を聞きそこなっていたのか…。


 

 「武装解除したのはいいがシグルドに正体を知られていたことを思い出して後悔している…そんなところかな?」


 張り詰めた空気とは裏腹に、いかにも陽気で明るい声は今の状況をぴったり当ててみせた。ドアの方を見ると、エクエスとリーテが表情を緩ませて立っていた。


 「シグルドがお前のことを知っていたのはグレイプニルの極秘資料をミズガルズからくすねてきたからだ。たが、それによると冥狼兵(フェンリルソヴロ)には自我は存在しないと…」


 『あたしも気になってたのよ。なんで他の数千人はまるでロボットのように命令された通りに動くだけなのにあなたとその弟妹だけには自我があるのか』


 「言わば、試作品(プロトタイプ)だからですかね?旧式冥狼兵(フェンリルソヴロ)はミズガルズがあらゆるデータを採るためにあらゆる型が製造されましたその全てが他からの命令によってのみ動くものでしたが、ある時マルリウス・コブラという技術者が自立型冥狼兵(フェンリルソヴロ)を考案し、十体が製造されました。しかし計画はそれで終わり。理由は、コストがかかることと、今の俺みたいな反乱分子になりうるからです」

 

 エクエスと話すときは自然と口調が丁寧になる。未知数の威圧力みたいなものを感じる。


 「てことはお前自身はグレイプニルであることを良く思ってないんだな?」


 「ええ、だからひょっとしてと思ったんですが、もし違っていたらこの場で射殺していただいても結構ですよ」


 話すことを話し、身体を大の字にひろげる。


 「そんなこと言うなよー。わたしはペルソナと仲良くなりたいんだ」


 会って間もないのに一言一言がここまで胸に響くことは初めてだ。リーテ・レティキュラータ…この女の子は今まで会ってきたどの人物とも違う、何か逸脱したものを持っている。


 「お前を殺したりなんかしない。そういやまだここ、グレイプニル・ニヴルヘイム支部について話してなかったな」


 これで晴れて身の安全が保証されたのか。安堵のため息がもれる。


 「ここはな、グレイプニルの中にあってグレイプニルじゃないようなものなんだ。話すと長くなるが、要は、俺たちはただのグレイプニルに忠実な犬じゃないってことだ」


 「そう。グレイプニルとは何なのか、何のために存在するのかを僕たちは調べてるんだ」


 「俺もグレイプニルにはかれこれ数十年いるが、上層部が何を考えているのかは全くわからなかった。だが最近、やつらの動きがやけに活発になってきている。ミズガルズにあるグレイプニルの支部がどんどん数を減らしているんだ。そのほとんどはグレイプニルに反感があったり、何か大きな罪を犯した所だったりする」


 「それはたぶん本部の仕業でしょうね。でもグレイプニルの本部がどこにあるかは誰にもわからないっていう」


 「その通りだ。グレイプニルついては深く知ることも許されない。俺たちも見つかれば抹殺だろうな。俺も潰された支部を見たことがあるんだが、酷いものだった。どんな殺され方をしたか想像もできない死体だらけだった。そいつらの表情には苦痛が浮かんでいることもなかった。気づかないうちに切られたとか、一瞬できれいに真っ二つとかそんな感じだろうな」


 『それって…』


 あの二人だ。やっぱりグレイプニル本部の戦闘員だったのか。


 「そういうことだ。だから元グレイプニル内部のお前の活躍には期待してるぞ。明日からはミズガルズに戻る予定だから今日はしっかり休んどけ」


 またミズガルズに戻るのか。まあこんな場所でできることなんか限られてるもんな。

 

 「なあエクエス、あの事は話さなくていいのか?」


 「まだそのときじゃない」


 シグルドがエクエスの耳元で囁いた。聞こえないようにしたつもりだろうが、冥狼兵(フェンリルソヴロ)の耳で聞き取ることは難しくなかった。

 面倒なことになりそうなので、あえて聞きはしなかったが。入所一日目の新人を信用できないのは当然だろう。

 そういえばジュリィはさっきからあまり喋らないが何か考え事でも?


 『エクエスって名前、どこかで聞いたことがあるような気がするのよね』


 君にまだ身体があったころの話になるんだよな。さすがにこのエクエスのことじゃないだろう。


 『どうかしらね。それにしてもあたしとあなたが脳内で会話できるのって便利よね』


 ああ、知能が二人分になったみたいだ。


 『実際そうだし』


 そうだったな。

 明日からはミズガルズか。何をしに行くんだろうか。

 疑問とわずかな不安を残し、日は変わるのだった。

 


 


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