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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
血と種と新世界
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第6話 新たな仲間とグレイプニル

 「あ痛たた」


 『さすがの鋼の体もあれだけの衝撃に無傷とはいかないのね』


 まだ痛む腰をさすりながらベッドから体を起こす。

 生活感溢れる家具の群れと爽やかな木の香りは、今までに感じたことのない安心感として心の中を満たしていた。つい先ほどの俺では想像もつかないような…。


 「どうだ少年、落ち着いたか?」


 足下の方向にあるドアが開き、長身の男が姿を見せる。まず目につくのは、あのとき俺を強襲した美人と全く同じ色をした髪。色こそ同じでもこちらの男はその髪を立てているのですぐに別人だとわかる。しかし、無意識のうちに2人の姿を重ねてしまい一瞬たじろぐほどのトラウマを俺は植えつけられてしまったようだ。

 目は琥珀色。どこか幻想的な雰囲気である。

 さらに目がいったのは、その男の耳だった。尖った耳、それはミズガルズとは違う世界の住人、エルフのものだ。


 「あ、も、もう大丈夫です」


 「そうか。ちょうど今朝食を作り直したところだからお前も一緒に食べようぜ」


 「はい」


 起き上がって男について行く。金髪をみたときにはヒヤッとしたが、どうやら悪い人ではないようだ。

 薄暗い廊下はひんやりと冷たかったが、上空に比べればまだいい気候だと言える。


 「だから、そう簡単に誰かを信用しようなんて思うなよ」


 廊下の突き当たり、ドアから明かりの漏れる部屋から話し声が聞こえてきた。


 「別にいいだろ。だっていいやつそうだったし」


 今度は話し相手の声のようだ。男勝りだが確かに女声であった。


 俺の前にいる金髪の男が正面のドアノブに手をかけ、開けるとテーブルに向かい合った会話の主2人がこちらを向き、目が合った。

 1人は少年。銀毛が混じった茶髪の前髪の半分をピンで留め、上に上げているという特徴的な髪型をしている。その目はなぜか不機嫌そうに俺を睨んでいた。

 もう1人は少女。腰まである濡れ色の黒髪、それに映える真紅の瞳は、興味津々といった様子で俺の顔を見つめていた。


 「まあ座れ、空から降ってきた少年」


 「空から…か…」


 全面が窓になった壁からは、俺を落とした空が見える。


 「そっちじゃねえよ」


 向かって右側に座った少年が上を指差しながらやはり不機嫌そうに口を開いた。

 その方向を見てみると、まるで何かが天井を突き破って落ちてきたような穴が。


 「君が落ちてきたせいで1食が犠牲になったんだ。僕たちの大切な食料がよ…って何すんだ」


 俺から向かって左側に座っている少女が口の悪い少年を押さえつけ、封じ込める。テーブルはグラグラと揺れ、上に乗った料理たちは今にも落ちそうになる。


 「おいおいやめろよ。せっかくの客人だぞ」


 金髪が二人を制止する。


 「すまんないつもは仲がいいんだが…。まあいい。朝食食べながら自己紹介でもしようや」


 各々皿に盛り、食べ始める。食べっぷりから察するに、俺のせいでこの人たちはかなり待たされてしまっていたみたいだった。


 「ほら、お前の分だ。みたところかなり腹減ってるみたいだな」


 出されたものはパン、スープ、それに燻製の肉とサラダが盛り付けられた皿だった。

 俺にとってこれは今まで食べたことのないご馳走だ。どうだジュリィ。…ジュリィ?

 そういえばさっきから一言も喋ってないな。どうかしたのか?


 『いや、別になんでもないわ』


 そうか。ならいいんだが。


 「えーっとじゃあまずオレから…。俺の名前はエクエス・オレンジ。見ての通りえるだが、訳あってこの世界で活動してる。じゃあ次、シグルドな」


 「僕?なんでこんなやつに名乗らないといけないんだよ」


 あの口の悪い少年は呟いた。


 「つべこべ言わずにさっさとやる」


 「仕方がないな…。僕はシグルド、シグルド・アエネウスだ。もういいだろ」


 「最後はわたしだな!わたしはリーテ・レティキュラータ。ここの創設者、アルク…ってなんだよシグルドー」


 今度はシグルドがリーテを制止した。


 「なんでもかんでも喋るなよ!そうだ。君の名前も聞いておこうじゃないか!」


 「俺はペルソナ」


 名前を答えると、なぜかシグルドはさらに不機嫌そうな表情を浮かべる。目を細めて疑りの顔になる。


 「本名か?全部名乗れよー」


 そうだった。本名、姓までだ!どうすればいい、ジュリィ…。


 『えっ、あ、えっと…もう姓はあたしの使ってもいいわよ。嫌じゃなければ』


 申し訳無い気もするがそうさせてもらおう。


 「俺の名前はペルソナ・リトリネアだ」


 シグルドは表情の険しさを少し緩めた。リーテは前以上に目を輝かせて。エクエスは変わらぬ笑顔を。


 「お前もどうせ他に行くところはないんだろ?ならこれからよろしくな!」


 「よろしくってここはなんなんですか?」


 エクエスは笑顔でこう言った。




「ようこそグレイプニル・ニヴルヘイム支部へ!」



 




 

 このラグ鮮、地名や施設名、キーアイテムなどは北欧神話に登場する単語から命名しています。しかし人名その他は個人的な趣味で生物、というか淡水魚の英名から取っています。だってかっこいいじゃないですか()

 

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