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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
ミズガルズ脱出
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第4話 ミズガルズ

 『でもさ、あいつらがここであなたの探索をやめるなんてことはないでしょうね』


 まあ、そうだろうな。そもそも俺たち冥狼兵(フェンリルソヴロ)はこの世界最大の軍事組織グレイプニルが「何か」と戦うために創り出されたらしいし…技術を悪用されることを防ぐためにも俺は発見され次第殺されることになる。

 俺たちがさっきまでいた方向を見ると、そこには大地を分断する巨大な壁のような建造物が目に入ってくる。あれがグレイプニル第二支部。世界のどの国にも籍を置かない巨大組織。それどころか、各国の深層まで根を伸ばし世界情勢をも操っているとか。

 オートジャイロが一機、その建物から飛び立った。おそらくは俺を探すためだろう。まだ逃げ切ったわけじゃないからな。隠れながら歩き続けるしか…っ!

 背後の気配に気づき、とっさに身をかわす。

 岩が切れている?一瞬前まで背もたれにしていた岩が縦に真っ二つになっている。

 その切れ目から覗くのは…


 『うわー、キレイな人』


 黄金の長髪をたなびかせる長身の美人。その深緑の右目と鉛灰の左目はどちらも氷のような冷たさで俺を見下ろしている。


 「チッ…外したか」

 

 その美貌の次に目につくのが真っ二つに切断された岩。かなりの業物によるものかと思いその金髪美女の手元を見るが、剣や斧といった武器は握られていない。代わりに、エインヘリャルを一回り大きくしたような大きさの黒い棒がその手の中にはあった。

 それが何かを考えさせる暇もなく次の一撃に振りかぶる。…切られる、本能的に顔面を手で覆う。

 

 「これで…終わりよ!」


 金髪美女はあの得体の知れない棒を振り下ろす。

 

 『ねえ、この人の武器って…』


 ああ、エインヘリャルだろうな。

 刹那にそんなことを考えた。この間合いでこれだけの切れ味のある武器を作るのはグレイプニルにだって無理だろう。

 反撃できるか…。顔を覆った手の指の間から様子を伺うと、そこにはすでに謎の武器を一直線に振り下ろした金髪美女の姿が。しかしその顔は、勝ち誇った笑顔でもなく遂行の安堵でもなく、何か予期せぬ事が起こったというような間の抜けた表情を浮かべいた。

 

 『あれ?何か、キラキラしたものが見える。これは…糸?』


 確かに、とても細い雨粒の軌跡のような糸が、空気中にたるんで見える。

 糸、そしてあの岩の切れ口。この女の能力がわかったかもしれない。


 『何よ。どんな能力なのよ…っ!』


 もう一人、誰かいる。この女の後ろの岩陰に一瞬人影が見えた。そして一気に飛び出すと、腰から剣を抜き飛びかかってきた。

 これだけの時間があればなんとか炎の壁を形成することができる。

 

 「貴様、私が見えているのか」


 男は直前で剣を止め、後ろへ下がった。

 身体のどこにも鎧を身につけず、無防備な装いは決して戦闘向きではなさそうだった。あまり整えられていない巻き毛やわずかに伸びた無精髭からは戦闘者の風格は感じられず、穏やかな雰囲気すら纏っている。

 しかしこの二人、相当な手練れであることは間違いない。攻撃が中止されなければ女の剣は俺が壁を貼る遥か前にこの体を裂いていたし、この男の動きの機敏さも常軌を逸している。


 「隊長、こいつ斬ってしまわないんです?」


 「少し待ってくれトゥジェルシー。こいつには私たちの能力が効いていない。たまたまグレイプニル第二支部にいたから駆けつけてみたがどうやらこいつ、『アタリ』のようだ」


 二人は何か話しているようだ。この二人がグレイプニルからの暗殺者であることは間違いない。だがなぜ向こうの攻撃が効かなかったのか。


 『そんなこと考えている暇なんてないわよ!逃げないと』


 ジュリィがまた俺の背中にジェットパックを形成し始めようとしたとき。


 「待ちなさい!私たちはあなたを殺したりしない。敵じゃない。話を聞いて!」


 トゥジェルシーと呼ばれた女が俺を引きとめた。敵じゃないだと?じゃあどういう…


 「もうじきグレイプニルから貴様の捕獲作戦本隊が来る」


 さっき隊長と呼ばれた男が指をさした方向にはグレイプニルのオートジャイロが迫っていた。

 この二人、まさかグレイプニルの人間じゃないのか?いやでもさっき確かに…


 「簡潔に言う。生き延びろ、名もなき冥狼兵」


 「名前ならあります。ペルソナ・リトリネア」


 「ペルソナか。覚えておこう。私の名はビキール…まずいな、もう時間がない。ではまた会う日まで、さらば。トゥジェルシー、あれを」


 「了解しました」


 この男、何をするつもりだ。二人はそれぞれのエインヘリャルを片手に持ち、力でも込めたように見える。すると、エインヘリャルを握っている手から身体、足へと光が包んでいった。光が全身を包んだとき、その輝きは最高潮に達し、弾け散った。

 あとに残るは…これはまさか。


 『激情体…』


 エインヘリャルの力を最大限に発揮する者が発現することができる『形態』

 話には聞いていたが本当に目撃できるとは思っていなかった。

 もう少し詳しくその姿を拝みたい…

 そう思った瞬間、唐突に、抗う暇もなく俺の意識は闇に落ちた。

 


 もう少し進んだら章ごとに分けようと思うのですが、これでその第1章が終わりということになります。次回からは場面を変えて物語は進んでいきます。

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