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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
百年の意志
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番外 戦駆と波乱の幕開け その2

 激情体同士の衝突、それがどんなものかはよく知っている。以前に見たことがあるわけではないが、ソダリスにもそう聞かされている。

 相手は強い。他のエインヘリャル能力を弱体化できる特殊な能力をもってしても勝てるかどうかはわからない。ソダリスに全てを押し付けるのはさすがに気が重たい。加勢しなければ…

 震える身体を無理やり動かしソダリスに近づく。ソダリスが激情化するには我の肉体が必要だ。あと一歩で届くのに…少しずつ近づくにつれ、視界が歪むのを感じていく。奇妙な感覚であったが、自分の声、地面の感触、自分を包む全てが捻じ曲がっていくような。それはどんどん強くなっていき、だが我も歩むのを止めず、ソダリスの身体に接しようとした瞬間、歪みに歪んでいた周り全てが消えた。ちょうど貧血を起こした時のような、または電灯を消した時のような、自分の意識自体が消えたのかもしれない。

 

 と思ったら、急に視界が明るくなった。柔らかい物を踏んづけたような感覚も消え、耳に詰まっていた怪音も消えた。目の前には人だかりが見える。国民の席へ転がり落ちてしまったのか?しかしすぐ異変に気付く。


 「髪が…」


 彼らには天界神(アース)の特徴である、玉虫の羽のような光沢をもつ髪ではなく、代わりに少々味気ない茶髪を持つ者がほとんどだった。


 「ご無事ですか、テトラ。ここは人目につきすぎますのでこちらへ」


 

 ソダリスに手を引かれ、見覚えのない街並みの奥へ連れて行かれる。



 「ここはアースガルズではないのか?」


 「住民の姿から察するに、ミズガルズである可能性が高いです」




 つい今まで目の前では戦闘が行われていたはずなのだが、この町の陽気との緊張感の落差に我は言うまでもなく混乱していた。


 「あの相手は手強い。単騎で王国の中心部へ乗り込んできたのですから相当な手練れでしょう。おそらく私たちより強い。国民を巻き込んでしまう危険を考えると撤退したほうが賢明かと思い、世界間移動を試みました」


 認めたくはないが、つまり逃げたということだろう。あの時我がすぐに対応していればなんとかなったかもしれない。半分は我の責任だ。

 国民、と聞き、あの異常な様子に身震いする。明らかに操られている。それがあの敵のエインヘリャルなのか、または他の侵入者がいるのか、それはわからない。


 「ところで我らはこれからどこへ向かえば良いのだろうか」


 「『九対の勇者』の伝承はご存知でしょう」


 ソダリスの口から出てきたのは聞きなれた古文書の記述だった。確か、いつか現れる特別な力を持ったエインヘリャル使いのことだ。何のために現れ何をするのかについては一切の記述がなかった。


 「その方々を見つけるのです。そして我々の目的に同行していただく。その後も居場所を把握しておけば、本来の有事に召集することもたやすくなるでしょう」


 「奴から国を奪い返すには関係のない者の力を借りなければならないか。しかしその勇者たちはどうやって見つけるのだ?」


 「これは私個人の『特別な力』の解釈なのですが、例えば『一つのエインヘリャルに二人分の力を注ぎ込むことのできること』だとすると…」


 「まさか我らのことか?我らが一対目のそれに該当すると?」


 「私はそう考えております。世界は広いのですから、どこかに似たような境遇の方がいらっしゃっても不思議ではありません」



 もしそうならソダリスの考えが恐らくは正しい。全員とはいかないまでも、相手のエインヘリャルを弱めるなどという特異な特性は大いに役に立つだろう。

 などと考えているうちに、我の腹部が唸りを上げた。

 そういえば悲壮と緊張のせいで昨日から何も喉を通っていない。急な戦闘が突如幕を下ろし安堵したところに空腹感が襲ってきたのだ。


 「お腹が減ったのですか。少し待っていてください。通貨は違いますが、この金貨で交換できるでしょう。それと、ミズガルズマントなる衣服も身につけておくと便利そうですね」



 ソダリスは手短に断り雑踏へ駆けていった。残された我はソダリスの帰りを待つ間に、話に聞くミズガルズ見物と路地から身を乗り出し民の往来を観察する。群衆に妙な統一感があると思えば、皆一様に纏う黄土色の上着によるものだった。あれがミズガルズマントか。

 ミズガルズの民である創始族(アウズフムラ)とは根本を同じくするため我らとはよく似ている。両者共古代に生きた「人間」に最も近い容姿をしているとのことだ。住まう世界が違うのは、単に後に二つに分かれる「人間」たちの仲が悪かったからだろう。


 しかしソダリスは遅いな。貨幣が違うのだから店主と揉めているのかもしれないな。

 一通り見渡したところで、興味深い光景が目に入った。他より深い黒色のマントを身につけた男が向かいにある路地へ消えていくところだった。何やら妙に挙動不振だったその男の行動に興味を持った。あの奥には何があるのか、確かめてみたい衝動に駆られる辺り、自分はまだ子供なのだとため息をつくと同時に通りを横切って男の後をつける。

番外シリーズは、それぞれの主人公格のキャラの生い立ちからペルソナ・リトリネアと出会う直前までを補完する形で各章につけていきます。今回も最後のシーンが27話の最初につながっています。

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