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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
百年の意志
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番外 戦駆と波乱の幕開け その1

今回は数話前から主人公と行動を共にする二人、テトラとルクセミアの番外になります。二人の境遇、二人はどうやってペルソナと出会ったのかという話を二話続けてお送りします。

 一国一城の主を継ぐ者として生まれてきたからには勤めを果たすと心に決めていた。物心ついた時にはすでに王としての教養を身につけていた。物心つく時期が客観的に見て異様に早かったことも理解した。それだけの人格がもう出来上がっていることも自覚していた。周りの人々はそんな我のことを「王の器」だの「神童」などと、半ば崇めるように褒め称えた。やはり嬉しかった。自分が誇らしかった。

 そんな日々を打ち砕き、我から大切なものを奪い、波乱の道へ陥れることとなった悲しく辛い出来事が起こったのが二日前。先代国王である父上、そして妃であった母上が暗殺された。現場は異様にも騒然とはしておらず、しかしそれが局所的に見た状況が与える恐怖を際立てた。小綺麗に片付いた寝室には身の丈以上の大剣で引き裂かれた二人の遺体が横たわっていたと、そう聞いている。地位が地位である以上こんな展開も覚悟していなかったわけではない。覚悟していたつもりだった。だが我もまだ子供なのだ。訃報を聞いた朝から一日中泣きじゃくり、我ながら再起不能に陥りかけたのだった。


 「テトラ、そろそろ時間です」


 両親の死はどうしようもなく辛かった。だが彼女、ルクセミア・ソダリスがそばにいてくれる。あの後部屋に閉じこもった自分を外へ連れ出してくれたのも彼女。あの出来事以来湧いた負の感情すべてを和らげてくれた。おかげで今、即位式へ向かう階段に立つことができたのだ。

 

 ソダリスとの出会いは生まれた時。我が生を受ける以前からこの役職につくことが決まっていたらしい。そして我が最も純粋で単純な欲望を抱く、産声を上げる瞬間、側で握りしめたエインヘリャルに同時に思いを込めた。そうして古文書に記された二人で一つのエインヘリャルを共有する特殊な能力者を意図的に創り出すことに成功したのだった。この方法で成功させるには、我が生まれる前からその波長を感じ、自分の精神の波長の頂点を産声と完全同時に合わせるという、一本の針を地平線に隠れた的の中心に投げるような体力的にも精神的にも無理難題であった。しかしそれを何の手本もなく、一切の弱音も吐かずやり遂げたルクセミア・ソダリスという人材がこの衰退しつつある小国に仕えていたという事実がまさに奇跡なのだ。

 結局我が幼くして国政の知識を得られたのも、単独最強のエインヘリャルを使いこなせるのもソダリスいてのこと。我自身は所詮なんの力も持たない子供にすぎないのだ。

 「自由体」、自分の肉体と身につけたわずかなもののみを自由自在に変化させる能力。液状化することも、光子化することも、毒薬を生成することもできる万能の能力。例の特殊な技法により、二人が一所にいなければ発動できない制約を課せられたものの、単純な頭数は倍増し戦力の増加はいうまでもない。

 とにかくこの能力を手に入れたからにはまず国防を強化し侵略を防ぐ。それを王である我自ら行うのだ。優秀なる側近ソダリスと共に。


 希望と不安を胸に演説を終え、隣で凛々しく前を見据えるソダリスの顔を仰ぐ。すると彼女は微笑みを返し、思わず我も緊張がほころんだ。

 王宮に集まった人々から身に余るほどに盛大な拍手が届いた。


 「これからは我がこの国を導かなければならないのだ。ソダリス、今後ともよろしくなのだ」


 「あなたは立派な王です。私のほうこそ、あなたとこの国のために命を捧げる覚悟で精進して参ります」


 

 無事に式典を済ませ新たな職務に足を運ぼうとした時、突然身を包んでいた拍手が消えた。一瞬ですべての音がなくなり、胸騒ぎが大きくなる。ソダリスも似たようなことを思ったか、かすかに眉をひそめた。

 次いで皆が腕を上げる。これだけの大人数が一人も乱れず一斉に。その光景は異常であり、底知れぬ恐怖が湧き上がってくる。

 上げられた手に握られているものをようやく視認できた。それはこの国には存在しないはずの物であり、危険さゆえに禁じている物だ。それが一斉にこちらへ向けられている。時間が静止したように誰も声を上げず、音も出さず。だが一様に口を向ける銃器類はその轟音を散らす時を今か今かと待ち続けている。

 恐怖に凍り、ただその場に立ち尽くすだけだった。その瞬間が訪れても我は一歩も動くことができなかった。


 「危ない!」


 破裂音を聞いた後閉じた眼を開くとソダリスがいた。能力を発動し盾となって我の防御に身を呈していた。

 優しい眼差しを我へ向けるソダリス。それもつかの間その眼は一瞬で鋭さを取り戻し、背を向ける。開けた視界に移ったのは長剣を振りかざす男の姿。身の丈を超える、そんな表現が当てはまる銀色の刃を見て氷水をかけられたような衝撃が走った。


 「貴様、何の用でこの国に害をなす」


 「己ら天界神(アース)の祖先は遥か過去の最終戦争を優位に運び我らと同じ『神』の称号を得た。だがどうだ!その気高さを微塵も感じさせず地に這いつくばって暮らす惨めな様はよぉ!まるで負け組のミズガルズの愚民共のようじゃねぇか」


 「『我らと同じ神の称号』…まさか貴様、魔界神(ヴァン)の回し者か」


 「ああそうさ。我らの議会はただ存在するだけで役に立たぬこの腐りきった世界を我らの領地拡大のためいっそ潰してしまえという判断だ。この国は拠点にさせてもらう。すべて己らが招いた結末だ。後悔しながら滅んでいくがいい!」


 男は剣を地面に刺し胸に手を当て高らかな口調で語る。その表情には狂気の影が浮かんでいる。


 「ソダリス」


 「幸いこの侵略者がどんな能力を持っていたとしても、この様子からするに私たちのことをよく知らないものと思われます。ここは手早く処理するのがよろしいかと」


 「我も同意見なのだ。侵略者よ、このテトラ・エヴェナリエが我が国の王として汝を打ち払うことを宣言する。覚悟するのだ!」


 「王である親が殺されたんじゃ次代が子供ってのは驚くことでもないな。文字通り赤子の手をひねるように簡単な仕事だ。面白くなりそうもないのでさっさとぶった切ってやるか!」


 

 やはりこの男が父上や母上を殺したのか。それに愚民などと我が民を侮辱した罪は重い。この我が制裁を下さなければ…何だ?

 目が回るような、意識が遠のくような…


 「意識をしっかり持ってください!敵の手に落ちてはなりません!」


 そんな状況を打破したのはソダリス。我は今どうなっていたのだ?

 疑問に答える間も無く男は剣を抜きこちらへ構える。空に鈍く光る金粉をまぶしたような髪と長く尖った耳は魔界神(ヴァン)の特徴と一致している。それが青色の光に包まれ激情体となる。やはりエインヘリャルの能力者だったようだ。そして大剣を振り下ろす。

 足のすくんだ我を尻目に応戦するのはソダリス。手を毒に濡れた細剣に変化させ、膨大なエネルギーと共に放つ。

 二つの力がぶつかった。

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