第3話 グレイプニル
周りを監視兵に取り囲まれている。対冥狼兵弾は連発できないが火力が高い。グレイプニルの誇る「全世界一」の軍事力を結集した「抑制」のための弾丸。この体なら普通の銃弾ぐらい食らっても弾くことができるが対冥狼兵弾なんか食らったら爆散してしまう。
自分一人ならこの監視兵の群れに勝ち目はない。しかし今は。
『ほら、集中して!今のあなたに勝てない相手はいないのよ』
そう。新たに得た能力は「発炎」それも、「炎の概念」を弄ることができる。さっきは常温で爆風を生み出した。
物理法則すら書き換える。これがエインヘリャルの力。
とにかく、まずはこの状況を打破しなければ。敵は10人余り。第2弾装填済み。対してこちらは1人。もうかわす余裕はない。
炎を固める。
『壁を作るってことね』
ああ、脳内空になるまで出し切るぞ。
「『鮮情炎上ブリュンヒルデ』」
凄まじく立ち昇る炎。監視兵の群れは戸惑い、後ずさりする。だがあまり間を置かず発砲音が聞こえる。
極太の弾丸は回転しながら全方向から突っ込んでくる。
そして突き刺さり爆発するーその直前で高い音を立てて跳ね返り、続いて低い爆音が轟く。
『間に合ったようね。次の攻撃が来る前にさっさと退散しましょう』
退散ってどんな…?背中に違和感を感じた。何かついている。触ってみると、四角くて、硬くて…。奥の方はまた異質な形状をしている。この感じは、筒か?
『ちょっと作ってみたんだけど、どうかな?』
これはまさか…
『これが一番手っ取り早いと思うの』
カチッ…と音がした。何かに点火するような。
冷ややかな間を置いて、熱気を感じた。
次の瞬間足が地面から離れ、彼方に見えていた岩が眼前に迫った。
「ぐえっ」
その衝撃に思わず声が漏れた。
『も、もう一発いくわよ』
「いや、ちょっやめ」
無慈悲な轟音が響くも、次の瞬間には遥か後方の出来事となっていた。
ここは…グレイプニル第二支部から遠くに見えていた岩山地帯か。こんなところまで飛ばされてしまったとは。
でも待て。普通のエインヘリャルにはここまでの力は存在しないはずだ。これだけの力を使ったのにまだかすかに余力があることを実感できる。
『それは2人分の感情を使ってるからじゃないの?』
まあそうなんだろうが、そもそも君は何者なんだよ。
『あたし?あたしはジュリィ・リトリネア。大体10年ぐらい前だったかしら。まだ子供だったあなたが近くを通りかかったときにあなたと「繋がった」んだと思う。それからあなたにずっと呼びかけてたんだけどなかなか気づいてくれなくてね』
あの耳鳴りはそういうことだったのか。それにしても10年も気がついてあげられなかったのは本当に申し訳なかった。
『もういいのよ』
でも、エインヘリャルに意思はないものなんじゃないのか?
『それなのよ。一番あり得るのは、あたしが元人間だったってことなんだけど』
どういうことだ?
『あたしには記憶がない。でも名前はある。たぶん昔なんらかの理由であたしの意思と名前だけがこの石に閉じ込められたってことだと思う。根拠はないんだけど、なんとなくそう思うの』
じゃあ分離した肉体があるのか。そこに記憶も保管されている。
『少なくとも10年以上前のことだしもう肉体は消滅してるんだろうけどね。それよりあなた、名前は?』
冥狼兵認識番号00101だ。別に名前という名前があるわけではない。
『知ってる』
知ってて聞いたのか。ジュリィもなかなか人が悪い。
『だからぁー、あたしが名前をつけてあげるのよ』
またそんな簡単に…
『簡単?あたしはもう10年もあなたの名前について考え続けているのよ』
悪い、そうだったな。
で、その新しい謎ってのは何なんだ?
『ペルソナ』
ペルソナ?あまり名前っぽくない単語だな。まあそれでも真剣に考えてくれたのならそれにしよう。
『ところであなた、ずっと思ってたんだけど一人称とかないの?』
一人称か。私とか僕とか、そういえばないな。使うことが少ないし。
『そんなんじゃだめよ。この際だから「俺」なんてのはどう?』
なんか柄に合わない気がするが、それでいくか。
『優柔不断ね。先が思いやられるわ』
ははは、まあこれからよろしくな。ジュリィ・リトリネア。
『ええ、こちらこそ。よろしく、ペルソナ』
まだ未熟なもので、ところどころ読みにくいと感じられる部分もあったのではないかと思います。だから率直な感想やアドバイスなどをいただければ嬉しいです。