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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
百年の意志
37/41

第34話 業火の祝福

エインヘリャル記録帳・最新版

【硬化】

現使用者:トゥジェルシー

前使用者:不明

発見場所:グレイプニル本部

能力:自身の肉体や触れているものを硬化させる

攻撃応用性:B

防御応用性:A

規模:B

安定性:A

 動かない足に重たい腕、俺の身体はまるで空間に縫い付けられたように身動きがとれない。皮膚とその他に接着剤のように癒着した氷は、鉄のような硬さと冷たさで徐々にこの身体を蝕む。初めてニヴルヘイムへ来た時の空中遊泳を思い出した。しかしあの時とは違いヴァルキリーの能力でも解凍が追いつかない。そして迫る群青色の錐。ゆっくりと、確実に眉間への距離を縮める。おそらく冥狼兵(フェンリルソヴロ)の鋼質生体をもってしても難なく貫通されるであろう鋭さだ。

 いうまでもなく絶体絶命。今一つ、いや二つの命が消えようとしていた。後ろでは次々とアクセルに倒されていく冥狼兵(フェンリルソヴロ)の崩れる音。それでも圧倒的な戦力差に阻まれるアクセルが俺の名を呼ぶ。だが凍りついた口では応えることができない。目の前のアドルフ・ワイツマニィでさえ無言で腕を突き立て目標の殺害に集中している。

 ただ呆然と近づく錐に焦点を合わせるだけ、もはや絶望を通り越して思考を停止しかけた時、胸のあたりから氷の割れる音がした。固定された顔面をその箇所へ向けることはできないが、それがジュリィの仕業であることは共有した思考からすぐにわかった。


 『実際油断してたわよね…っと。ヴァルキリーだから相手の能力なんか無効も同然、なんて甘かったってこ…とっ』


 ジュリィは全てを悟ったかのような口調で結論を述べる。しかし俺のように絶望からの虚言ではなく、微かな光に手を伸ばすための考察であるかのようだ。

 何か妙に力の入った口調だ。互いの思考を共有しているとはいえ、深いところは互いだけの世界がある。故にジュリィが何をしようとしているのかはわからない。だが何かを試みようとしている。

 俺の全てを託し深く息を吸う。


 『だからといってそう簡単に諦めるわけにはいかないでしょ。あなたが動けないならあたしが何とかしてみせる。そういう関係だからね…おりゃぁぁぁ!』


 俺の脳のほんの一部のみを占めるジュリィの部分が一気に膨らみ真っ赤に染まる。その炎がイメージを形作り、理解する。その時にはすでにジュリィが行動を開始していた。

 胸に凄まじい熱を感じ目を見開く。鮮明になった視界に映ったのは、氷の錐を掴む一本の腕。細くか弱い小枝のような少女の腕。しかし小枝は小枝でも、灼熱の溶岩を塗りたくったような力強い腕。線を辿ると、先ほど凄まじい熱を感じた胸の中央から生えているようだ。


 『あたしだってやろうと思えば動けるのよ。炎に形と質量を持たせる能力があればあたしがあたしとして闘うこともできる』


 もう一本の腕も剛熱と共に姿を現し、両手で錐を掴む形となった。

 突然の出来事に眉をしかめるワイツマニィ。ジュリィはより一層の力をこめて錐を握る。すると錐はガラスが砕けるような音を立て、儚く欠片を地面に散らした。


 『まだまだぁ!たぶんあなたは物凄く疲れるでしょうけど少しの間我慢しててね』


 ああ。どうせ今は役に立てないだろうからいくらでも持っていってくれ。俺の心は君と共にある。


 『…頼ってくれてありがとう。それじゃ遠慮なく!』


 ジュリィは両手を俺の脇腹につき、這い上がるようにして炎と精力の塊であるその身体を出現させる。当然それ相応の熱と疲労が伴うが、そんなことはどうでもいい。

 初めて見るジュリィの姿、それは想像通り、むしろそれ以上に可憐で美しい。炎の色のドレスを纏い炎の色の長髪を左側頭部で一つにまとめた炎の身体。構図と時間的余裕上、後姿しか目には入れられないがそれでも俺は今までの生を祝福された気分でいた。

 ジュリィはいつの間に覚えたのか、俺の習得したグレイプニル流の格闘術と手の甲に纏わせた炎の短剣を使い、呆気にとられるワイツマニィにダメージを与えていく。だが向こうも向こうですでに全身を氷に置換しているらしく、短剣が掠った部分はすぐに修復されて応戦に入る。

 二人の実力はほぼ同じだが、能力を扱い慣れている分ジュリィが優勢だ。少しずつワイツマニィを部屋の奥へと追い詰める。力がぶつかったところから深い霧が吹き飛ばされて視界が明るくなる。

 

 「ほら、そんなところで固まってるだけだとみっともないぞ」


 硬い音と衝撃が背中に走った。アクセルが敵を全て倒し終えて瓦礫で氷を落としてくれているようだ。

 アクセルが俺の前に出てきて岩のような塊を振り上げる。まさか俺の顔を狙って…

 力一杯振り下ろし顔面に叩きつける。俺は声にならない声を漏らし、この狂った行動を止めさせるが遅かった。


 「何をやっているんだ!?」


 「静かにしろよ。口で固まった氷をぶっ壊しただけだ。そんなに強くやってねえ。ちゃんと喋れるようになっただろ?」


 確かに痛みは感じない。動きが大袈裟だったのか氷が硬かったのか。アクセルは他の部分の氷を落とすべく瓦礫で殴ったり擦ったりしている。


 「ところでお前、ジュリィ・リトリネアとはどんな関係なんだ?」


 突然の尋問に驚く。ジュリィと知り合いなのか?


 「すっとぼけんなよ。ジュリィ・リトリネアだ。百年以上前、オレにとったら二、三年前だが、オレとエクエス、そしてアイツで旅をしてたことがあった。それから訳あって別れ、一年後に再開した時にアイツはエインヘリャルを失い自分名を忘れ、性格が別人のように変わっていた」


 エインヘリャルと名前と性格、それは今のジュリィの本体から離れてしまったものだと聞いた。エクエスの持っていたエインヘリャル記録帳に発火能力のことが記してあったのもやはりエクエスがジュリィのことを知っていたからだったのか。


 「それなら話そう。俺がどうやってジュリィに出会ったか」




 アクセルが俺の身体にまとわりついた氷を全て叩き割るまで俺は今までの経緯を話した。両者の抱える謎がそれぞれ解かれた。



 「なるほどそんなことがあったのか…よし、氷が砕けた。さっさとジュリィに加勢してやれ」


 「ああ、礼を言う。…何だ!?」


 突然研究室の奥で爆発が起こり、前で闘っていたジュリィが吹き飛ばされて俺の足元で尻餅をつく。次いでワイツマニィが背中の噴射口から冷気を噴出し錐と化した腕と共に飛びかかる。抵抗する間も無く錐はジュリィの喉元に突き刺さる。

 少しの間があり、その後ワイツマニィは腕をジュリィの身体から抜いた。

 物質化した炎であるジュリィの輪郭がぼやけていき、一瞬振り返り目が合うと同時に爆風をもって四散した。やっと拝めたその顔には儚い哀愁を浮かべていた。それが可憐さを際立て、一瞬だけ目が合った俺の心臓は、疲れているにも関わらずいまだかつてないほどに大きく激しく脈打った。


 『ごめんなさい。やられちゃった』


 いいんだ。お陰で動けるようになった。それに君の姿を見ることができた。


 『あたしも…初めてあなたの本物の顔が見られたわ』


 「おいペルソナ!あれを見ろ!」


 アクセルが指差す先にあったのは、研究室の再奥に置かれた巨大な水晶のような物体。隣の機械や巻き付いた配管類の隙間から何か見える。

 ヴァルキリーについて先ほど俺が教えたことを吸収したアクセルはワイツマニィが何の研究をしてどうやってヴァルキリーの能力を使っていたか、それを全て悟ったようだ。


 「そういうことか。ディフィエ・セウシー」

 

 

 

いろいろと用事があって1日遅れの更新になってしまいました。

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