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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
百年の意志
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第33話 炎と氷の狂騒

人物紹介

【アクセル・ロッド】

・黒髪黒眼で細身の少年

・言葉使いは荒いが義理堅く、恩は何倍にもして返す主義

・唯一の純粋な黒畏族(スルト)で、二つのエインヘリャルを精神にほとんど負担をかけずに使用することができる

・実年齢は百十六歳だが、そのうち百年間激情体が作り出した繭の中で眠っていたため、実質ペルソナやリーテと同じ十六歳

・初期のグレイプニルで筆頭戦闘員を務めていて戦闘力は高い

・エインヘリャル能力は「泳影」と「絶対切断」

 ここから先はさすがに無傷で済みそうにない。互いに久々の直接戦闘だがこちらには戦闘可能者が現時点で俺とそのエインヘリャルのジュリィ。もうじき加勢があるはずだが、まだ幼いテトラを戦闘に駆り出すのは気が重い。対して向こうは百体を超える冥狼兵(フェンリルソヴロ)。それにアドルフ・ワイツマニィ。その姿を包む濃い霧のようなものは奴のエインヘリャル能力によるものとみて間違いなさそうだ。

 それだけではない。俺から見てこれは「奪い返す戦い」。ここら一帯を燃やし尽くすような大規模攻撃は制限される。それは向こうも同じ、リーテとイステルを誰かに引き渡す目的がある以上この場で俺を消す以上の目的は求めていないはずだ。すると大多数のフェンリルソヴロは俺とワイツマニィの戦闘に参加しない。この点は幸運だ。

 霧の中のワイツマニィが口を開いた。先程より気温が下がっている。これが能力か?


 「ペルソナ・リトリネア…二日ぶりだな。貴様のことは『献上品』共からよく聞いている。その能力も、性格も」


 「リーテたちに何をした!」


 「わざわざ教える必要はない。貴様はすぐに凍結して文字通り息の根を止めてやろう。我が計画に仇なす危険因子よ」


 凍結?やはりその系統の能力か。


 『来るっ!気をつけて!』


 一瞬ワイツマニィの姿が揺らいだかと思うと、一気に距離を詰められ目の前に現れる。拳にはシンプルなナックルダスターがきらめく。

 炎の壁を展開し攻撃を防ぐ。まだ様子見の段…っ!?

 

 拳は壁を突き抜けて胸に届く。不意打ちを避けることのできるはずもなく着弾。そしてこの感覚は…

 ワイツマニィの拳からエネルギーが流れ込んでくる。俺が以前繰り出したエインヘリャル能力の応用技と全く同じやり方だ。直後、身体が芯から冷えていくのを感じ思考が一瞬停止する。


 『何ぼーっとしてんのよ!あなたもヴァルキリーの能力者ならこんな攻撃無効化できるでしょ』


 そうだ。自分に向けられた能力を限りなく弱めるのがヴァルキリー。今回とて例外ではない。冷えきった身体を復調させて余った熱の槍を前方の敵めがけて突き刺す。

 しかしワイツマニィは槍を片手で掴むと例の湯気のようなもので覆い、消滅させた。


 『こいつさっきからおかしい。あたしはエインヘリャルそのものだからよくわかるんだけど、身体から取り出す前のエネルギーをそのまま相手に打ち込むなんて技、普通の能力者なら負担が大きすぎてできるはずないのよ。それにあたしの作った壁を壊すなんてそれこそヴァルキリーでもない限りできるはずなんてない』


 確かにそうだ。もし仮にこいつがヴァルキリーの能力者だとして考えてみると納得いく場面が多数ある。つまり事態は思ったより複雑だということか。


 『関係ないけどね。あたしたちはただアドルフ・ワイツマニィを倒すことだけ考えればいい。あとはアクセルにでも頼みましょうそのために連れてきたんだから…ペルソナ、後ろ!』


 急な声に驚かされふり返ると、背後で起こった事象はすでに集結した後だった。首を跳ね飛ばされたフェンリルソヴロの骸が転がり、その上から飛び降りたアクセルが着地する。


 「無防備すぎんだよ。敵は一人じゃねえ。味方も一人じゃねえがな。しかしこいつら顔がお前にそっくりだな。間違えてシメちまうとこだったぜ」


 それは笑えないな。もっともそうなった場合俺はアクセルの能力を中途半端に軽減して想像するのも恐ろしい光景を生んでいただろう。


 「オレはあのアドルフ・ワイツマニィとかいうヤツを殺る。あの女、リーテ・レティキュラータ、オレの恩人の孫だっていうじゃねえか。それにアイツの能力、アレはディーの能力だ」


 ディーとは確かアクセルと同じように激情体の繭に閉じ込められているというディフィエ・セウシーの愛称だ。だがワイツマニィはそのディーさんの能力を使っている。殺して奪ったのか?いやそもそもディーさんの激情体を解除するためにもう一人のヴァルキリー、ティア・ファントムを呼んだはずだ。俺の知らないところで何かの計画が進んでいたことは確かだ。今はそんなことを考えている暇はない。次の一撃が来る。


 「あいつは俺がどうにかする。君は周りのフェンリルソヴロを片付けてくれ」


 ジュリィ、あれを使うぞ。


 『ええ、わかったわ。あたしの心をあなたに、あなたの身体をあたしに』


 「湧き踊る炎をこの拳に…鮮情炎上…ブリュンヒルデ!!」


 俺は以前から考えていた。溢れ出したヴァルキリーのエネルギーを垂れ流すだけではなくどこかに溜め込むことができれば効率がよくなる。つまり全ての俺の能力を底上げできる。そうして思いついた激情体の形を発現させる。

 基礎は港町エーギル郊外での弟妹から防衛戦を繰り広げた際の形。四肢をそれぞれ濃縮したエネルギーで覆う。溢れ出した分を四つのエネルギー鎧に詰める。こうすると最大四度だけ爆発的な力を発揮することができる。


 これが新しいブリュンヒルデ激情体の姿と能力…いくぞジュリィ!


 『わかってるわよ!まず一発目!』


 向かってくるワイツマニィを捉えると、前に踏み込み身体を捻り勢いよく正拳を突き出す。確かな手応えがあった。

 手応え相当の爆発音と反動で仰け反る。最充填には時間がかかるから残弾は三発、左手、右足、左足。


 爆発の煙から姿を現したワイツマニィは両腕が吹き飛んでいた。腕を組んで防御していたのか。

 基地の天井を突き抜けて炸裂したらしく、辺りには瓦礫が散乱し天井には穴が空いている。


 「これは効いた。いくら軽減しようとももう少しで押し切られるところだった…」


 ワイツマニィの肘から氷の腕が生える。すでにここまで能力を使いこなしているのか。

 この爆発の中で激情体を発現させたようだ。身体の至る所に大小様々な魔法陣のような円盤が浮かんでいる。


 足の裏の円盤が一瞬光った。同時にワイツマニィは加速し、腕を変化させた氷の錘を突き出してきた。右腕で防御するが、触れた部分が凍りつく。左手で払うように反撃するも、今度は左肩の円盤が光り回避される。次は背中、足と触れられたところがどんどん凍結していく。解凍が追いつかないほどの速さで蹂躙されている。魔法陣のような円盤から冷気を吹き出して加速しているのか?

 身動きが取れなくなったところでワイツマニィは運動を停止、俺の前に立つと、氷の錐を脳天に突き立てる。鋭い錐が目前に迫り俺は串刺しを運命付けられた。

 

ヴァルキリーについて

 

 一つのエインヘリャルになんらかの理由で二つの精神、魂がつながった場合、一つのエインヘリャルを共有するヴァルキリーの能力者が生まれる。エインヘリャルは感情をエネルギーに変換し能力として発現させる兵器であるので、二人分の精神力でエインヘリャルを扱うとそれだけ負担が軽くなる。そのため、より出力を高めたり、能力として発現する直前のエネルギーそのものを操るなど、高度な技が使えるようになる。

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