表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
百年の意志
33/41

第30話 暗黒の脈動

エインヘリャル記録帳:最新版

【自由体】

現使用者:ルクセミア・ソダリス(テトラ・エヴェナリエ)

前使用者:不明

発見場所:?

能力:自分の肉体を自由自在に変化させる

攻撃応用性:A

防御応用性:A

規模:C

安定性:A

 純白の樹脂で固められた冷たい廊下を慎重に、かつ足早に抜けていく。あらゆる方向から当てられる眩しい白色光のせいで遠近感が狂う。幾度となく転びそうになるが、なんとか踏みとどまる。そして背後に迫る自分史上最大の恐怖そのものを視界に入れぬよう前だけを向いて進む。

 背後に響く足音は、状況からしてあの女以外に考えられない。トゥジェルシー、本名はわからない。ただグレイプニル本部から派遣された戦闘員、それもかなりの手練れであることはこの俺自身が先日の戦闘ではっきり、身をもって、完全に、理解した。「硬化」のエインヘリャルとグレイプニル製であろう超極細糸を用いた認識不可無味無臭の斬撃、その後眼前の敵に注がれる二本の眼光。右眼は緑色に左目は灰色に哀れな敵を蔑む。回想だけで身震いするような恐怖体験だったが、当のトゥジェルシー本人は今現在俺のすぐ後ろを、乾いた足音響かせ歩いている。目的地は俺と同じで、輸送車の待つ車庫だろう。

 そんな彼女でもすぐ前を歩く俺の姿にはまだ気づいていないようだ。そもそもこんな厳重な施設の明るい空間なら監視カメラの十台や二十台、何百台や何千台は据え付けてあるはずだが、どれ一つとして俺の姿を捉えたものはない。


 「ペルソナ殿、息苦しくはありませんか」


 「車庫まであとどれくらいなのだ」


 耳元で囁かれる小さな二つの声。俺は今、ルクセミアとテトラが変身した等身大の箱の中にいる。この箱は保護色だったり消音だったりと抜群の隠密性で俺の身を守ってくれている。俺は言わば大きな箱をかぶって移動しているわけだが、保護色のお陰で外からはまったく認識できない。しかし中からは透明感溢れる外の景色が見えるのだ。限りなく便利、という言葉を、理不尽、という言葉に置き換えると「理不尽な能力」ということになる。だが今の俺にとってこれほど心強い能力とその使い手はいない。凍えた体にも熱い血が通いだすというものだ。


 「車庫」と書かれた看板の下に右へ曲がる暗い道が続いている。背後の恐怖から逃げるように滑り込むと、トゥジェルシーが角を曲がるまでの時間差が生じる。その瞬間が訪れるや否や俺の身体は火をつけられたように思考停止で動き、全力をもって一転暗黒の廊下を駆け抜けた。

 周りの空気が変わった。やたら広い空間に出たようだ。次に俺がやるべきことは、輸送車を探すこと。だが幸いにもそれはすぐ認識できた。この空間に停められているのは重厚な装甲車ただ一台。ちょうどニヴルヘイムでアドルフ・ワイツマニィに捕まり、基地までの輸送に使われた型と同じだ。輸送車と呼べるものはこれしかない。つまりここに乗り込めば後はアクセルの繭を担ぎ逃げるなり戦うなりすればいいだけだ。


 「ルクセミア、俺をこの天井から通した時のようなことはできるか?」


 俺を囲む透明な板のどこからか声が返ってくる。


 「問題ありません。まず私が装甲を作る粒子の隙間を隅々まで埋め、侵食します。そうすればその部分はもう私の一部。穴を開けても元に戻しても何も感知されません」


 能力もさることながら驚くべきはその精密性だ。ヴァルキリーの能力は二人分の精神を一つのエインヘリャルに繋ぎとめるから能力のすべてのパラメーターが通常のエインヘリャル能力者の二倍になる。それをもってしてもこの精密さは、ルクセミアが並外れて優れたエインヘリャルの使い手だということを語る。

 ルクセミアの器用さにテトラの感受性、そして能力自体の汎用性が合わさって生まれる逸脱した奇跡の数々には感動すら覚える。


 「装甲に穴が空いた。ここから入るのだ。」


 ぽっかりと空いた穴。そこから見える黒い箱。すぐに車内へ侵入する。

 箱に触れてみてわかる、その厳重さ。大きさは俺の身長より少し小さいぐらいだが、かなり分厚そうだ。だが能力の力を使えば。


 「この箱を切ればいいのか?」


 テトラは壁を塞ぎ人型に戻ると、右手を刀に変化させいともたやすく箱の内部を傷つけずに表面だけを切断した。中から姿を見せたのは、まさに「黒い繭」だった。箱の壁の分だけ小さくなって俺の半身ほどの大きさだ。表面には高速のエネルギーの流れがいくつも蠢いている。禍々しい球体だが、この形はおそらくアクセルのエインヘリャル能力が体現したものだろう。

 そういえば、エクエスの部屋から持ち出した「エインヘリャル記録帳」にもアクセルの能力が記されていた。


【絶対切断】

現使用者:アクセル・ロッド

前使用者:不明

発見場所:旧レーヴァテイン自治国

能力:媒体を用いてどんなものでも切断する

攻撃応用性:B

防御応用性:C

規模:C

安定性:C


 現使用者がアクセルとなっている能力はもう一つある。


【泳影】

現使用者:アクセル・ロッド

前使用者:不明

発見場所:連邦ネルトゥス北東部の古代都市

能力:影に潜み、実体を消す

攻撃応用性:B

防御応用性:B

規模:C

安定性:B


 絶対切断はわからなくもないが影に入る能力とは一体どんなものか、興味がある。早くアクセルの激情体を解かなければいけない。解かなければ…どうやって?

 今になってこの疑問が浮かぶ。同時に冷や汗が吹き出す。それは理不尽な課題を突きつけられた困惑に加え、トゥジェルシーが車庫に足を踏み入れた音が聞こえたからだ。もしかして俺は最初から詰んでいたのか?俺はどうすればいい?とにかくアクセルの繭を担いで逃げるか。それしか方法がない。そうなるとルクセミアにトゥジェルシーの足止めを頼むか、いやしかしそれでは意志の不一致でテトラも能力を発揮できない。俺はここから逃げられない。俺がトゥジェルシーを食い止めるか?それは駄目だ。腰が抜けて一歩も動けないだろう。俺はどうすればいいんだ…


 「はい」


 テトラは繭に手を触れた。それだけで繭の表面を走るエネルギー流が弱くなり、毛糸玉が解けていくように激情体は解除されていく。


 「我が国のエインヘリャル考察書にこれとよく似たものが描いてあったのだ。なんでも激情体、とかいうらしいな。我とソダリスの力が他のエインヘリャル能力を弱めることができるのは最近知ったことだか」


 そうか!激情体とはいえエインヘリャル能力、ヴァルキリーの力で弱めることができれば激情体は解除される。そんなことに気づかなかったとは…


 エネルギーはほどけて完全に消えた。後に残ったのは俺と同じ年ぐらいの少年の裸体。その指先が微かに動いた。


連載30周目!

ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ