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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
ヴァルキリーの秘密
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番外 仙樹の鎖 後編

語句解説

【ヴァルキリー】

・二人分の精神が一つのエインヘリャルに繋がっている状態

・原因は様々で、解明されていないことも多い

・他のエインヘリャル能力を緩和することができるようになる

・二人分の感情の力をエネルギーに変換するため通常より少ない負担で強力に能力を発現させることができる

・同じエインヘリャルに繋がった者同士で脳内で会話したり記憶や感情を共有したりできる


 どこへ行けばいいのか、アテがないわけではない。一度だけ会ったことのあるグレイプニル専属の研究者がいる。ヨトゥンヘイムのイザベラ・カンナがその人物だけど、決して親しいわけではない。怪しまれるのは必至だろう。

 そんなことを考えながらグレイプニル・ミズガルズ第二支部近隣の岩山地帯を歩く。確かこの辺に…あった。岩場に小さく口を開けた洞窟、いや、ほら穴といったほうが正しいか。こんなこともあろうかとボクは偶然発見した「門」の場所を覚えていた。ここは刺激を加えると開く異世界との境目。数少ない知り合いのいるヨトゥンヘイムへの門の一つだ。

 数少ない知り合いか。我ながら社交性の低さが痛感させられるな。そう自嘲しながらダイナマイトの導火線に火をつけ、ほら穴に放り投げる。当然爆発の轟音が聞こえるはずだけど…爆発音は最初の一瞬だけで消えた。岩にもヒビ一つ入らない。

 成功だ。つながった。ほら穴を覗き込むと、やっぱり明るい。光の届かない穴の中から光が届くという不思議な光景に見とれてい時間はない。早く向こう側へ行かないと閉じてしまう。

 這いつくばってくぐり抜けると、強い風が襲いかかりよろめく。風の過ぎた方向には地面がない。態勢を整えて下を覗くと、ミズガルズ第二支部よりずっと高い建物の屋上にいることがわかる。


 「まったく、いつも驚かせる」


 冷や汗が収まるのを待って階段を下る。もう門は閉じたから追っ手の心配は皆無だろう。

 ダイナマイトによって砕けた瓦礫を避けながら階段を下りると、目的の研究所を目指す。ここを曲がってまっすぐ進むと赤い建物があるからそこを曲がってさらに進む。すると広場が見えてくる。


 記憶を頼りに歩いていくと、広場までたどり着いた。確かこの脇のところにある階段を上るとヨトゥンヘイム小支部兼エインヘリャル研究所だな。

 二階へ上ると、木の扉があった。ここか。ノックすると、低い女性の声が聞こえてきた。


 「鍵は開いている」


 扉を開けて中へ入ると、薄暗い部屋の壁に隙間なく積まれた実験器具がまず目に入る。一つある窓から差し込む光はその先の机で作業する彼女を幻想的に照らしている。

 イザベラ・カンナ…智龍族(ニーズヘッグ)の女でグレイプニルに才能を買われてここでエインヘリャルの研究をしているとか。

 どう見ても子供だけど、白衣と大人びた表情は妙に様になっている。実際に歳はボクと少ししか変わらないらしい。

 それがこんなところでまるで幽閉されているように暮らしているとは。少し哀れみのようなものを覚える。


 「キミがイザベラ・カンナだね。一日中研究ばかりしてるのか?」


 「普段はほとんど屋上で植物の観察をしている。そういうコブラ・マルリウスはワタシを脅してここに匿わせでもするつもりか」


 淡々と即答するが、その間一度もボクの方を見ていない。

 それに、なぜボクのことを知っている?


 「グレイプニルから連絡があった。死刑囚が逃亡中だと」


 くそ、さすがグレイプニル。世界間でも情報の巡りが早い。脅してここに居座るか?でもどうやって。ボクは凶器など持っていない…あれだ。

 偶然目に入ったのは棚に置かれたエインヘリャル。イザベラが研究者ならこれは未接続であるはず…

 エインヘリャルに手を伸ばそうとした時、初めてイザベラがこちらを向いた。


 「それには触るな。エインヘリャルに何もしないと誓うなら匿うぐらい何ともない」


 そう言うとイザベラは白衣のポケットに手を突っ込んだ。

 次の瞬間、イザベラは勢いよく踏み出した。すっかり油断しきっていたボクは何もできず、薄黄色の液体が入った注射器を腹に押し当てられていた。


 「訂正する。『何もしない』ではなく『何もできない』なら、だ」


 叫ぼうとしても声が出ない。薄れゆく意識の中で方向もわからずもがきのたうちまわっているのか、手足の複数箇所に痛みを感じる。その数が多くなり、物が倒れる音も騒がしく鳴り響いた。しかしそれぞれはある瞬間で消え、ボクのすべての感覚器官は停止した。





 眩しい?これは…朝日、朝なのか。ボクは確かイザベラに得体の知れない薬を打たれて…ヨトゥンヘイム小支部で…そうか!

 あの時暴れまわってこの窓から光が差し込む位置まで転がってきたのか。顔を上げると、そこにはやはり見る影もなく荒れた器具類が散乱していた。…あれは、イザベラ?

 鉄製の棚の下にはイザベラが倒れている。

 反射的に駆けつけ、重なる鉄棒の下敷きとなった小さな身体を抱き上げる。意識はなくぐったりと頭が後ろへ傾く。慌てて支えた手のひらには異質な感触が。見てみると手のひらには、部屋の薄暗さも合わさって真っ黒で少し粘ついた何かがこびりついていた。

 まさかと思いそばの床へ目を移すと、これと同じものが床を覆おうとせんばかりに広がっている。その生々しい光景に一瞬ではあるが戦慄を覚える。


 「ボクが…やったのか」


 状態から察するに、あれからもうすでに何日か経っているようだ。

 イザベラ手首に指を当て脈を測る。…生きている。限りなく弱々しいが、かすかに響いている。よかった…安堵の溜息と共に、ふと疑問がよぎる。

 ちょっと待て、なんで安堵なんだ?こいつは何もしていないボクに得体の知れない薬を打ち込んで何日も眠り続けさせようとするような奴だ。なのにこの気持ちは一体何なんだ。ボクはこいつを…助けたいのか?このままここを乗っ取ることだってできたのに。いや駄目だ。なぜか直感を抑え込むことができない。今助けなければ一生後悔する気がする。これがボクにとって、世界にとって、そんな規模で大切なことのような気がしてならない。

 でもどうやってイザベラの命を救えばいいんだ。ここには輸血すらできる設備はない。

 いや、最後の希望とでもいうべき手段が残っている。床に転がっているエインヘリャルを見つけると、拾い上げて一言、望みを口にする。

 

 「これがどんな力を発現させるのかはわからない。でもイザベラを救いたい。ほら、非人道で有名なこのコブラ・マルリウスが人のために祈ってるんだ。さっさと起動しろよエインヘリャル!」


 すると握りしめたエインヘリャルが輝き出し、不思議な力が身体に流れ込む。ここまでは聞いていた話と全く同じ。それがもう一筋、エインヘリャルからは光とが照射されている。その先にはイザベラ。ボクの抱き抱えているイザベラの胸に吸い込まれていく。

 次の瞬間、強烈な眠気に襲われボクは目を閉じさせられた。

 混濁した意識の中でボクは暗闇に浮かぶ知らない道を歩いていた。すれ違う知らない人たち、知らない道具、そして最後にイザベラが正面に止まり、口を開いた。何を言ったのか聞き取ることはできなかった。周りの景色は歪み光に包まれる。その時ボクは、意識が急浮上していくのを感じ、現実の世界で目を開いた。


 これは…目を開けたボクはすぐに、これが自分の身体ではないことに気がついた。直感でわかったのだ。これはイザベラの身体。そして隣に倒れているのがボクの身体。何が起こったのかは全くわからない。身体が入れ替わっているようだ。他人の精神に干渉する能力を発現させるエインヘリャルは存在しないからこれはエインヘリャル能力自体によるものではない。それなら…


 「ヴァルキリーか?」


 二人分の精神の波長を合わせて同時にエインヘリャルに接続することで誕生する存在のことだけど、どんな過程でこうなったのかは全くわからない。

 でも現に今のボクはイザベラの持つ知識や記憶がいくつか「見える」たぶんこれがヴァルキリーという存在なのだろう。

 先日の薬品の効果も「知っている」し明日二人の来客があることも「知っている」エクエス・オレンジとラショウ・レティキュラータだ。とりあえずその二人には適当に対応しておくか。

 掃除もしないといけないし、このエインヘリャルの能力を暴かないといけない。これから忙しくなりそうだ。

 先の苦労を思いながらも鬱などとは無縁の正の感情に浸りボクは笑んでいた。

番外編の後半です。少し無理をして一話に詰め込んでしまったので若干読みづらい部分があるかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで。

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