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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
ヴァルキリーの秘密
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番外 仙樹の鎖 前編

今回から二話連続で幕間としてペルソナたちの生みの親、コブラ・マルリウス編を投稿します。自身の「過失」によりグレイプニルを追われることとなったラグ鮮の二組目の主人公コブラ・マルリウス。その物語の序章です。

 その日、ボクはいつものように作業を終えて食事をとり、自室で横になっていた。いつものように、といっても他人目に見た事実だけで、内面は後悔や虚無感に支配され続けた一日だった。新型冥狼兵(フェルリルソヴロ)の設計という作業はろくに進まず、ただただ負の感情を抱いては自問自答で押さえ込むことを繰り返していた。

 思考能力を搭載した試作型十体の処分が決まったのは一週間前。でも会議にてそのうち欠陥個体を除く九体をグレイプニル本部が引き取るという話になった。欠陥個体の識別番号は00101。

 もともとこの十体は全てボクが提案し、上司の反対を押し切って十五年間でここまで育て上げた。処分の理由はコストが大きすぎることと実戦での統率が困難なことだった。いつかこのような結論が出ることは薄々わかっていた。兵器とはいえ個体単位で見ればボクたちと何ら変わりないけど、倫理的に問題のある判断をもあっさりと受け入れることができてしまうのがボクがグレイプニルの技術者として採用された理由なんだろう。

 今回も試作型の処分という判断を受け入れるしかないと腹をくくっていた。腹をくくっていたのだけれど、どうしても許せない部分があった。この流れでいくと当然処分されるのは唯一00101だということになる。



 ボクは当時十五歳。ある王国の大臣の息子として育ってきたボクはどうやら親に金で売られグレイプニルに属することになったらしい。任された最初の仕事は、今でいう旧型冥狼兵(フェルリルソヴロ)の設計だった。

 ボクはよく冷静冷酷な男だと周囲に言われていて、自分でもそれを理解していた。

 そんなボクの最初の「作品」はなぜか非効率も甚だしい思考能力搭載型、しかも第一号には秘密裏に自分の遺伝子を混ぜ込むなどという、今の自分では考えもつかない「狂いっぷり」だった。その意味不明な行動のせいで今こうして悩むことを強いられているのであった。



 物理的に自分の分身のようなものである00101を処分するという行為には腹が煮えくり返るような、感じたことのないやるせなさが溢れてくる。哀れむことしかできない無責任な自分に対しても同じような感情が湧き上がる。怒り、哀れみ、疑問、さまざまな感情に押しつぶされそうだ。


 「では、本日の会議を始める」


 部屋の隅に置いた盗聴器の受信機から、ボク一人が呼ばれなかった会議の様子が聞こえてきた。


 「本日の議題は、『コブラ・マルリウスの処分』についてだ。我々は彼の相次ぐ過失に、グレイプニルへの忠誠が損なわれていることを再確認した上で、今後の対応について議論する」


 やっぱりグレイプニルの幹部なだけはあるなミズガルズ第二支部支部長、察しがいい。こうなったらボクはもう用済みだってことだね。今のうちに支度してここから逃げ出そう。グレイプニルとは決別する…いや駄目だ。事実上の肉親である00101を見捨てて逃げ出すようなことがあればボクは本当に屑になってしまう。無駄に葛藤する自分の優柔不断さへの苛つきも最高潮に達し、自暴自棄に陥りかけたその時…


 「なんだと?冥狼兵(フェルリルソヴロ)が脱走しただと!?識別番号は…00101か、おのれマルリウス。こんな欠陥品を扱わせおって…」


 「私たちが出ます。出動許可を」


 「君は確か…本部特務隊のトゥジェルシー君か。よし、隊長殿と共に出動せよ!必ず欠陥品を捕らえるのだ」


 脱走した?00101も自分の死期に抗おうとしているのか。…フフ、どさくさに紛れてボクも消えさせてもらうとするか。留まる理由もなくなった。

 とはいっても大量の私物をまとめるのには時間がかかる。幸いにも101捕獲に兵が総動員されているから脱出は容易いけど、間に合うかな?


 数分後、荷物を持って誰にも見つからずに裏口まで来ることに成功した。さらばグレイプニル…


 「そこにいるのはコブラか。一体何をしようとしている」


 正面の戸が開き、二人の戦闘員が。


 「先ほどの会議を盗聴していたのならあなたが何をしようとしているのか、私にはわかります。つまり」


 トゥジェルシーが専用の糸剣の肢に手をかける。

 まずいな。トゥジェルシーが能力を使えば、いや使わなくてもボクなど一瞬で肉片と化する。


 「まあよせトゥジェルシー。彼は私の友人だ。私は会議のことは知らないが数少ない友人のやろうとしていることなら少しぐらい黙認することも悪くはない」


 ビキール、相変わらず穏やかな物腰からは考えられないほどに破天荒なことを言う。何を考えているのかわからないやつだ。


 「ありがとうビキール。心から感謝するよ。ところでだが」


 「何か聞きたいことでもあるのか」


 「00101は…」


 「逃げた、というより逃した。ヴァルキリーだ」


 「ヴァルキリーか、そうか。よかった…」


 「その通り。本当によかった」


 すれ違いざまにビキールは不敵な笑みを浮かべた。その真意について今はまだ考える必要はないだろう。



 十五年間生きてきたミズガルズ第二支部を後にしてボクは歩き出した。


 

人物紹介

【エクエス・オレンジ】

・金色の髪と琥珀色の瞳、発電細胞を持つ妖界族(エルフ)の名門オレンジ家の一員

・長身で威圧的な雰囲気だが性格は明るい

・私情からオレンジ家とは縁を切っている

・秘密主義でシグルドやリーテにも素性を明かそうとしない

・エインヘリャル能力は「細胞活性化」

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