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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
ヴァルキリーの秘密
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第20話 ヨトゥンヘイム

人物紹介

【リーテ・レティキュラータ】

狂血族(ベルセルク)の父と黒畏族(スルト)の母を持つ16歳の少女

・長い黒髪と深紅の眼を持つ。

・両種族の特性を受け継いでいるため、ある組織から狙われている

・育った環境故に男勝りで少しがさつな性格だが激情化の際は打って変わって冷静沈着、それでいて妙な妖艶さを纏うようになる

・グレイプニルに上層部に兄がいる

・エインヘリャルの能力は「噴火」

 イザベラ・カンナといったか。この少女、いや幼女といったほうが近いかもしれない。初対面のはずだが前にどこかで会ったような気がする。俺の識別番号を知っているのもそうだし、口調に聞き覚えがある。無理に冷静ぶろうとするがすぐにボロを出し、結果たどたどしくなる。

 ちょうど冥狼兵(フェンリルソヴロ)発明者のコブラ・マルリウスがこんな話し方をしていたのは記憶にもそう古くない。


 「さて、どうも状況が緊迫しすぎてたみたいだったから能力を使わせてもらったが思った以上に効くんだね」


 幼女は武装したまま倒れているエクエスとイステルの姉、重なって倒れているシグルド、リーテ、イステルを交互に見ると、ため息をついた。

 それから片手ずつを双方に指すと、付近の地面が小さく盛り上がった。


 「何をする気だ」


 「ボクはあまり手段を選ぶほうではないが手荒なことは嫌いでね」


 地面の盛り上がりを突き破って例のツタが伸びてくる。

 ツタを倒れている五人の身体に巻きつけるとそれぞれを持ち上げ、揃えて安置する。


 『悪い子じゃないみたい。でもここってグレイプニルの支部よね。他に誰もいなさそうだし、なんでこんな子が一人で…』


 幼女はジュリィの声が聞こえたかのように眉をひそめ、抗議する。


 「言っとくけど、ボクはこれでも三十歳だ。ってあれ?いや違う…ごめん二十代前半だ。それと、ここはヨトゥンヘイム小支部。構成員はボク一人だけ、言わば牢獄の様な場所さ」


 聞いたことがあるな。ヨトゥンヘイム小支部は臣界族(ヨトゥン)が自らの文明を一度捨てて種族ごとやり直そうとした際に残された廃墟でエインヘリャルの研究をしている未公認の支部だ。構成員が一人しかいないとは初耳だったが。


 『やけに言い間違えが多いわね。まるで違う自分を演じてるみたい。こんな若いヒトががグレイプニル上層部が見込んだ研究者だったとは驚いたわね…』


 「君の中にいるもう一人の人格はきっと今、『こんな若いヒトがグレイプニル上層部に見込まれた人材なのか』などと驚いていたりするのだろう?」


 唐突な指摘に全身が固まる。ジュリィのことを認識している?なんだかんだでエクエスたちにも話していなかったことだが、なぜ初対面のイザベラ・カンナは俺たちの関係に気づいたんだ。

 深く深呼吸したイザベラは「これは大切なことだから」とつぶやいて座り込んだ。同時に俺にも瓦礫の一つに腰掛けるよう促した。

 そして神妙な表情で俺と目を合わせると、ゆっくりと、こちらが聞き漏らさないよう気を使いながら話し始めた。


 「キミは自分のエインヘリャルにより生まれる能力が他人のものとは少し違うということに気づいていることだろう。複雑な能力のカタチを造ったり、他の能力を和らげたりする、といったところか。それにはキミのもう一つの人格が関わっていることも薄々わかっているはずだ」


 俺がここにいる経緯を全て知っているかのような語り口である。


 「簡潔に言うとキミもボクと同じ『ヴァルキリー』の能力を授かった者、ということだ」


 『ヴァルキリー?さっきも言ってたけどなんのことかしら』


 「ヴァルキリーとは、なんらかの原因で一つのエインヘリャルに二人分の精神をつないでいる状態のことだ。本来起こるはずのない現象だがごく稀にそういうことがあるんだ。二人分の精神といっても主に二つのパターンがある。ボクは自分とキミを含めて四人のヴァルキリーを知ってるけど、一つ目のパターンは極端な二重人格、もう一つは二人が極限状態の時に同時にエインヘリャルにつながるというパターン。キミは前者なんだと思う」


 二重人格という言葉は合っているようでそうではない気がする。俺の場合は自分側に原因があるのではない。だがそもそもジュリィが意思を縫いつけられた特異なエインヘリャルだということに心当たりがある。

 

 「何にしろ自分がヴァルキリーの能力者だということは極力他人に明かさないことをお勧めする。特にグレイプニルにはヴァルキリー管理の専門部隊があると聞く。キミが勝ち取った人生だから自由に生きたいだろう?ボクはできる限り質問に答えるし、同じ立場なんだから信頼してもらって結構だよ」


 ならイザベラはグレイプニルの中にいながら自分がヴァルキリーだということを隠し続けているのか。

 質問…真っ先に頭に浮かんだのはグレイプニル・ミズガルズ第二支部の近くで出会った二人組の戦闘員だ。


 「くせ毛で無気力な男と金髪長身で両目違いの女を知ってるか?両者共にエインヘリャルの使用者だ」


 するとイザベラは予想外の質問だったというように軽く動揺したが、自分の約束通りすぐに口を開いた。


 「ビキールとトゥジェルシーだね。キミが脱走兵であるにもかかわらず生き延びられたということは、あの二人はキミがヴァルキリーだと知っているのか…」


 「あの二人にはボクから口止めしておくよ。でもあの二人もグレイプニルの戦闘員だ。何があっても心を許したりはしないほうがいい。念のために言っておくが、能力はそれぞれ『認識不可』と『硬質化』。加えてトゥジェルシーは超特異体質により多くの種族の特性を併せ持っている。ヴァルキリーでもないと絶対に勝てない相手だ」


 存在を認識されない能力と硬質化した超極細糸による斬撃、おそらく相当な手練れだ。


 「他に聞きたいことは…


 「アクセル・ロッド」


 エクエスが地面に手をついて起き上がる。その人名を力強く伝えると、立ち上がって剣を手に取った。


 「う…わかったわかった、『あれ』のことも教えるから物騒な真似はやめてくれ」


 「前会った時、アクセルは手に入れておく、などと言ってたよな?それが取り引きの内容だ」


 「取り引き?なんだっけそれ…ああ、取り引きね」


 虚空を見つめて答えるが、確信を感じない。何があったのかはわからないがイザベラ・カンナ、人目にも様子がおかしい。


 「つ、次までには手に入れておくよ。だからエクエス…エクエスさんもまだ取り引きに応じなくてもいい。それでどうだ」

 

 「仕方ないならそれでもいいが…お前が苦労するだけだぞ」


 「じゃあそういうことで頼むよ。ってもうこんな時間だ。悪いがこれから来客なんで帰ってもらいたい」


 まだ眠り込んでいる四人を例のツタで持ち上げるとあの扉の近くまで小走りで移動しする。イザベラは例のツタを使ってミズガルズへの扉を開け、四人を持ち上げたまま扉の外まで送り出す。

 後を追って行こうとしたエクエスに声をかけた。


 「今回ボクはキミの役に立てなかった。そのことはボクに非があるし、素直に謝りたい。代わりと言ってはなんだが、一つ情報をあげよう」


 「情報?今更何を教えてくれるんだ」


 扉の横線、世界と世界の間をまたぐ形になったエクエスは眉をひそめた。


 「今朝ボクたちグレイプニルの幹部に、ニヴルヘイムのとある地点で嵐が凄まじさを増しているという報告が入った。何十年か前に起きた大規模戦闘の跡地だそうだ」


 「それは本当か?だとしたらオレはこの身に変えてでも行かなければならない」


 するとエクエスは目の色を変えて声を上げた。冷静さを失わないエクエスがこんなに血相を変えて取り乱すとは、そこには何があるんだ?


 「ではまた会おう、イザベラ・カンナ。ペルソナも早く来てくれ!」


 言われたようにエクエスの後に続いてヨトゥンヘイムを出ようとした時、


 『イザベラさんにするべき質問がもう一つあるでしょ。いや、もうイザベラ・カンナという名前なのかどうかもわからないか』


 そうだったな。イザベラの話し方はある人物にそっくりだ。しかもヴァルキリーの話、彼女がヴァルキリーなら「いる」んじゃないか。


 「最後に聞く。あなたの精神…コブラ・マルリウス、俺の父親じゃないのか?」

 

 イザベラは目を見開くと、俺のすぐ前に出てきてから少しはにかんだ。


 「あえて答えないことにするよ。それより101…いや、ペルソナ。いい名前をもらったな。キミを縛るものはもうどこにもない。遺伝子だけの繋がりすら…」


 それから俺を扉の外へ両手で突き出す。俺は少しよろめいて手を伸ばそうとするが扉は閉ざされイザベラの姿は見えなくなった。

 また力尽くで扉をこじ開けてみるが、そこには港町エーギル沿岸の群青色が広がるだけだった。

ペルソナがヴァルキリーのとは何かを知り、エクエスの新たな目的のために動き出す、というところでこの章は終わりとさせていただきます。ではまた次週。

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