第15話 プロトタイプ
ペルソナって達観していて冷酷なようですが、実はとても前向きな性格だったりします。弟妹に情が浅いのは立場上仕方ないことなのですが、過去とは決別しようとしていながらも弟妹達のことは「どこかで生き残っていてほしい」と心の底では切実に願っていたりするのです。
突如加えられた打撃。鈍い音と痛みに顔をしかめる。次いで102は俺の腹を打った右腕を引き、代わりに左の回し蹴りを飛ばす。それを右手で受ける。
『大丈夫なの?パワー型の102の攻撃を右手で受け止めるなんて』
もし俺が110のような軽量化モデルだったら今の一撃で戦闘不能になっていただろう。しかし俺は今もこうして立っている。ダメージもない。俺は見た目こそ違うが102と同じパワー型モデルだ。もっとも、特化しているわけではないから打ち合いには弱いが。
左手に炎を纏わせ102に打ち込む。相手は全く動じないが、エネルギーが拳を通して102に流れる。反動を利用し少し間を空けると、102に留まったエネルギーが爆発し、怯む。
その時にはすでに悟っていた。102のさっきの異様なまでの初速…
『エインヘリャルね。能力は加速系、パワー型の102とは相性がいいわ』
ああ、だが幸いにも俺たちには相手のエインヘリャルの効果が薄れる。なぜかはわからんがグレイプニル上級戦闘員やシグルドの奇襲も乗り切ることができた。
しかしこの数を相手にするのは難しい。リーテが目覚めることに頼らざるを得ないか、それとも…
七人から成る布陣の後方、106に押さえつけられているエルフの少女。彼女をこちら側につければ戦況が変わるかもしれない。
『どちらにしても一人の力でどうにかなる場面じゃないわね』
リーテの位置を確認する。よし、問題ない。目標は少女の奪還、そしてここに戻り、リーテが目覚めるまで壁を張るなりして持ちこたえよう。
『了解。あたしの力をあなたに』
「『鮮情炎上、ブリュンヒルデ!!」』
火柱が立ち昇る。炎を身体の動力に代えるから特によく動く部分、手足に高密度の炎を纏わせる。
「何をしても無駄だ兄者よ」
102が飛びかかってくる。やはり加速系エインヘリャルが効いているらしく、軽減されているとはいえ凄まじい速さだ。それに加え、腰の鞘から長刀を引き抜き迫ってくる。
四肢の炎の概念を操作し硬化させ、一閃を防ぐ。
「なぜ『光速移動』を見切れた?」
大きく動揺した102に俺の両腕部分の炎のエネルギー全てを注ぎ込み爆発させる。すると102は大きく仰け反り隙が生まれた。102をすり抜けて残りの弟妹の陣へ突っ込む。前衛の何人かを突き飛ばして106とエルフの元へ。
「に、兄さん!?なんで」
「悪いな106、この子はもらっていく」
少女を負ぶって足の炎を燃焼させる。爆発的な脚力で飛び退き、そのままリーテのところへ戻る。
「えっちょっと!何するのよ!」
少女は俺の背中で暴れ、何度か叩いた。
小柄な体躯らしく、薄々期待していた感触はなかったが、これはこれでいいものだと口元を緩める。
『まったく、何やってんだか。とりあえず壁を張るわよ』
102以下七人が忍ばせた銃を乱射してきたが、すべて硬質化させた炎の壁が防いだ。我ながらこの能力は本当に便利だ。
どんな概念を弄るにしても酸素を消費するのが欠点だが屋外での汎用性はかなり高い。
「あなたなんかいなくたって私一人で十分だった…わけないわね。あ、ありがとう101」
腕に巻きついた元鉄の棒を剥がすと、少女は強気に、でも後になるにつれてだんだん弱気にその包帯の内側に隠された目を向けてきた。
「その名で呼ばないでくれ。そもそもなぜその名を知っているんだ?」
「あの人たちが言ってた。じゃあなんて呼べばいいの?」
「ペルソナ・リトリネア。それが俺の新しい名前だ」
「リトリネア?それってアルヴヘイムの…関係ないよね。改めてありがとう、ペルソナ。私はイステル・オレンジ。私のエインヘリャルのせいであの人たちに追われてるの」
イステルははきはきとした声で名乗った。
エルフで姓がオレンジか?エクエスの親戚が何かか。
「んーあれ?あたしは確か…」
聞きなれた声の方を向くと、リーテが目を覚まして頭をさすっている。
「目が覚めたのか!大丈夫か?」
「たぶん大丈夫だと思う。そこの女の子はさっきの」
「イステル・オレンジよ。よろしく。あなたは確かリーテ・レティキュラータね」
「ああそうだ。よろしくな…
その時、炎の壁を引き裂き102の長刀がリーテの肩まで振り下ろされ、リーテの頭をかすめた。なんとか俺の炎の鎧で守ったが、衝撃のせいで腕が痺れて動かなくなった。壁も消え、俺たち三人は正面の敵に身を露呈してしまった。
「無駄だと言っただろう兄者。今すぐその二人を引き渡せ」
俺は腕をやられてまともにやりあうことができない。リーテもまだ意識がはっきりしていない。残るは…
イステルに希望を賭けなければならなくなった。当のイステルはというと…
「102だっけ?あんたたちよくもその小汚い刀でリーテちゃんを傷つけようとしたわね。弱ってる女の子を!」
怒っていた。それも物凄い剣幕で。やはりこの迫力はエクエスに通じるものがある。
なぜイステルが初対面のリーテのためにそこまで怒れるのかはよくわからなかったが、その迫力から感じるのは紛れもない「勝機」だった。
イステルは立ち上がり前を見据えて静かに俺に問いかけた。
「ねえペルソナ、私がこの人たちに追われてる理由…覚えてる?」
「エインヘリャルのせい、とか言ってたな。君がエルフだということとは関係ないようだが」
「私が異世界の住人だっていうことはまた別の話。そんな問題すら些細に感じられる能力、それが私のエインヘリャル」
イステルは後頭部の大きなリボン状になった包帯の結び目を掴んだ。それだけで結び目は解け、右手に掴まれた一本の細長い布が潮風になびいている。
次の瞬間、布は形を崩し白い粉となり、風に散らされて消えた。
『消えた?いえ、分解されたのかしら』
露わになったイステルの目は被さった太陽と同じ色、エクエスと同じ色。その視線の先の102他側に緊張が走る。
不意の銃声、109が得意の早打ちで先に仕掛けた。銃口はぴったりイステルの額に向いていた。しかしイステルには何の変化もない。
109はもう一発銃弾を放った。だが弾は着弾と同時に灰色の粉と化し包帯同様大気に溶け込んだ。
イステルは駆け出し、腕を振り回しながら冥狼兵に突っ込んだ。さすがに全員が回避したが、イステルの腕に触れた磯の岩は削られ、粉が舞い上がった。
「わかった?得体の知れない組織に狙われ恐れられた私の能力は『粉砕』、見て触れたものを粉になるまで砕くことができる。さて、あなたたちの何人が原型を保っていられるでしょうね!」
語句紹介
【冥狼兵】
・全世界に数十存在する種族の一つ
・グレイプニルの技術者マルリウス・コブラが二十年ほど前にある目的のために「開発」した
・テスト中の新型と廃棄予定の旧型があり、旧型には新型を作るために様々なモデルがある
・旧型の一部のモデルを除き意思はなく、グレイプニルによって管理されている
・グレイプニル上位戦闘員を参考にした最も効率的な筋肉の配置になっている
・真皮に特殊な金属が大量に溶け込んでいて戦闘時には肉体を硬化できる




