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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
血と種と新世界
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第12話 心潤す濡れ髪

 ミズガルズ三日目、俺がニヴルヘイム支部の非正規の構成員となってから四度目に迎えた朝は少し冷えていたが、これからの酷暑を考えると快適といえるのかもしれない。

 朝とはいってもかなりの早朝のようだ。まだ外は暗い。だが、海辺の町ということもありこんな時間から賑わっている。寝起きがいいほうではない俺がこんな早くに起きたのは

 背伸びをして開ききらない目の代わりに耳をすますが、外の声以外に音はしない。どうやら俺以外に起きている者はいないらしい。

 昨晩各々が寝入った場所を確認していく。なぜかエクエスの姿がない。不用心な仰向けで机の上に手足をはみ出させ寝っ転がっているのがシグルド。次にベッドに寝かされたリーテが目についた。昨晩の騒動や、普段の男勝りな性格を忘れさせるような穏やかな寝息を立てている。

 何かに惹かれ気がつくとその顔を間近で拝む位置に来ていた。少し開いた口元から覗く八重歯、水で濯いだだけなのに艶のある長い黒髪とそれに対照的な白い肌。たった一枚身体の線を揺らがせるネグリジェは俺の理性と野生の境界線を揺るがせた。

 こういった場面では、ある衝動に駆られることがあるということは知っている。俺は今までなるべく感情を露呈させた行動は控えてきたのだが、いざリーテの無防備な姿を見るとそんな取り決めなどどうでもいいと思える。


 『でも考えることは冷静なのね。それって一番危ない思考方法な気がする…ってちょっと服脱ぐのっ!?』


 自分の深層心理には逆らえんさ。君も俺と思考を共有しているならわかるだろ?


 『確かにあたしがあなたの立場なら躊躇なくそうするでしょうね。そりゃあもう男でも女でも関係なく。…でも』


 ん?なんのことだ?


 『躊躇ぐらいはしたほうがいいかも。後のことを考えると…ね』


 背後に恐ろしい殺気を感じた。ねじ込まれんとする銃口の形、影の長さからそれはシグルドだとわかる。


 「今何をしようとしていたか…言え!」


 えーっと。


 「今何をしようとしていたか…言え!」


 「い、いやぁ、リーテがまありにも薄着だったし、日が昇って暖かくなるのにはまだ時間がかかるから俺の服をかぶせてあげようかと」


 「はあ?」


 『はあ?』


 シグルドの声と頭の中に響くジュリィの声が重なった。


 「本当か?淫らなことを考えていたんじゃないのか」


 『そうよそうよ。襲おうとかしてたんでしょ』


 「そんなことするはずがないだろ。確かによからぬことを考えていなかったのかと聞かれれば嘘ではないが、俺にそんな行動力はない。シグルドはいつ起きたんだ」


 「僕が起きて一番に目に入ったのがお前がリーテの前で異常なにやけ顏を晒しながら服を脱ぐ姿だ。黙って見てるわけにはいかないだろ」


 別ににやけてたわけじゃなく、もともとこういう顔なんだけどな。一つわかってほしいのは、俺は軽率な行動はしないということだ。


 「ただ美しいものを眺め続けたいという思いこそ俺の欲求だ」


 「お前…わかってるじゃないか…」


 急にシグルドの声が震えだした。銃を持つ手も震え、滑り落とした。それに気づかず俺のもとへかけ寄り膝をついた。

 これはまさか。

 シグルドの広げられた手は俺を包み込み、抜け出す隙間がなかった。


 「やっぱりお前もそう思うよな。リーテの寝顔、この世の何よりも美しい、愛おしい」


 「いまさら何を言ってるんだよ」


 『うわー』


 「だってエクエスはリーテの父親みたいなもんだからなんか話しにくくてさ」


 エクエス?そういえばエクエスは俺が目を覚ました時からいなかったな。


 「エクエスがいない?どういうことだ?」


 『今気づいたの?ペルソナもシグルドも一つのことに夢中になると周りが見えなくなるっていう点は似てるのね』


 一見全く違うようだが根本ではそっくりなのかもしれない。

 そんなことを考えながら視線を上げると、部屋の出入り口の扉に白い紙が貼ってあるのに気がついた。書き置きだ。


 「俺は用事があるから数日留守にする。その間お前たちはこの宿に泊まって買い出しをしてくれ。要るものは下に書いてある。…………」


 それから下には食料などに紛れてよくわからない単語が並んでいた。


 「ああ、それは僕たちがわかる。にしてもどこへ行ったんだろうな」


 「エクエスがどこへ行ったか知らないのか?」


 「エクエスとは長い間一緒にいるが、いまだに謎が多い。僕やリーテにも多くを語ることはなかった」


 極端な秘密主義なのか。エクエスはグレイプニル本部の真意を知るために活動している…他の目的もあるかもしれないが…と言っていたが、俺はまずエクエスのことを知る必要がある。


 

 「んんぅ、あれ?みんなもう起きたのか。早いんだな」


 リーテが起きたようだ。右手で目をこすりながら左手を高く上げ、背伸びをした。


 「みんな起きたみたいだな。じゃあ少し早いが朝飯にするか」


 「なんでシグルドはそんなにニコニコしてるんだ?何かいいことでもあったのか?」


 無邪気に問いかけるリーテに、「少しね」と笑顔で返すシグルド。

 これが普段の光景なのかとはっきりしたような、でもモヤモヤしたような複雑なものを感じながら腰を上げ、一階の食卓へ向かった。


 

 ちょっとした都合でいつもより遅い時間の投稿になりましたが、私は元気です()

 この物語にはカタカナ語が多いので、次回からはここを語句紹介のコーナーにしたいと思います。

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