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ラグナロクの鮮情  作者: 卯月 光
血と種と新世界
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第9話 門の先に

 「まったく、こんな大事な日に筋肉痛でろくに動けんとは…冥狼兵(フェンリルソヴロ)とはその程度のものなのか」

 

 見下したようなシグルドの態度に苛つきを覚えながら、紛れもない事実に落胆する。このループを今朝から何度繰り返したことか。

 確かに冥狼兵(フェンリルソヴロ)はちょっとやそっと動いただけで痛めるようなやわな筋肉は持っていない。しかしそれも昨日の運動量なら仕方のないことだ。グレイプニルから逃げるために走り、空を飛び、岩肌を転がる。さらにその後は自分が壊した屋根の修理を延々と行っていた。散々な一日だったことは言うまでもない。

 相手も相手でこの退屈な時間を潰す手段が新人いびりしかないのだろう。


 「おーい二人共、しっかり機械がずれないように見とけよ!少しでも誤差が出たらオレたちの身体は真っ二つだ」


 隣の部屋では、エクエスとリーテが何か機械をいじっている。

 俺とシグルドといえば、針金のようなもので形作られた扉ほどの大きさの四角形と、その頂点にそれぞれ配置されている得体の知れない灰色の塊の間隔などを確認するという作業を続けている。

 どうやらこれが世界間移動の『門』になるものらしい。

 

 『こんな緻密な作業をほぼ全部人力でやっちゃうなんてあのグレイプニル上位戦闘員の力ってすごいのよね』


 案外適当だったのかもしれんがな。その証拠に俺たちはあんな上空に放り出されただろ。


 『そうかもね。でももう一度会ってみたいわね』


 そうだな。というか、会わなくてはいけない気がする。

 その時、作業の全行程終了を知らせるエクエスの声が聞こえた。



 「これはニヴルヘイムのこの穴の外側にある豊富な風を使って激情体並のエネルギーを集める装置だ。オレも今まで何十回と世界間移動をしてきたが、何度やってもこの瞬間は緊張するな」


 「なあエクエス。ほんとに大丈夫なんだろうなー。わたしたちちょん切れたりしないよな」


 「何にしても僕はエクエスとリーテについていくさ。二人の身体がばらばらになって全ての世界に散らばっても僕は全部集めに行く」


 「まず自分の心配をしろよ。まあ失敗した時はその時だ。俺の人生に悔いはない」


 『あなたも変なことは言わないでよね!』


 エクエスがキーボードに手を置き、実行を示すコードを入力する。すると、どこかにつながれたケーブルに目に見えて電流が走り、四角形の枠に帯電していく。頂点の灰色が真っ赤になったとき、四角形の向こう側に見えていた風景が揺らぎ、霧のようなもので隠れてしまった。


 「一瞬でこの門を抜けるんだ。この先はミズガルズの中央大陸、砂漠地帯の中心が設定してある。オレから行こう」


 そう言うと、エクエスは柵を飛び越えるように軽やかに門に突っ込み、消えていった。


 「ほら、わたしたちも行くぞ!」


 リーテに肩を叩かれ、覚悟を決める。後ろにいるシグルドのほうを見ると「早く行け」と目線で促しているのがよくわかった。

 一歩下がり、それを助走として二人同時に一気に跳んだ。

 いろいろな色の光が飛び散ったかと思うと、目の前が真っ暗になった。そう、この感覚だ。

 着地すると、地面に足をとられバランスを崩しそうになる。慌てて立ち直ると、清々しくはっきりした青と黄色のコントラストと、全方位からの熱線が突き刺さった。

 ここがミズガルズ大砂漠。面積だけが大きいとある国の領土。

 でもなんでこんな砂漠のど真ん中に設定したんだ?


 「町だと人に見られたり危険だったりするからだろ」


 後からでてきたシグルドが、自慢げにつぶやいた。


 「ここから北上したら海に出る。そこの町からは別行動だ。オレは人に会いに、お前たちは必要なものの買い出しをそれぞれ担当する」


 俺は全身筋肉痛の身体でこの砂漠を渡りきることができるのだろうか…

 

 あまりにも急な環境の変化で頭がくらくらする。日を遮る雲海下の凍えた大地と日光から逃れることのできない大砂漠。その温度差は計り知れないものだ。世界間移動に慣れているか、よほど身体が丈夫でない限り即座にダウンすることになるだろう。

 後方から流れ出てくるニヴルヘイムの冷気が、不意に止んだ。まさかと思い、気だるい首を後ろへ回す。ただそこには果てしなく青と黄、その二色が交わることなく続いている。


 『「門」はどこへ行ったのかしら』

 

 溜まっていた汗が吹き出る。暑さが拍車をかけ、さらに焦りが増していく。

 耐えきれなくなりこの場の最高責任者の顔を拝むと、なんと俺の顔を見て何食わぬ顔で首を傾げている。俺が混乱する理由がわからないとでも言うように。

 するとエクエスは俺の心中を察したらしく一変し朗らかな笑顔を浮かべた。


 「ああ、門のことか。回路が焼き切れて壊れたから門が消えたんだ」


 焼き切れた?じゃあ俺たちの帰る場所はもう…


 「お前が何を考えているかはなんとなくわかる。あの機械は使い捨てなんだ。とてつもない電力を使うからすぐ壊れるんだよ。安心しろ。こっちで材料を調達してすぐ作れるから」


 エクエスの自信の意味がわかり、胸を撫で下ろしてため息をついた。


 「ほら、わかったらさっさと行くぞ。ノロノロしてたら僕たちここで飢え死にするぞ」


 相変わらず苛つく言い方だが嘘ではない。あまり時間と体力を無駄にしている暇はない。食料は二、三日分しかないしこの暑さだ。

 ただ不安を胸に抱き、一歩を踏み出した。

 


 

 ラグ鮮におけるミズガルズのイメージは、衰退した地球というものだと思っておいてください。基本的に砂漠が広がっていて、わずかな緑地で人々は農耕を営んでいる…みたいな感じです。

 ニヴルヘイムはというと、地球でいう極地と高山を合わせたような環境で、生物はほぼ皆無。

 そのほかにもラグ鮮にはいくつかの世界が登場します。毎週土曜日はぜひお付き合いください!

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