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星の書  作者:
15/15

-15-

 


 -15:Mine Connect-



 声にならない声が、腹と言わず頭と言わず、骨の髄どころか、世界の中心から轟いた。

 自分にこんな悲鳴が出せると思わなかった。

 いや、そもそも……どうして裏方に回ると言った俺の世界に敵が入ってくるんだよ、多核世階よ。


「来るな!」

「逃げるな……!」


 ここまでの計画は成功していたのに、どうしてこうなった。

 孤と記録の世界を取り込んで、分断して各所で弱らせて、それから最後にその核となるところを摘み取ろうという手筈だった。残念すぎることに、敵は、アルマゲストと呼ばれるようになった記録は、消耗するどころか元気一杯、殺意満タン、やる気爆発中で、ついでに頭に血も昇り続けているらしい。


(頼むから見逃してくれ!)


 逃げれば逃げるほど相手の怒りを買うとか、泣いて許しを請う以外にどうしろというのだ。

 こんな状況では俺の世界も生きない、というか敵に迫られて冷静を書いてしまった俺には不可能である。後方支援でしか発揮できない世界の俺には、直接の攻撃手段がない。

 アルマゲストを肩越しに振り返ってみる。

 恐怖の塊――と同時に、少しだけ羨望の姿に見える。

 本当は、俺もああなりたかった。


「この世界を解け!」


 結真来絡がスピードを上げて逃げる。

 それを追いながら苛立ちが増す。

 攻撃してこないのは手段を要さないためか、或いは何か隠し持っているのか、真偽は分からないが、あらゆる攻撃に対応できる自信がある今なら、防御のついでに結真来絡を射止めることもできよう。なのに、ひたすら逃げに徹しているのでは、掴みようが皆無。

 誘導するにしても、どこか感情的な逃避に思える。

 何より、記憶にある結真来絡はあそこまではしたないメッセージを刻む世界ではない。


(他界に繋がるは、足跡を完全に見失う)


 こちらも速度を上げる。

 もはや障壁の世界すら突き破れるであろう、破壊的な速度で流れる。

 シオンと合流するためにも、多核世階の回廊を抜け出すためにも、あらゆる扉への通路を生命としている結真来絡を討つのは必須。

 なぜここへの通路が開いたかは分からない。やはり、罠が完成しているのだろうか。


「お前らをここから出したら創意に何を創り出されるか分かったもんじゃない!」


 過去に逃避行は何度もあった。

 それでも、この速度で逃げるのは初めてで、それに追いついてくるアルマゲストには驚きを禁じ得ない。本当に泣きたいくらいしつこく、それでいて追いつかれた瞬間には終わりしか待っていない。


(交渉してみるか?

 いや、でも創意が……しかし、このまま逃げられる気も……えぇい、どっちの世界に付くべきだ!?)


 創意を喜ばせるか、アルマゲスト達の行方を見守るか。

 そもそも俺はどうしたい。

 多核世階を信頼し、共に亜生へと変質し、これまで歩んできた。

 創意の側を見限るということは、多核世階をも裏切ってしまう。

 ……それは、俺じゃない。


「私たちは進むだけだ、邪魔をするな!」


 結真来絡がわずかに速度を落として両手に核心を集めていた。

 何かを生み出すつもりだ。

 彼の性質からどこかへ繋がる通路を生み出すのは間違いないが、その先が見えない。

 別の扉へ逃げるつもりか、或いはただの障害となる壁を創り出すつもりか。


(生かすか?)


 今更ながら思い至った。

 いまあらゆる世界への通路を絶ったら、シオンは閉じ込められてしまうのだろうか。


「取引をしないか?」


 アルマゲストが止まり、結真来絡もその距離を確認して止まり、言葉を重ねる。


「取引?」

「そう、取引!」


 じわじわと距離を詰めてくる終わりが、鼓動を響かせる。

 嫌な感じだった。

 こんなやり方自分じゃないとわかっているのに、これしか方法がない。


「繋がるということはそういうもの」

「お前は、俺を……俺の世界を理解しているのか?」


 理解はしていない。

 きっと似たような選択をしたのであろう、結真来絡の歪んだ顔を見ただけである。

 彼を理解することはできないが、垣間見た。

 結真来絡は、多核世階を捨てられない。


「壊さないでくれ、そうしたら、君の望む道を開く」

「シオンを創意の先へ導いてほしい」


 至近距離で見るアルマゲストが恐怖の塊から、もっと別の物に見えてきた。

 それは全く理解できないものではない。

 互いを支えることで生き延びてきた、そんな隣り合った世界を大切にするアルマゲストを無下にできない。ただし、それは創意から離れるということ。


「創意はあなたに何をした?」


 創意は、一つの道だった。

 在り方を持っていても、それを活かせない我々に方向を示したのだ。あるいは役割か。

 それは多くが納得したことだ。

 アルマゲストとシオン、記憶と個を止めるために真核を発揮したのも一例に過ぎない。


「……多核世階はあなたに何をした?」


 確信を持ってアルマゲストは問う。

 諦観してマイン・コネクトは頷く。


「多核世階は」


 分離という純生であった。

 対して信頼という俺は、誰とでも隣り合うことができたが、分離だけ例外だった。

 そんな分離の世界に夢中になって距離を詰めようとしているうちに、彼の孤独と世界観が俺の中に独自に芽生えて強まった。

 あらゆる世界とのつながりを強さと感じる信頼にとって、多核世階は最弱と見えた。

 だが、実際に世界の削り合いともなれば逆転する。

 彼は一方的に他の世界を分断して消し尽くす。対して、俺は対峙する世界を知ってしまい、仕留めきれないことが多々あった。


「俺は、彼の隣に在りたい」


 ある時だった。

 知りすぎて消しきれない相手に追い詰められてしまった時に、分離は助けてくれた。

 弱すぎると言われた。

 だから、お前ほどじゃないと言い返してみた。

 当然、いくつかの純生を巻き込むほど激突した。

 最終的には障壁と庭園の助力を得て話し合いで解決し、それからは競うように他の世界観に干渉し、いつからか消した相手について議論するようになり、気が付けば一緒に手を取り合って対峙する相手を一方的に壊滅させるタッグとなっていた。

 それこそ、万遍の破壊力を持つと言われる創意に認められるほどに。


「道は、通す」

「ならば、創意は私たちが破壊する」


 そう言ったアルマゲストは無表情のままだったが、この距離で感じるアルマゲストとの繋がりに敵意を見い出せない。

 信頼されている。


「その前に、多核世階を止めよう」


 それは、信頼という世界を持ちながら多くを切って来た結真来絡にとって、多核世階以来の本物の繋がりを感じる往来だった。



 →Next.暴滅loac1... . . .

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