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星の書  作者:
14/15

-14-

 予兆をシオンに。


 

 我が見行は果てなき夢。

 標を得て道。

 道を以て可能性。

 可能性に目覚めて形。

 形を知ってこその終わり。

 終わりを解いて、消失。

 消失を用いてこそ我。

 司る終わりは輪郭。


 それならば、この形を持つ我が輪郭は何を意味するのか。


「終わりに触れてみれば分かるんじゃないか?」


 創意は告げた。

 我が力の及ばないこの体、謎を解くには別の力が要る。

 だからこそ、多くを消し去ってきた。

 純正も、亜生も、絶生も、隔たりなく。

 消したことのないものがないという感覚があった。

 間違いかもしれないが、今までにそれを見たことはなかった。

 いつかまだ見たことのない輪郭を消し去る時が来ると信じ、己の本当に到達できる時を夢見て、我が世界はまた、ひとつの世界を消し去る。


 そんな時だった。


「ヒサナギ……シオン?」


 全てが反響する世界で、老骨は言った。

 かつて打ち消したものが復活したと。

 それがいかなる世界か分からなかった。

 知らない輪郭、聞いたことのない世界、力を感じさせない名前。

 困惑は一瞬、すぐ歓喜に変わった。


「消してくる」


 情報をくれた老骨は、背中で反響を差した。


「おめでとう、暴滅渇却。

 君は今度こそ、孤を消し去れるんだ」


 孤という世界を思い出すことはできなかった。






 -14:Vanishing Road & WhiteOut-






 アルマゲストを近くに感じる。

 同時に多核世階、それから思い出した“結真来絡”の存在。

 あの回廊を生みだしたのはその二つの世界で間違いない。問題は、思い出せない別の世界がまだあるということ。

 おそらく最後だと思われる扉の向こうに広がっていたのは純白の世界だった。それも奥行きをくらます程に濃縮された白で、口を大きく開けば流れ込んでくるのではないかと錯覚させる。

 辛うじて、私は平衡を見つけ、出口を探しに首を振る。


「探し物を差し出す前に、ひとつ聞かせて欲しい」


 やって来た彼女を思い出す。

 想減一色、この濃白の中心にして、盲目の世界。

 私の前に立っているらしい彼女だが、いまいち距離感が不可思議すぎて恐怖が宿る。決して好戦的でないだろうという予測はある。どこでそれが裏切られるか分からないのも、また恐怖の要因だった。


「私もかつて、同じ声を聞いた。でも、私には多くが足りなかった」


 ヒトとなることを目指して折られた世界の果てに、彼女は亜生へと落ちた。

 その時は別の世界が抜け出ていったという。


「本当に、外の世界へ行くつもり?」


 頷く。

 私は確信を持っていた。

 この世界には果てがある。しかし、外の世界には果てがない。

 もしかすると果てある世界かもしれないが、ここの世界だけに満足できない自分がいる。

 知りたいし、見たい……いや、触れたいのだ。

 だから、あらゆる状況を私は創り上げて計測したのだ。


「そうだね、結果あなたはターニングによって記憶を消し去られた。おまけにそのターニングは、君が記憶を失って眠っている間に純正から亜生へと変貌を遂げた」


 だから何だというのだ。

 それすらも計測した事象に過ぎない。

 その、はずなのに、震えが止まらないのは何故だろう。


「シグナル。君に一つだけ忠告するけど、創意は何としてでも君を外の世界に出さないつもりでいるらしい」

「あなたもその手先なの?」


 白い世界に濃い、輪郭線が生まれる。

 彼女の意志は強く、いまの言葉を否定した。


「私と避来心は、あなたを見極める為に来た」


 避来心の感触が熱を伝える。

 確かに、避来心はレイラインから私を救い出してくれた気がする。では、過ぎたことだが、避来心がレイラインより前に襲ってきたのは試合だったとでも言うのだろうか。


「もし、他の世界に飲み込まれるようなら私たちがそれを貰い受け、あとで別の……そう、例えば記録の集積場のような、誰も見向きしないようなところで静かに修復させようとも話し合っていた」


 なるほどと、彼女らの思いやりに熱を持った息を吐き出し、歩みを始める。


「ありがとうございます。でも、私はもう止まりません。

 思い出したんです、計測にあなたが落ちたという話を。

 そこで自分が同じ目に遭わないように、どうするかを繰り返し試して成功の絵を見つけたのです」


 特濃の空間を左指でなぞる。

 その手を輪郭化した想減一色が握る。

 見据える彼女の顔は、不安の一色に塗り固められていた。


「だから、だからこそ!

 亜生になった忘却、いえ、ヴァニシングに気をつけないと!

 もう彼は創意の手に余っている、既に絶生への界化が始まっているのよ!」


 純正の世界なら抜けようがある、亜生の世界なら修復はできるという。

 それが彼女らの限界。

 絶生ともなった消滅力をまともに受けて、二度目のチャンスはない。

 だから消えないでほしいと想減一色は言う。


「ごめんなさい」


 握られた左の手が、指先から白色に塗り隠されていく。

 その力を全身で感じ取りながら、私は歩みを止めない。

 やはり、元絶生なだけあり、恐ろしい力を秘めている。


「もう今は私だけじゃない。アルマゲストが待っている」


 右手で避来心の鞘を取り、彼女の前に横に寝せて掲げる。

 白色進行が肘のところで止まる。

 泣き出しそうな顔のまま、想減一色は何かを言いたげに口をかすかに動かすが、聞こえない。


「ありがとうございます、想減一色。

 私は、私たちを構成している情報の全てが、外の世界からやってきているのだと確信した。

 だから、私たちを作った世界というものを感じたい」


 涙が落ちた。色を取り戻した私の左手の甲に、漆黒の滴が。


「感謝するなら、使ってください」


 私の左手の爪が白く染まる。

 何か、とんでもない世界を受け入れてしまった気がするが、私は歩む。

 歩調に呼応して想減一色が扉へと輪郭を変える。

 当面の問題が何かも分かった。

 左手に彼女の波動を感じながら、くぐる扉の枠に書かれた「Good Luck」という綴りに気付くが、その意味するところを今は思い出せない。


(とりあえず、応援してくれてるってことかな?)


 感謝しつつ、次の瞬間には少し苛立った。

 扉の先で驚かされたのだ。

 まさか、この状況の中心に近い、多核世階の背中が目の前に来るとは思っていなかったのだから。




 

 鉄槌はアルマゲストで。


 

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