4 空回りの名探偵
それから数日後。
俺――真司は、公衆電話の前に立っていた。
ポケットの中の小銭を何度も指で確かめる。
家の電話じゃだめだった。母ちゃんに聞かれるかもしれないし、何より、落ち着いて話せる気がしなかった。
受話器を取る。
番号を押す。
呼び出し音が鳴る。
一回、二回、三回――
そのたびに、胸の鼓動が大きくなる。
四回目で、ようやくつながった。
「……はい」
小さな声だった。
「さくらさん?」
「……真司くん?」
名前を呼ばれて、一瞬だけ息が詰まる。
覚えていてくれた。
「今、大丈夫ですか?」
「うん……」
少し間があってから、返事が来る。
「短い時間なら」
その日、俺と麻子は、もう一度さくらの家を訪ねた。
前よりも人は減っていた。
でも、いなくなったわけじゃない。
遠くでこちらを見ている影がある。
ひそひそと囁く声。
完全に終わったわけじゃないのが、はっきりとわかる。
インターホンを押す。
少しして、ドアが開いた。
目の前に立っていたのは――
あのときのステージの上の人とは、まるで別人のような綺堂さくらだった。
髪はまとめられていて、化粧も薄い。
顔色も、どこか青白い。
「……いらっしゃい」
それでも、微笑もうとしてくれる。
部屋の中は静かだった。
テレビは消えていて、電話も今は鳴っていない。
けれど、“音が鳴っていた気配”だけが、どこかに残っているような気がした。
「ごめんね、こんなところまで」
さくらが言う。
「いえ……!」
俺は首を振る。
「何かできること、ないかなって」
そう言いながら、内心では必死だった。
何か、役に立つことを言わなきゃいけない。
助けられる言葉を。
「例えば、その記事のことも……」
俺は続ける。
「ちゃんと説明すれば、きっと――」
「ううん」
さくらは、静かに首を振った。
「たぶん、もう誰も聞いてくれないよ」
その一言は、驚くほどあっさりしていた。
でも、その軽さが逆に重かった。
「でも!」
思わず声が大きくなる。
「本当のこと言えば、絶対わかってくれる人も――」
「いるかもしれないね」
さくらは微笑む。
「でも、いないかもしれない」
俺は言葉を失った。
「ねえ」
さくらが、少しだけ遠くを見る。
「大勢が私のライブに来てくれて、嬉しかった」
「……はい」
「でもね」
少しだけ声が柔らかくなる。
「時々、たった一人のことだけを考えて歌ってたの」
その言葉に、心臓が跳ねる。
「目の前に、その人しかいないみたいに見える瞬間があって」
俺は、何も言えなかった。
「その人が、ちゃんと聴いてくれてるなら、それでいいって思えるの」
静かな声だった。
でも、確かな重みがあった。
――そのとき、ふと思う。
俺が「救いたい」と思っているのは、
本当にこの人のためなのか?
それとも――
憧れの人と関わっている自分に、酔っているだけなんじゃないか?
頭の中が、急に静かになる。
さっきまで必死に考えていた“正しい言葉”が、
全部、的外れなものに思えてくる。
「……俺」
ようやく声を出す。
「何もわかってなかったかもしれません」
自分でも驚くくらい、素直な言葉だった。
さくらは、少しだけ目を見開いて、
それから、やわらかく微笑んだ。
「いいの」
その一言に、救われる。
帰り道。
夕焼けが、やけにまぶしかった。
俺は、ずっと黙っていた。
「真司」
麻子が呼ぶ。
「……ん」
「さっきの」
少しだけ間を置く。
「ちゃんと、自分の言葉だったね」
俺は、少しだけ驚く。
「……そう見えた?」
「うん」
麻子は頷く。
「前より、ずっと」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「なあ」
俺は歩きながら言う。
「俺、さ」
「うん」
「ずっと勘違いしてたかもしれない」
足元の影が、少しずつ伸びていく。
「好きって気持ち、全部同じだと思ってた」
「……うん」
「でも、違うんだな」
うまく言葉にできない。
でも、確かに何かが変わり始めているのがわかる。
そのとき、ふと横を見る。
麻子がいる。
特別なことは何もしていない。
ただ、隣を歩いているだけ。
なのに――
さっきまで見ていたどんな景色よりも、
ずっと自然で、ずっと近く感じた。
「……どうしたの?」
麻子が不思議そうに笑う。
「いや」
俺は少しだけ照れて、前を向く。
「なんでもない」
その“なんでもない”の意味を、
俺はまだ、ちゃんと説明できなかった。
でも――
それが一番大事なものに近づいていることだけは、
なんとなく、わかり始めていた。
今回もアイデアを出してAIが書きました。
今の誹謗中傷はネットですが、この物語の時代は2001年頃なので、こういう形になります。
どちらにしても、誹謗中傷は一方的でデタラメの場合もあると思います。




