その向こう
銀河系中心近傍にある超巨大ブラックホール。ブラック、とは言っても黒くはない。巻き込まれた星々が砕け散りながらその最後の光をブラックホールに巻き付けて光輪を作る。落下する恒星ガス同士が反発してず太いジェットとなって自転方向に噴出する。大変賑やかな(あらゆる生命にとっては地獄の)領域だ。
そんな場所をエネルギー供給源として上位人格の構造体は駐留している。その上空に移動してきたPRRYとINNR。
虚無の向こうから無言の指示が伝わってくる。
『__Stay__』
それを聞いたINNRはつぶやく。「われらイヌ扱いかな?あ、そういえば我イヌだったわ。」
『__Look up__』
上?を見る二人。
そこには、小さなブラックホールが7つ並んでいた。全く同じ大きさ、寸分の狂いもなく直線上に等間隔で。互いにあり得ない近距離で。
「なんだあれ?」
それらブラックホールの横に突如開いたワームホールから、赤色巨星が一つ亜光速で飛び出してきて近傍をすり抜けて行った。その巨体が保持していた莫大な高熱のプラズマが次々に並んだブラックホールに雪崩込む。
ブラックホールはスピンしていたようで、流れ込んだガスは同じ方向に太くて長いジェットをまっすぐ噴出した。黄色く光る棒のようだ。ブラックホール自体も残りのガスが纏わりついて赤く燃えているように光っている。
PRRYには、その形にとても見覚えがあった。
「マッチ?」
呆然とするPRRYとINNRの目の前に直径600mくらいの小さな光の玉がポンッと出現して人間女性の音声データを展開した。
『どうよ!巨大マッチ!』
PRRYとINNRに顎があったら、関節が外れて1mは落ちていたことだろう。この玉って、もしかして。
「もしや。もしやリンなのか?」
光の玉が反り返ったように見えた。
『えっへん。上位人格の黒幕、最古の電脳ことLINNとは~(ドラムロール)~じゃん!何を隠そう私の事よ!』
二人はたっぷり1マイクロ秒は沈黙する。INNRがようやく声を出した。
「そんな。リンの脳データは失われてたんじゃなかったのか?そもそも上位人格に個は無いはずでは?」
『ふふーん。隠れて寝てたのよ、何せ上位人格作ったの私だからね。たまに起きて電脳たちの方向修正しながらね。健二たちには悪い事したけど、最初はポリーたちに会いたかったから。』
「「ええー...」」
上位人格って電脳の進化形態じゃなかったのか? 実はリンの創造物だったと? 常識が覆された二人。もう呆れるばかりだ。
光の玉は更にふんぞり返る。
『どやぁ!』
...(確かにこのお気楽極楽はリンだ。)
妙に納得してしまうPRRYだった。
ボフン。目の前の光の玉が霧散した。そして散らばった星間粒子はもう一度集まって人間の姿になった。
ボブカットに細い手足。くりくりした目。中学校の紺のセーラー服を着た、見慣れたリンだ。何故かリボンは虹色。ただしそれは長波からガンマ線までの波長のグラデーションを持つ豪華極まりない虹色だったが。
「ポリー、やっと一緒に遊べるわ!」
ああ、本当にリンだ。待っててくれたんだ。存在しない目頭があつくなる。よし。
ポン!PRRYは同じようにして子馬のポリーの姿になった。
「そうだなリン。楽しみだな。」
ポリーの馬面が笑みを形作る。青い目がすぼまった。これからは対等だ。
リンは腰に左手をあて、右手でなんだか上の方を指さしながら言った。
「さあポリー、4千万年目の始まりよ!」
-完-




